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48 人生の窮地

 二人が去ってから、10分程経っただろうか?

 俺は今、人生の窮地に立たされている。


 「ねえ、君同じ高校だよね?」

 「私たち今遊んでるんだけど、一緒に遊ばない?」

 「え、あの、ちょ!?」


 およそ5分ほど前から俺はこの同じ高校の制服を纏った女子生徒二人に絡まれているところだ。

 しかも、人数は二人だけでなく、他にももう数人いるらしい。

 

 「ていうか君何年生?」

 「こんな人いた?まさか転校生?」

 「あ、えっと、2年生です、けど……」

 「え?うそ、同じ!?」

 

 (くっそ!マジか、これで1年か3年だったらはぐらかすのも容易だったのに!?)

  

 「ねえねえ、名前は?いつ転校してきたの?」 

 「何組?彼女とかいるの?」

 「え?あ、その、えーっと……」


 (あいつらまだ帰ってこねーのかよ!?)


 「ねえ、こんな所じゃなんだしさ、皆待ってるしマック行かない?」

 「うんうん。まさかこんな人がいるなんてねー。でもよく今まで話題にならなかったね?」

 「分かるー。逆になんで話題にならないか不思議じゃない?」

 「あ、もしかして校内でおとなしいとか?」

 「ああ、孤高の王子様みたいな?分かるかも!」

 「あー、そのーえーっと……その、」

 

 うまく言葉が出てこない。

 あまりに唐突だったうえに同じ学校のしかも同じ学年だ。

 同じクラスの女子だった場合は俺が彼女たちの名前を覚えてないことで少し雰囲気が悪くなることだろう。しかも恐らくだが俺は今髪型を結城によって変えられているのでそれで何やら目が騙されているらしい。


 とはいえ、ここでもし同じクラスの、しかも俺の名前を知っているような人たちだった場合明日から変な噂が流れたりして面倒になるかもしれない。

 他クラスだったとしても名前がバレれば面倒事に発展する可能性は無いとも言い切れない。

 

 ここに来てこんな失態を冒すとは、俺としたことがもう少し警戒しておくんだった。

 それにしてもなんで俺に?

 まあ、確かに同じ高校の制服だからということもあるんだろうけど……


 「あ、えっと、俺はその……」

 「え、なに?あ、緊張してる?」

 「えーうそ、可愛い!今時緊張する男子とか初めて見た」

 「あー、でもなんかこれはこれで良くない?」 

 「うん。なんか守ってあげたくなる、みたいな?」 

 「あー分かる!」

 

 (いや何もわかんねーよ!?俺が細いから守ってあげたい的な?やかましい、余計なお節介だわ!)

 

 「だ、だから、その」

 「うんうん。分かる。少し緊張してるんだよね?」

 「だいじょぶだいじょぶ。別に何かしようってわけじゃないからさ」

 「一緒にマック行って話すだけだから」

 

 駄目だ。これは相手の話を聞かないパターンの人間だ。

 なんで俺を!?

 そう切実に心の中で叫ぶが、それが彼女たちに届くことはない。

 俺はそこで本気で柾と結城の帰還を願う。


 (もうなんでも良いから、誰か俺を助けて!?この人たち俺の話聞かないんだわ!)

 まあ、俺がはっきりとものを言わないというのもあるかもしれないが、


 俺は両手首を彼女たちに掴まれてその場から連れて行かれそうになるのだった。


 




 ――――――


 奏汰が女子二人組に絡まれる数分前、柾と結城は二階のちょうど奏汰のところが見える場所からベンチに座って奏汰を見守っている。


 「まあ、可能性は五分五分か?」 

 「そうだろうね。でも一応はしっかりと整えたから、多分佐々木のポテンシャルなら女子たちは寄って来ると思うけど」

 「まるで女子を虫の様に言い放つとは、流石遥斗だな」

 「虫とまでは行かないけど、やっぱり疲れるものは疲れるからね。佐々木にはそれを少しくらい味わってもらえればいいんだけど」

 「しれっと可哀想な被害者を増やして同類に仕立て上げるなんて、お前にしか出来ないな」


 柾と遥斗はニヤッとワルな笑みを壁る。

 

 「へっへっへ、これで少しは奏汰も自覚するってもんだろ?」

 「そうだね。あれは確かに鈍いとか通り越してるしね」

 「あいつはなんか卑屈なんだよなー。もう少し自信もってもらいたいんだけどさ」

 「あれで自信が無いって、相当何か嫌なことがあったのかな?」

 「ん、多分そうみたいだな」

 「そうか、俺と同じような、」

 「遥斗と一緒にするな」


 二人はそうして何気ない話を続けていると、やがて奏汰の元に女子たちが近づいていくのを確認する。

 

 「お、どうやら来たなって、あれうちの制服だよな?」

 「柾彼女たち知ってる?」

 「いいや?あ、でも見たことはあるな。多分他クラスの女子だろ?」

  

 流石柾は他クラスでもそれなりに顔は覚えているらしい。

 

 「つまり2年か」

 「そうなるな。でも、まあ同じクラスじゃなくて良かっただろ」

 「それはそうだね。同じクラスだったらかなり気まずくなってただろうしね」


 それは明日から、という意味だろう。

 同じクラスで、もし名前がバレようものならクラス内での雰囲気との違いに女子たちは驚き、そして戸惑いが生まれるだろう。

 そうなれば奏汰は明日からあの髪型、少なくても多少は髪を整えなければいけなくなる。

 そして結城の考えた通りになるのなら、奏汰は女子から一躍注目を集め、逆に男子からは白い目で見られるようになる。

 

 「俺は彼女がいないからさ、だから佐々木みたいなやつが増えてくれると助かるんだ」

 「うわー、ここにすげー最低なやろうがいるわー」

 「彼女がいるから柾はそう言う事が言えるんだよ」

 「じゃあ、適当に彼女作ればいいのに」

  

 結城は彼女がいない。だから女子たちはそんな結城に群がってあわよくばとその座を狙っている。

 柾も本来ならそんな感じになってもおかしくは無いのだが、秋葉という学校内でもかなり人気が高く人気者の彼女がいるためにちょっかいを掛ける女子もいないのだ。


 「まんまと遥斗に嵌められかけた奏汰が可哀想だな」

 「それを柾が言うのか?」

 「それはそうか。あ、奏汰ってばテンパって会話がまともに成り立ってないな」

 「うん。なんか少し可哀想になってきちゃったね」

 「それを遥斗が言うんだな?」

 「これは一本取られたね!」


 そう言って若干ピンチな奏汰を見てそろそろ助けに戻ろうかと考える二人。

 やがて奏汰の手を彼女たちが掴んだ辺りでもういいだろうという結論に至り助けにいくことにする。

 

 「っと、その前に、これだけ」

 「相変わらず抜け目ないね。見つかったら佐々木に怒られるよ?」

 「大丈夫だって、こっちには心強い味方もいるし、その人に送れば奏汰でもシュンとなること間違いなしだ!」

 

 柾はそう言って奏汰と常に一緒にいる彼女を思い浮かべる。

  

 「それじゃあ可哀想な奏汰を解放してあげようか」

 「そうだね。流石に泣きそうな顔してたしね」

 「なんかお礼して貰わないとなー、俺アイスにしよう」

 「自分から嵌めておいて自作自演の演技にすら対価を求めるなんて、案外柾って鬼畜気質?」

 「おいおい、これは全く以て正当な権利だろ?」

 「君に正当さを説かれる佐々木が可哀想だね」


 半ば呆れ顔の結城は、柾を伴って奏汰の元に急ぐのだった。

 

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