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51 憂鬱な修学旅行

 「なあ、佐々木の表情が一段と曇ってないか?」

 「まあ、3日も離れるんだもん。そりゃあ落ち込むだろうな」

 「お前は一体何の話をしようとしてるんだ?」

 

 新幹線に乗り、そこで俺は柾と結城に挟まれて座っている。

 三人掛けの席があってくれて助かった。

 

 「それにしても、着くまでに2時間か」

 「結城は乗り物酔い平気か?」 

 「まあ、外を見ている分にはね。でも、流石に本を読んだりゲームしたいっていうのは無理かな」

 「なんだ、遥斗でも苦手なものはあったか!」

 

 結城の弱点(?)を見つけて柾が少し喜んでいる。

 柾に弱点を見つけられるとあとあと少し面倒になる。

 だから俺はなるべくその弱点を見せないようにしているのだが、結城はもう遅かったらしい。


 「んじゃ、今度一緒に三人で遊園地にでも行くか?」

 「お、俺絶叫系はあんまり得意じゃないから、」

 「だろうな!だからこそだ!」

 「結城、諦めろ。こいつに弱点を見つかった時点でお前はもう終わりだ」

 「そ、そんなー!?」

 「一緒にジェットコースターに乗りましょ、ねえ、は・る・と!」

 

 そうオネエ口調になって結城の胸を指で撫でる柾。


 「佐々木。柾って最低な奴だったんだな」

 「今更か?こいつに弱みを握られたら最後、それを克服しない限り逃げ場はないぞ?」

 「佐々木ももしかして握られてるのか?」

 「俺はなんにも?」

  

 そこでなんにも無いと言った瞬間、柾のニヤついた顔が俺の方を向く。

 

 「な、なんだよ?」

 「奏汰もあるよなー、というか、何なら奏汰の方が重大だよな」

 「重大……って、お前まさか!?」 

 「別に、流石にこれは言いふらしたりしないって、それで二人の関係が悪くなったら面白くないし」

 「二人の関係?それって佐々木のかの……むぐむぐ」

 「それ以上は言うな!そしてお前が思っているような相手じゃないからな!」

 「奏汰ってば、必死なんだからー」


 俺をまたオネエ口調でいじる柾。

 

 「俺に彼女なんているわけないだろ?」 

 「いやいや、奏汰君。君たちあれは傍からみたら付き合ってないとおかしいよ?」

 「え?そんなに仲が良いの?それで付き合ってない?」

 「そうそう。この前見せた通り奏汰は鈍感だし、しかも優柔不断で意気地なし」

 「おいおい、さっきから言葉が胸にぐっさりなんだが?それに、まあ、普通ではないかもしれないけど無い事でもないだろう?」

 

 そこで柾は俺に対してジトっとした目を向けて来る。

 その目はあり得ないものを見るような目で、


 「なあ遥斗、もしも、もしもの話だ」

 「あ、うん?」

 「少なからず好意を寄せている人の家に毎日のように泊まりに行って、身の回りの世話をしているのに、一向に相手は自分の気持ちに気づいてくれない。さて、どんな気持ち?」

 「え?それは、悲しいんじゃないかな?」

 「だよなー!!そうだよな!!やっぱり俺合ってたよ!!」

 「おいお前らなんの話をしてるんだよ?」

 

 俺は小腹が空いたので祈莉に作ってもらった弁当を広げてそれを食べていたためよく話を聞いていなかった。

 

 「この弁当だって、どうせ作ってもらったんだろ?」

 「当たり前だろ?俺がこんなものを作れるわけ、ってお前それ結城の前では」

 「もう聞いてっていうか、もう少し凄いこと聞いてるから大丈夫だよ」

 「は?おい、柾お前どこまで喋って!?」

 「弁当作ってもらってんのに……ああ、かわいそ過ぎる!!」

 「……うーん。佐々木に悪気はないんだろうけどなぁー?」


 柾はウソ泣きをして、結城はなんだか複雑そうな表情を浮かべる。

 

 「ま、まあこの話はここまでにしよう。佐々木だってもう嫌だろ?」 

 「ああ、凄い不快だ」

 「はあー、もう少し奏汰は自分に自信を持っても良いんだけどな。あんまりにもあの人が報われない」

 「あの人?なんであいつが報われないんだよ?」


 なぜ報われないのだろう?

 確かにあいつは報われなさそうな環境で育ってきたらしいし、父親との確執は深そうだが、少なくとも柾は祈莉の家庭環境については知らないはずだ。

 祈莉が話すとも思えない。


 「はあー、まあ今は電車の中だから言わないけどさ、そのうち気づかないなら俺から言わないとだな」

 「何をだよ?」

 「奏汰のそういうところ」

 「はあ?」


 俺はよく分からないと言った顔で首をかしげる。

 

 「ま、いいか。それよりその卵焼きくれ!」

 「ヤダ」

 「えー!?いいじゃん一つくらいー」

 「これは俺が作って貰たんだ!これから三日近く食べれなくなるんだから俺が食べるんだよ!」

 「あ、今の録音しとけば!」

 「何を悔しがってんだよ?」


 そんなやり取りをしながらも平和に新幹線は目的地まで走っていく。

 三日間。だが、侮ってはいけない三日間。何があるか分からない三日間。


 駅に着いた新幹線から降りると、俺はその……憂鬱さの滲む大きなため息を吐く。


 「それ修学旅行に来た学生のため息じゃない!」

 「確かに。修学旅行と言えばもっと、気分が上がる筈なんだけど、佐々木は随分と、アレだね」

 「仕方ないだろ。来たくないもんは来たくないんだから」


 忘れもしない、あの小中の修学旅行。あれは確か……

 いや、これは思い出すと本気で足が動かなくなるのでやめておこう。


 「早く行くぞ。さっさと回って宿にさっさと戻ってさっさと休むぞ」

 「もうこの人高校生なのか疑わしいわん!」

 「は、ハハッ……」


 一人は暗く、一人は性別がおかしく、また一人は苦笑をするその三人は、高校の修学旅行一日目を、僅か数時間で切り上げて、ぶっちぎりの一番乗りで宿へと向かうのであった。





 

 

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[気になる点] 柾ってずっと祈莉関連のことでからかい続けてて かなり鬱陶しいですね 流石にしつこくないかなって思ってしまう
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