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05 『理想の後輩』はプライドに傷がついているそうで?

 教室に戻ってきた柾は、何か少し気味の悪いニヤニヤ笑いを浮かべているのであった。おおよそ見当はついている。あの白宮と話してそれが案外楽しかったとか、そういう事だろう。

 

 「おい奏汰。お前、愛されてんな」

 「なんの話かさっぱりなんだが?まあ、お前らには愛されてるのかもな」

 「ほんっと鈍いよな。というかお前って基本自分以外はどうでもいいから周りに目が向かないのか」

 「さっきから何だよ?それで?白宮との話は楽しかったか?良かったな!」

 

 俺にとっては大惨事直前だったためか、何も良くないからかついつい最後の言葉に皮肉を込める。

 

 「ま、いいけどさ。でも、お前もう少し話しくらい聞いてやれば良かったのに」

 「話を聞くメリットとデメリットを考えたら、必然的にデメリットの方が大きいからああしたんだよ」

 「別にメリットもかなり大きいけどな?」

 「さっきからほんとに何の話をしてるんだよ?」

 

 こいつは一体何の話をしてきたのだろうか?そんなことを考えながらも、もうすぐ始まる授業の準備をする。


 「まぁ、まだ諦めては無いみたいだし……」

 「なんか言ったか?」

 「いいや何も?」

 「まあ、ならいいけど。ていうかお前はそんなことより授業の準備をしろって。ただでさえ勉強出来ないんだから」

 「大丈夫大丈夫!愛の力があればなんとかなるって!」

 

 愛の力で全てうまくいくなら、世の中の夫婦は全てうまくいってることになるだろ?とは思ったものの、あくまで心の中で留めておく。それはまだ高校生に言っても分からない事だろうから。かくいう俺も良く分からない。


 「取り敢えず、愛じゃなくてまずは授業に頼れ。そしてノートに土下座しろ」

 「ハッハ―。耳が痛いなぁー」

 「ったく。さっさと席着けよ」

 

 柾に席に着くよう促がして、俺も前に向き直る。とは言っても、俺もあまり授業は良く聞いてないのだが、いつもは何とかなっているので特に何かをすることもない。


 自席で原稿を進めるためのアイデアをノートに書き写しながら、今日は一日が終わっていく。

 明日もいつもと変わらない平穏な学校生活が待っているのだと、俺はまだこの時はそう考えていた。



 ―――



 外から雀の囀りが聞こえてくる。まだ眠気は残っていて、それでも胸には達成感があった。

 昨日は帰ってきてから、授業中に思いついたアイデアを色々と工夫して、ようやく一冊分の原稿が書き終わったところだったのだ。


 「俺だって、やれば出来るんだ」


 この一週間ちょっとで原稿を仕上げた自分を少し褒めてやりたいぐらいだ。毎日寝る間も惜しんで頑張った甲斐があったというものだ。


 「あ、いって!?」


 昨日は終わったと思ったらそのまま強烈な睡魔に襲われて、結果椅子に座ったまま眠ってしまったらしい。おかげで体中が強張って痛いったらありゃしない。


 「ふわあー。それで、今の時間は……」


 大きな欠伸を一回終えると、俺はそのまま腕につけっぱなしの時計を見る。

 眠気は凄いが、それでも清々しい朝だったため、自然と時間もまだ早いのだろうと、そんな根拠のない確信は、この時音を立てて崩れ去る。

 学校の始業のチャイムは8時30分。そして現在の時刻は……


 「8時……10分!?うそ、だろ?」


 驚きのあまりしばらく思考が停止する。

 いやいや、こんな事をしている場合ではない。

 

 そう自分に言い聞かせ、すぐに制服に着替える。

 そして、机に置いてあった某バランス栄養食をひと箱片手に、家を飛び出す。

 まさかここまで寝過ごすとは思ってもみなかった。幸いなことに家から学校までは走れば10分の距離だ。

 家を出たのが15分。そして靴を履き替えたり、階段を上ったりすれば、かなりギリギリだが、間に合うか?


 全速力で歩道を疾走する俺は、この時期特有のじめじめした空気で既に大量の汗をかいている。

 髪の毛が汗でペタついて、湿気も相まってぺしゃんこになっている。それでもかまわず走り続ける。

 

 そして、やっとの思いで校門の前に着けば、生徒たちが急いで校門をくぐっていく様子がまだ見える。どうやらこの時間に登校するのはあまり珍しくもないらしい。

 

 「ま、そんなに早く学校に来る必要もないしな」


 俺は家にいても特にやることが無いから、いつもはもう少し早い時間に学校に到着しているが、それでもやはりこうして遅刻寸前なのは少し焦りが生まれる。


 まあ、間に合ったわけだし、結果オーライってことで。と校門をくぐろうとしたその時、昨日の悪夢はまたもややって来るのであった。


 「先輩?」

 「……げっ!」

 「げっ!て何ですか、もう!」

 

 そうぷくーっと頬を膨らませては、俺に対して不満を呟く、学校一の美少女、白宮祈莉が立っていた。


 「……どちら様でしょうか?というか人違いでは?」


 こうなったら出来るだけ関わらないように、俺は初対面を演じる。


 「むー!先輩、少しは話をしてくれてもいいじゃないですか?」

 「先輩って誰の事ですかね?というか俺は一年生だ」

 「え?うそ!?」

 「嘘だよ」

 

 冗談交じりに嘘をついてみたら思ったより信じられてしまったので慌てて撤回する。


 「先輩、結構面白いですね?」

 「お前はしつこいな。いつもの気品あふれる優等生様はどこ行った?」

 「あ、優等生……」

 「何照れてんだよ?」

 「え、いや。別に、照れてません!」


 なんだろうこれ?凄くやりづらい。ただでさえ急いでるっていうのに、こんなの。


 「お前、そろそろ離れてくれないか?周りの視線がキツイ」

 「別にそんなの気にしません!」

 「お前じゃなくて俺の話だよ!ていうかなんで付き纏って来るんだよ?」


 さっきから校門をくぐる時も、下駄箱で履き替える時も、今こうして階段を上る時も、彼女はずっと付き纏って来る。


 「ああーもう!じゃあな!もう俺には付き纏わないでくれ!」

 「あ、ちょっと、せんぱーい!!」


 学校一の美少女で優等生?まさか。朝から人に付き纏うストーカーだろ、あんなの。

 彼女のその行動に悪態をつきながらもギリギリで教室に到着する。


 「おう奏汰。なんかさっき階段の方から白宮さんの声が聞こえたんだが?」

 「白宮?誰だそいつ?」

 「お、おう。白宮さんに相手にされてそこまで嫌な顔してる奴は初めて見たわ。お前ほんと凄いな」

 「朝からストーキング行為をしてくる相手に嫌な顔しない方が無理だろ」

 「ストーキング?」

 「校門からずっと付き纏われた」

 「それはストーキングじゃねえよ!」


 俺にツッコむ柾であったが、俺にとっては家から付きまとわれようが、校門から付きまとわれようが、はたまた校内で待ち伏せされようが、それら全て同レベルのストーキング行為に分類される。


 「まあ、でも一つ忠告するけど、きっと彼女、お前に付き纏うのやめないぜ?」

 「は!?なんでだよ!?」

 「そりゃあ、学校一の才女がお前に相手にもされなかった、なんてプライドに傷がつくだろ」

 「な、なんだそりゃ!?つまり、俺が相手をしないから復讐して来てるってことか?なんだよそれ、とんでもない悪女じゃねーか!?」

 「まあまあ。そう怒るなよ。それもこれも、話も聞かなかったお前が悪いんだからさ」


 気持ち悪い笑いを浮かべて自席に戻る柾。しかし、こいつの言う事が正しかったら、俺が相手にするまで彼女は一生俺に付きまとうことになる。

 なら、いっそのこと昼食時にでも話してきれいさっぱり洗い流す方が良いのでは?

 

 よし、決めた。俺の平和な学校生活のためにも、俺はあの白宮から自由を取り戻すとしよう。

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