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【短編】うちの生徒会長は、才色兼備で高嶺の花でみんなの憧れの的なのは分かる、分かるけど……

※こちら、連載版も投稿いたしました!

https://ncode.syosetu.com/n3620hi/

 いつもと変わらない朝。

 いつも通り目を覚ました俺は、いつも通り身支度を済ませると通っている高校へと向かう。

 訳あって、高校入学と同時に一人暮らしをしているのだが、入学して一ヵ月近く経った今ではそんな新生活にも大分慣れてきた。


 そんな、高校生で一人暮らしというちょっと特殊な環境ではあるものの、それでもあとは至って普通の高校一年生である俺は、普通の高校生らしく普通に高校生活を送っているのであった。


 それに、一人暮らしをしているのは別に俺に限った話でもないのだ――。




「おっ! おはよう和也(かずや)ー!」

「ああ、おはよう幹久(みきひさ)!」


 学校の校門をくぐったところで、同じクラスの幹久に声をかけられる。

 俺の名前が伊藤和也(いとうかずや)で、こいつは伊東幹久(いとうみきひさ)

 漢字こそ違うが、同じ苗字って事で入学初日から意気投合した、今ではこの高校へ来て一番の友達だ。

 中肉中背の俺と違い、筋肉質で背も高く、日に焼けていていかにも陽キャな見た目をした幹久は、俺と違って女子からの人気も高い。

 でもそれは、幹久の見た目以上に、クラスメイトと会えばこうして明るく挨拶をしてくれるし、誰とでも分け隔てなく接してくれる明るい性格をしているからこそであり、無条件にモテる奴なんて多分いないのだ。


 だから俺も、そんな幹久と仲良くなれて良かったと思っているし、俺自身、中学までの自分と比べて随分と明るい性格になれたのは幹久のおかげだと思っている。


 まぁ、他にも要因はあるのだけれど……。



「今日は全校集会だっけ? だるいよなぁ」

「まぁな、寝てればよくない?」

「まぁそれもそうなんだけど、あの時間だけは目を見開いてしっかり見てるけどな!」

「あはは、そうか」


 両手で自分の目をひん剥いて、謎のアピールをする幹久に俺は笑ってしまう。

 こうして今日も、いつも通り一日が始まろうとしているのであった。



 ◇



「では次に、生徒会長挨拶」

「はい」


 体育館での全校集会が始まり、司会の教頭先生に呼ばれた生徒会長がゆっくりと檀上へと上がる。

 すると、それまでずっと退屈そうにしていた全校生徒の注目が、一斉に檀上へと集まる。



「おはよう、諸君。生徒会長の篠宮亜理紗(しのみやありさ)だ」


 そして、檀上へ上がった生徒会長が朝の挨拶をすると、体育館の空気が一変する。

 それは、この生徒会長の持つ威厳、そして特別さからくるものだった――。


 何が特別かなんて、言うまでもない。

 うちの高校の生徒会長は、とにかく凛としていて美しいのだ。


 サラサラとした黒の長髪は、いつもキラキラと輝きを放っているように眩しく、透き通るような白い肌に、はっきりとした目鼻筋。

 スラリと伸びた細い足は完璧とも言え、この高校に彼女と匹敵するような生徒は一人もいないと断言出来る。


 そんな、才色兼備の高嶺の花であり、完璧を絵に描いたような全校生徒の憧れの的。

 それこそが我が校の生徒会長こと、篠宮亜理紗なのである。



「――それから、五月も中頃に差し掛かり、そろそろ中間テストの時期だ。いいか諸君、学生である今、勉学に勤しむ事は必ず諸君の将来へと繋がる。だから、たかが定期試験だと侮る事なく、しっかりとテスト本番までに準備をするように。以上だ」


 しかし、生徒会長はそんな寄せられる視線など気にする事なく、今日も全校生徒へ向かって最後に厳しい一言を残して檀上から降りて行く。

 その凛とした佇まいはやっぱり美しいのだが、彼女はこのようにいつだって周囲に対して厳しい姿勢を崩さないのだ。

 それは勿論、生徒会長としての責務を全うしているからこそなのだろうが、正直もう少し気を抜いたところを見せてもいいのになと思わなくもないのであった。


 ――まぁ、そんなところを見せちゃったら、余計生徒会長人気が爆発しちゃうか


 これだけ厳しいからこそ、この程度で収まっているのだし、だからこそ皆彼女に憧れるのだ。

 こうして、今日も美しい生徒会長のスピーチを終えると共に、今日の全校集会も無事終了したのであった。



 ◇



 終業のチャイムが鳴る。

 今日も一日、つつがなく授業を受け終えた俺は、部活に所属しているわけでもないためこのまま下校する。

 そんなに大変なわけではないのだが、一人暮らしというのは手放しには成り立たないのだ。

 ひと月の限られた予算の中で、食材や日用品を買ったりと、色々とやり繰りをしないと生きていけないわけで。


 だから俺は、今日も帰りに近所の安売りスーパーへ寄って買い物を済ませなければならないのだ。


 幹久と別れの挨拶を交わした俺は、一人校門へと向かって歩く。

 すると何だろう、何故か校門付近に生徒会の面々が立っている事に気付いた。


 ――ん? 何やってるんだろう?


 そんな疑問を抱きつつも、校門をくぐらない事には家にも帰れないため、校門へと近付いていく。



「そこ、自転車の二人乗りは禁止だ!」

「す、すみません!」


 すると、自転車に二人乗りしている生徒を注意する生徒会長。

 なるほど、どうやら彼らはここで挨拶活動をすると共に、生徒指導も行っているようだった。


 生徒会、特に生徒会長に挨拶をされた生徒は、男女関係無く嬉しそうにしていた。

 そんな光景でも、やっぱりうちの生徒会長の人気の高さが窺えた。



「会長! さようなら!」

「うむ、気を付けて帰るのだぞ」

「ありがとうございます! キャー!」


 こんな風に、憧れの的である生徒会長に声をかけられるだけでも皆嬉しいのだ。

 だから、ここは俺もそんな生徒会長へ帰りの挨拶をしていく事にした。



「さようなら、会長」

「ああ、気を付けて帰るのにゃ――」


 ――にゃ?


 しかし、俺の挨拶に対して先程と同じように受け答えをする会長だが、何故か語尾を噛んでしまう。

 そしてそれが恥ずかしかったのか、あの氷のように凛とした佇まいの会長の顔が、真っ赤に染まっていくのが分かった。


 何だか申し訳なくなった俺は、そのまま他の生徒会メンバーにも軽く挨拶を告げて帰る事にした。

 そんな俺の事を、会長はやっぱり顔を赤くしながらじっと見てきている事には気付いていたけれど、ここは敢えて触れないでおく事にした。



 それから、無事スーパーで食材を買う事の出来た俺は、帰宅後早々に夜ご飯の支度に取り掛かる。

 今日は金曜日だし、明日は家で三食食べないといけない事も見越してカレーを作る事にした。


 温めるだけですぐに食べられるし、作るのも簡単で美味しさの割に安上がりという、一人暮らしを始めてカレーの凄さに気付かされた。

 流石に毎日は辛いけれど、きっと全国の一人暮らしをする人達の強い味方に違いないな。

 そんな事を考えながら作っていると、あっという間にカレーが完成した。

 本当はもう少し煮込んだ方が美味しいのだが、それは明日のお楽しみだ。


 というわけで、今日はご飯を食べたら生徒会長の言う通り、中間テストへ向けて勉強もしないとだよなぁと思っていると、突然家の呼び鈴が鳴る。


 ピンポーン! ドンドンドン!


 そして、呼び鈴を鳴らしておきながらドンドンと叩かれる家の扉。

 築浅のしっかりとした物件に住んでいるため、扉をこじ開けられるなんて事は無いとは思うが、一応俺はインターホンのモニターを確認し、それが知人である事を確認すると仕方なく玄関を開けてあげる。



「もう、呼び鈴で分かるから扉は叩かないでよ……」

「かーずくぅーーん!!!!」


 やれやれと玄関を開けると、外で待っていた人物はいきなり勢いよく抱きついてくる。

 その全身タックルのような勢いにバランスを崩すと、そのまま押し倒される形で玄関に倒れてしまう。



「いたたたっ! ちょっと落ち着いて」

「かずくぅーん!! お腹空いたぁー!!」

「はいはい、カレー出来てるから」

「クンクン! はっ! 本当だ!? これは絶対に美味しいやつの香りだねっ!」


 そして飛びついて来た人物は、カレーの匂いに反応すると、嬉しそうに我が物顔で家の中へとあがってくるのであった。


 ――本当に、この人は学校とのギャップありすぎないかな


 そう、こんな風にドンドンと人の家の扉を叩き、そして嬉しそうに飛びついて来たかと思えば、カレーの香りに誘われて勝手に部屋に上がり込んできた人物。


 その人物の名を言ったところで、きっと誰も信じられないだろう。

 何故ならば、それはうちの高校で生徒会長を務める、才色兼備で高嶺の花の篠宮亜理紗その人だからである――。



 ◇



「ごちそうさまでした! かずくん!」

「はいはい、どういたしまして」


 ペロリとカレーを食べ終えた篠宮亜理紗ことあーちゃんは、ぐっと伸びをするとそのまま人のベッドで横になり、そして転がっていた漫画を手に取り読みだす。


 何故、生徒会長がここでこんな事をしているのかというと、俺と会長は所謂幼馴染というやつで、そしてまぁ色々あるのだが会長もまた同じこのアパートの隣の部屋で一人暮らしをしているのである。


 だからこうして、暇さえあれば幼馴染である俺の家に押しかけては、こうして自由に羽を伸ばしていくのであった。

 そもそも俺がこのアパートへ引っ越してきたのも、幼馴染のあーちゃんが暮らしているから安心だというのもあるのだ。


 しかし、実態はこの篠宮亜理紗という子は、学校では才色兼備の高嶺の花で通っていても、家ではこのように駄目人間なのである。



「ねぇかずくん! ゲームしよ! この前のパズルのやつ!」

「駄目だよ、これから勉強するから」

「えー、勉強なんてしないでいいよー! 今日はせっかくの華金だよ? 大丈夫?」


 大丈夫って、今朝朝礼で全校生徒に向かって勉学に勤しむようにと言っていたのはどこの誰だろうか。


 全校生徒へ厳しい言葉を投げかけた張本人は、現在ベッドで横になりながら漫画を読み、それはもう分かりやすいぶーたれ顔で不満そうにしているのであった。



「中間テスト近いんでしょ?」

「そんなのどうでもいいよー、たかがテストでしょ?」

「いやいや、どの口が言うのさ」

「んー、それはあれだよ、本音と建て前ってやつ?」


 ペロリと舌を出しながら、面白そうにお道化るあーちゃん。

 本当にこの人は、どうしたものだろうか。



「とりあえず俺は勉強するから、漫画でも読んでなよ」

「むー!」


 とりあえず、こんな駄目生徒会長に付き合っていては成績が下がる一方なので、俺は無視して勉強をする事にした。

 テーブルの上に教科書を広げ勉強を始めようとしていると、ベッドから起き上がったあーちゃんがすすすっと近付いて来たかと思えば、すぐ隣にちょこんと座る。


 今度は一体何を企んでいるのかと少し警戒していると、なんとあーちゃんはそのまま勉強する俺に隣から抱きついて来た。



「……ごめん、これじゃ勉強出来ないんだけど」

「酷いよかずくん、私がいるのに無視して勉強するなんてっ!」


 ウソ泣きをしながら、ぎゅっと抱きついて離れようとしないあーちゃん。

 これではどうしようもないため、俺は作戦を変更する。



「じゃあさ、ここは頭の良いあーちゃんに勉強教えて貰いたいなぁ」

「やだ! 今日はゲームぅ!!」

「教えてくれたら、何でもお願い事一つだけ聞いてあげようと思ったんだけどなぁ」

「で、どこが分からないのかな」


 俺の一言で、180度態度を変えたあーちゃんは、一瞬にして生徒会長モードへと切り替わる。

 そしてそれからは、本当に分かりやすく勉強を教えて貰えたおかげで、苦手だったところもしっかりと学ぶことが出来た。


 こんなだが、腐っても生徒会長のあーちゃんは、これまでずっと学年で一位をキープしているのだから信じられない。

 本人いわく、授業を聞いていれば分かるとの事で、どうやらそもそもの出来が平凡な俺とは全然違うようだ。


 こうして二時間、みっちりとあーちゃん指導のもと勉強をした俺は、流石に疲れたし今日はここまでにしておく事にした。



「ありがとう、かなり勉強捗ったよ」

「ふふん、私直々に勉強を教えて貰えるのなんて、かずくんだけの特権だからね!」


 素直に感謝を告げると、それはもう得意顔で偉ぶるあーちゃん。

 しかし、それは本当にそうなので、俺はもう感謝するしかなかった。



「ふぁー、勉強したら眠たくなってきちゃったな」

「ん? かずくんもう寝ちゃうの?」

「ああ、うん。ゲームやりたかった?」


 俺が眠そうにすると、露骨に残念そうにするあーちゃん。

 俺としても、勉強を教えてくれたわけだし、ちょっとぐらいゲームに付き合ってあげる気持ちはあったのだが、流石に眠気には勝てなかった。


 だが、残念がっているのかと思えばそうでも無さそうで、何故か不敵な笑みを浮かべるあーちゃん。



「……じゃあ、さっそくさっきのお願い事使っちゃおうかな」


 そしてあーちゃんは、完全に何か企んでいる顔で、勉強を教えた事で手にしたお願い事を早速発動させる。





「――伊藤くん。その、なんだ。寝る前に、一緒にお風呂へ入ろうじゃないか!」

「あーちゃん? 会長モードで言っても、それは却下だよ?」



 何を言い出すかと思えば、それは案の定いつものあーちゃんだった。

 断られることを見越して生徒会長モードで言っても、駄目なものは駄目だ。



「ひどいよ! 何でも良いって言ったぁ!」

「はいはい、もう遅いからあーちゃんもそろそろお風呂入ってきたら」


 俺の言葉に、話が違うと思いっきりぶーたれるあーちゃん。

 本当にこの人は、昼間とは別人すぎやしないだろうか。

 親に断りを入れて高校生が一人暮らしをしている以上、いくらなんでも節度というものがあるだろう。





「……じゃ、じゃあ、お風呂入ってきたら、今日は一緒に寝たいです」

「……まぁ、それなら……分かったよ」




 そして、代わりにあーちゃんは恥ずかしそうにそんなお願いをしてくる。

 そんなお願い事ならと、俺も恥ずかしいながらもオーケーする。


 こうして、明日は土曜日で休みな事もあり、今日はあーちゃんがうちに泊まっていく事となったのであった。





 俺達の関係?

 それは勿論、幼馴染の関係を越えて、今では彼氏と彼女の関係である。


 けれどこの事は、学校では厳しい生徒会長で通している事もあるため、今はまだ、誰にも秘密にしているのであった――。



楽しんで頂けましたでしょうか?

隣人ラブコメでもないのですが、ちょっとこんな感じの書きたくなって書かせて頂きました。

ギャップのあるヒロイン、いいですよね……w


※連載版も投稿いたしました!

https://ncode.syosetu.com/n3620hi/


面白いと思って頂けましたら、良ければ評価など頂けると嬉しいです!

評価は下の☆マークからです!


以下、宣伝です!

この度、現在執筆中である「クラスメイトの元アイドルが、とにかく挙動不審なんです。」という作品の書籍化の情報が解禁されました!


レーベルはマイクロマガジン社様のGCN文庫で、2022年1月20日発売予定となります!

まだ新しいレーベルですが、転スラでお馴染みのGCノベルズの兄弟レーベルになります!

また、イラストレーターはkr木先生にご担当頂いております。


もし本作面白いと思って頂けましたら、書籍はともかくこちらも楽しんで頂けたら嬉しいです!


以上、宣伝失礼しました!

他にも色々と執筆しておりますので、宜しくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[一言] とっても続きが気になりますね(・∀・) そして安定のカレー
[良い点] くそっ… くやしいが、カワイイなっ! [一言] あーっ、学校のみんなにバラシてやりたい…
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