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49 奏汰絶体絶命!?

 「そ、その……」

  

 俺は今、自分よりも力が弱いはずの女子二人に無理やりその場から連れ去られそうになっているわけだ。

 俺がか弱い女の子で、目の前の二人がこわもてのおじさんか禿げて小太りの汚いおっさんだたら誘拐だと叫ぶことも出来たのだろうが、今はどう見たって誘拐の現場には見えないだろう。

それどころか同じ学校の制服なので放課後に遊んでいるだけの友人同士にしか見えていないだろう。


 「別に取って食べたりはしないからさ、ね?」

 「そうそう。あ、でも私食べられるのは案外いいかも?」

 「うんうん。これなら私も全然、ていうか何なら私から行きたいみたいなさ」

 

 一体なんの話をしてるのか分からない。 

 だが、なんだかよくない話の様ではあって、だから何とか二人から逃れる策を考えては声を出してみるのだが、

 

 「お、俺は」

 「でもやっぱり結構繊細な感じだし、そう言うのは嫌だよね?」

 「私は強引なのは嫌いじゃないけど、寧ろ好きな方だし全然ありだけど」


 さっきからずっとこの調子だ。

 俺の話なんて全く聞いてもらえない。

 彼女たちは彼女たちでなんだかよく分からない話を繰り返しているしでこっちとしては冷や汗が止まらない。

 (あぁ、俺はここで終わるのか?高校生活諸共俺の今までの平穏な日々が……)


 短い、実に短い平穏な学校生活だった。

 約1年と数か月、それが俺の過ごした平穏な高校生活で、今日この日を以てどうやら俺の高校生活はその幕を……


 「悪い悪い。待たせたな」

 「ごめんね。つい手間取っちゃって」

 「ま、さき。それに結城なのか?」


 俺は奇跡を目の当たりにする。

 俺の願いが、どうやら聞き入れられたようで、二人はあともう少しで俺の全てが終わるというところでギリギリ戻ってきたのだ。

 (ん?いや、よく見れば柾の口角が若干上がってるな。こいつ、まさかわざと!?)


 「それで?彼女たちは?」

 「ああ、そのなんと言うかさっきそこで会って、」

  

 俺が柾と話しながら彼女たちの方を見る。

 が、今も彼女たちは俺の手首をがっちり掴んでいる。


 「うそ!?1組の結城君?え?それにそっちは坂本君!?」

 「あ、あぁ、私分かったかも」

 「え?何が!?」

 「類は友を呼ぶってやつだよ!」

 

 (いやだから何も分からないって!)

 俺のそんなツッコミは彼女たちには届かない。というか何が類は友を呼ぶのだろうか?柾と結城はともかく俺もいることを忘れてないだろうか?


 「えっと、結城君たちはこの人の友達なの?」

 「うん。今までちょっと遊んでたんだ」

 「この人ってなん、」

 「それより、ようやく見つけたぞ。ほんと一人でいなくなるなよな。お前は方向音痴なんだから迷ったら面倒だろ?」

 

 俺を何組か聞こうとしてきた女子の言葉をいいタイミングで遮る柾。

 この瞬間だけは柾がとても美化されてかっこよく映ってしまう。


 「わ、悪い」 

 「全く、仕方ねーな。最近美味しいアイスの店出来たらしいから、奢ってくれれば許してやるよ」

 

 前言撤回だ。

 こいつ、多分色々と計算してるに違いない。だって顔が笑っている。


 「と言う訳で、ありがとう。彼はちょっと人見知りだからさ」

 「ああ、そうだよね、やっぱり。話しててそうだろうなとは思ってたんだよね」

 「そうそう。だから、」


 そこで結城の声音が少し変わる。

 

 「今度一緒に話そうよ。次は、もっといろんなことを、さ?」

 

 それはさっきまでの俺達と話していた気さくな感じではなく、いかにもイケボと言った感じの声で、女子たちはそれを聞いてまんざらでもないような表情をする。


 「あ、そ、そうだね」

 「うん。それが良いかも」

 「それじゃ、俺たちは他にも行くとこがあるから、また学校で!」

 

 結城は俺の手を掴むと「じゃあ、行こうか」と言って俺を引っ張っていく。

 しかし、その握る手は決して強すぎず俺に配慮していることがよくわかる。

 

 男の筈の俺ですら少しときめいてしまう程だ。

 後ろからパシャリとシャッター音が聞こえる。

 

 「おい柾!お前今何撮った!?」 

 「あとで秋葉に送っとこう。グヘへー」

 「おい、スマホをよこせ!へし折ってやる!」

 「やだよ!さあさあ俺たちは早く行かないとなんだから、さあ行こう!」


 そうして俺は何とか彼女たちから逃げることが出来たわけだ。

 最後後ろの方から「名前聞くの忘れてた!」なんて声が聞こえたが、聞こえないふりをしてそそくさとその場を後にしたのだった。


 「いやー、これで分かっただろ?」

 「何がだ?女子が思った以上に人の話を聞かない生き物ってのは分かったな」

 「あ、いや、それは、まあ、うん。ってそうじゃなくて!もっと他に感じたことは?」

 

 他に?一体何を言わせたいんだこいつは?


 「佐々木は自分に対して何か思うことは無かったの?」

 「自分に対して?そうだな、まあ、もう少し会話が成り立っても良かったなーくらいか?」

 「……」

 「……」


 本日何度目かも分からないその沈黙はやがて柾のため息で崩される。


 「なあ遥斗、どうやら俺達には無理そうだ」

 「うん。そうみたいだね。これはもう鈍いとかそういう話じゃないね」

 「これはもう、根本的に自信が無いんだな」


 さっきの女子といい、最近の高校生の話ってよく分からない。

 もっとこう、脳内は性欲と食欲しかない思春期丸出しってイメージだったけど、そうでもないようだ。

 俺にはその話がとても高度なものに思えてならない。

 さっきの女子たちの会話なんてもはや何を言いたいのかすら分からなかった。

 まあ、俺がテンパってほとんど話を聞いていないのもあるんだけど、


 「ま、とりあえず、遥斗が悪いやつでないことはさっきの事でわかっただろ?」 

 「あ、ああ。さっきはほんとに助かった」

 「いいや。ああいうのに対しての対処の仕方はもう頭に叩き込んであるから」

  

 流石は学校中の女子が認めるイケメン。女子の扱いにも慣れてると言う訳だ。


 「なあなあ、俺にも感謝の言葉があっても、」

 「だとしても、結城も柾も俺を嵌めたんだろう?結城も悪いやつではないけど、柾と仲が良いってことはそれなりに癖が強い訳だ。そして柾」

 「へ?あ、えっと」

 「お前、完全に嵌めたよな?」

 「な、なんの事で?」


 あくまでとぼけるつもりらしい。 

 だがそれでもその顔には自分がやりましたとありありと書いてあり、


 「これからは何かあっても助けないぞ?」

 「すみませんでした。少し調子に乗りました!」

 

 潔くそう謝る柾。

 正直安い謝罪だが、まあ、別に怒ってはいないのでそれは良いのだが、

 

 「ま、今日はもう疲れたしそろそろ帰るか」

 「そうだな。俺は早く帰って休みたい」

 「佐々木は特に疲れたよな」


 帰り道でも結城とは話していたが、どうやら悪いやつの要素はかけらもなく、寧ろ普通に良いやつですらあった。

 少し女子との関係で辟易していたが、それは持てる男の性なのだろう。

 

 でも、やっぱりその様子を見て、一つだけ思うことがった。


 (モテるのはモテるで案外大変そうだし、イケメンじゃなくてちょっと良かったかもな)

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