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47 親睦会を兼ねて、の筈が?

 「俺なんかがいて良いのか?」

 

 放課後の帰り道、俺は柾と、そして昨日同じ班を組むことになった結城と歩いている。


 「なんだよ俺なんかって?」

 「佐々木って、なんかいつもアレだな、前から暗いとは思ってたけど」


 アレってなんだよ?

 と思いながらそのツッコミは胸にしまっておく。

 一緒の班とは言え、俺は結城とは仲が良い訳ではないのだ。


 「確かに奏汰は周りから見れば凄い暗い奴なんだろうな」

 「俺のいつものテンションがこれだから仕方が無いだろ」

 「そうか?家で夕飯食べてる時なんかは……もごもご!?」

 「それ以上は喋るな」

 

 夕飯の話をしたら必然的に祈莉の事が結城にバレてしまう。

 俺としては本当に信用できる相手なのかも分からないのであまり不用意に日常生活については話したくない。

 

 「本当に仲が良いんだな?」

 「なんだ遥斗?まさか妬いてるのか?」

 「違うよ。ただ、佐々木は今までよく分からない奴だと思ってたけど、悪い奴ではなさそうだし」

 「……?」

 「そう警戒しないでもらえると嬉しいんだけどな」

 「それは仕方が無い。なんせ奏汰の警戒心はうさぎ並みに強いからな!」


 そう言って奏汰は俺をいじる。

 うさぎか。

 確かに俺は警戒心は強い方ではあると思うが……


 「俺はうさぎほどではないだろ?」

 「いいや、奏汰は警戒心うさぎで、そのうえ鈍さはナマケモノ並みだからな!」

 「佐々木ってそんなに鈍いのか?」

 「もう鈍いなんてもんじゃないって……あ、そうだ!」

 「なんだよ急に?」

 

 そこで何かを思いついたと言わんばかりに手を叩く柾。

 そして、俺と結城の肩を寄せて、


 「二人の親睦会を兼ねてゲーセンにでも行こうと思っていたけど、遥斗、お前に奏汰の鈍さを教えてやる!」

 「佐々木の?」

 「ああ、意外な事実がここで発覚するぞ」


 一体何の事実が発覚するのやら。

 取り敢えず今日はなんだか遅くなりそうなので祈莉に連絡を入れる。

 

 『今日は柾と出かけることになったからまだ帰れそうにない。だから今日は来ないで大丈夫だ。急な連絡で本当にごめん』


 それを手早く打っていると珍しい事にすぐに返信が来た。

 ちょうどスマホを触っていたのだろう。


 『わかりました。少し心配ですが、今日は家に帰りますね。くれぐれもしっかりと夜ご飯は食べてくださいね?』


 まるで母親のような連絡につい頬が緩んでしまう。


 「佐々木?」

 「あ、いや、なんでもない」

 「なんだ?もしかしてまた、」

 「お前は少し黙れ」

 「……はい」

 

 またいらん面倒ごとを起こそうとしていた柾をそこで止め、俺たちは柾に勧められるまま以前祈莉と来たショッピングモールに到着するのだった。






 ――――――


 「んで?なんで洋服を?」

 「洋服だけじゃない。髪も少し整えてくれ」


 なぜ髪を?というか親睦会じゃなかったのか?


 「髪を整えるったって、」

 

 整髪料なんて持ってきていない。

 それどころか普段は使わないので家でも仕舞ってある。


 「か、奏汰、お前まさか持ち歩いてないのか?」

 「逆に聞くが、なんで持ち歩く必要が?」

  

 その俺の言葉を聞いて柾は衝撃を受けている。

 そこまで衝撃を受ける事か?なんて考えながら結城の方を見る。


 「なんかすまんな。柾は時々謎行動を起こすもんで、」

 「佐々木」


 そこでなんだか真面目な顔で俺を見る結城。

 何か顔についているのだろうか?


 「少しそこを動かないで」

 「え?あ、ちょ、」

 

 バックから何かを取り出しては俺が今いる更衣室に入って来る結城。

 

 「お、おい結城!?」

 「少し、そこでジッとして……」


 これはやばい。何がやばいかって、決まっている。

 学校で女子からの絶大な人気を誇るイケメン結城が、俺と一緒に更衣室に……


 「こ、これは新たな組み合わせ!?」

 「おい柾!お前は少し黙れ!あ、あとこれを撮って秋葉に送ったりするなよ?」

 「佐々木、少しごめん」

  

 そう俺に断りをいれて俺の顔に手を伸ばす結城。 

 (え?ちょ、これって、どういう状況!?)

 そこで咄嗟に俺は目を瞑る。それしか出来ない故に強張る体はそのままに覚悟を決め……


 その時、伸ばされた手は俺の顔ではなく髪に伸びていく。

 そして俺の髪に何かを付けるとそれを軽く動かして、


 「……前から思ってたけど、佐々木って案外悪くはないよな?」

 「うんうん。それだ!遥斗、お前も分かるだろ?だってのに、奏汰ってば凄いんだぜ?」

 「おい、お前ら一体何の話を?」

 

 今もうるさいくらいに脈打つ心臓を抑えながら、俺は二人の会話に割って入る。

 

 「何をって、奏汰が如何に鈍いかってことを遥斗に共有してんだよ」

 「はあ?」

 「それでな、奏汰ってば、この前海に行った時も女子にナンパされてるのにそれ自体に気づいてないみたいでさ」


 そこで身に覚えのない事を吹き込んでいる柾。

 

 「おい、ナンパって、なんだそれ!?」

 「……ってな感じでさ、聞いたか?ほら、ここにも書いてあるように秋葉もそれ見てたんだよ」

 「なるほど、これは……確かに相当鈍そうだね」

 

 柾のスマホの画面を見て苦笑いを浮かべる結城。

 

 「おい、誰が鈍いって?」

 「奏汰しかいないって」

 「話を聞いたばかりの俺でも佐々木は相当な鈍感だと思うよ?」

 「そ、そんな結城まで!?」

 

 まさか知り合ったばかりの結城にまで言われるとは、

 (もしかして俺って本当にそんなに鈍いのか?いやいや、空気が読めて察しが良いからこそ今の学校の状況であって、そんな筈は……)


 「まあ、これ以上は言わないけど、というかこれで十分奏汰が鈍い事は証明できたし」

 「俺そんなに鈍いのか!?」

 「……」

 「……」

 「え?おい、何とか言えよ?」


 そんな風に目の前の二人は押し黙る。

 そして二人は俺に聞こえない声で何かを話始める。

 やがて終わったのか俺にいつもの悪戯スマイルで微笑かけて来る柾。


 「んじゃ、早く着替えて店出ようぜ?」

 「は?おい、」

 

 柾は外から更衣室の扉を閉める。

 普通は中から閉める者だろ?とおもいながら俺は制服へと着替える。

 

 結局何も買わないまま外に出る。


 「それじゃあ、奏汰はちょっと……あそこで待っててくれ」

 

 柾が指さした先、そこは多くの人が集まるこのモールの中央広場で、そこにはベンチも置いてある。


 「は?お前らは何を?」

 「俺と遥斗は同じステージの者として見に行くものがあるから少し待っててくれ」


 同じステージ?とは思ったものの、そういう事かと納得する。


 「分かった。俺にはリア充の思考なんて分からないしな」

 「……」

 「……」


 またもやそこに沈黙と、そして柾からはなんだか少しだけ呆れの籠った目を向けられたような気がしたが、気のせいだろうか?


 「ま、すぐ戻って来るから」

 

 そう二人は足早にこの場を後にする。

 だが俺はそこで大人しく待つ。


 俺にはあの二人のような輝かしい青春の話は一つとして無いからだ。

  

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