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30 水着の魅力はとても危険

 旅館に一先ず荷物を置いてから、俺達はようやく海に向かうことにした。

 この旅館の女将さんも超が付くほどの良い人で、しかも秋葉と小さな頃から交流があった。というかほとんど秋葉の叔母さん的存在らしく、凄く丁寧に扱ってくれたのだった。


 「柾、俺はやっぱりここで」

 「待つのは無しだぞ?それに、せっかく一緒に選んだ水着なんだから見なきゃ駄目だろ?」 

 「別に、あれは誰かに見せたりするようじゃ、それにそうだとしても俺に見せるのは違うだろ?」

 「奏汰ってなんでそうも卑屈なんだよ?今日みたいに髪もセットすれば結構イケてるのにな?」

 「いつもそう言うけど、でもそれとこれとは話が別だろ?」


 たとえ柾が容姿について言おうとも俺は自分が柾程良い容姿だとは思わない。

 それに、今はなしてるのはそう言う事じゃない。


 「白宮が水着を選んだのだって秋葉に言われたからで」

 「その秋葉が言ったのはなんでか知ってるか?」

 「え?それは海に行くからで」

 「海に行くだけでそこまで張り切った水着なんて選ばないんだけどな」

 

 どういうことだ?柾は一体何が言いたいのか分からない。

 海に行くから水着を買う。それ以外に水着を買う理由はあるのか?


 「ま、そんなお前だから俺も秋葉も、白宮さんもお前と一緒に居るのかな?」

 「は?どういうことだよ?」

 「お前があまりにも心配って事だよ!海には入らなくても良いけど、砂浜で遊ぶくらいは出来るだろ?だから強制参加だ!」


 柾はそう言って俺を引っ張って外に出る。

 旅館のロビーではずっと待っていたらしく秋葉がご機嫌斜めだった。


 「遅いよ奏汰!日が暮れるとこだったじゃない!」 

 「わ、悪い。でも、海に行くのはそこまで乗り気じゃないというか」

 「先輩体調でも悪いんですか?」

 「あ、いや違うんだ。ごめん。なんでもない。少し昔を思い出しただけだから」

 

 それは小学校に上がる前の記憶。多分、俺が一番活き活きとしていた頃の最後辺りだ。

 過去を少し思い出して、少し苦虫を嚙み潰したような顔をする。


 「そうですか」

 「まあ、それはそれ。今は今でしょ?さ、行こう!そして泳いで遊んで食べるのよ!」


 秋葉に続くように柾も「おおー!!」と自動ドアを開いて外に出る。俺もその後ろを歩いて、

 自動ドアが開いた瞬間、外の蒸し返すような熱気が一気に中に流れ込んできて、

 

 「よし行くぞ奏汰!!」


 俺は肩に腕を回されて、強制的に柾に連行されるのだった。


 数分歩けばそこはもう多くの人で賑わう海だ。

 ムシムシとうだるような暑さに海風が少しだが心地よく感じる。それでもその風すら少し生ぬるくて内心では(早く帰って冷房の効いた部屋でしばらく倒れていたい)と思っている。


 「それじゃあ俺達更衣室こっちだから二人とも気を付けろよ?二人とも可愛いからな、ナンパされたらしっかり断るんだぞ?特に白宮さんは要注意だ!秋葉、しっかり見といてやれよ?」

 「任せてまさ君!祈莉ちゃんは私が守るよ!それに、祈莉ちゃんも、他の男にはもうついて行かないもんねー!」

 「あ、えっと、はい。気を付けます」

 「それじゃ、行くぞ奏汰!」

 「ううぇーい……?」

 「もっと楽しそうにしろって。なんかお前がほんとに心配だよ」

 

 そのあとむさ苦しい男たちの汗臭い更衣室に立ち寄った俺と柾。

 地面を見ればそこかしこにいろんなものが落ちていたり、とても着替えられるような環境ではなく、


 「お、おい柾。まさかここで着替えるのか?なんか地面少し濡れてるし、ぬめっとして」

 「海水浴場の更衣室なんてこんなもんだろ?それより、早く着替えろよ。旅館で水着は貰ったんだろ?」

 「あ、まあ」


 水着を持ってきていなかった俺だったが、女将さんが用意してくれたのだ。

 まあ、男だし下だけなので水着じゃなくても良かったのだが、すぐに用意してくれたので好意に甘える事にしたのだが……


 「部屋で着替えて来ればよかったな」

 「奏汰そう言えば少し潔癖の気があったっけ?」

 「潔癖じゃない。ただ、なんというか公共施設のこういう場所はいるだけで、気持ちが悪くなって」

 「それが潔癖っていうんだよ!早く着替えろよ、じゃないと本当にお前は吐きかねない」

 

 俺は履いているサンダルでまず一本足立ちをする。その後素早く今履いているズボンを脱ぐとすぐさま水着を着る。絶対に足を地面に着かないという俺の強い信念が俺の行動を加速させる。


 そして履き替えた瞬間、俺はすぐさま更衣室から抜け出すと外の水道で手と足を汚れてもいないのに洗い流す。

 ちなみに上はというと半袖を着てその上から薄めのパーカーを着ている。

 流石に暑いが、日焼けをしてお風呂で叫びたくないので必死に我慢する。

 

 「柾は半袖だけか?」

 「まあな。というか、パーカーはいくらなんでも暑いだろ?」

 「俺は風呂で叫びたくないんだ」

 「お前が良いならいいけど……」


 その後、俺達は砂浜を歩いて適当な場所を見つけるとそこにシートをひく。

 そして、その上に少し大き目のパラソルも付ける。これで陽は防げるようになったわけだ。


 「じゃ、俺はここで寝てるとするか」

 「あ、奏汰。悪いけど二人を迎えに行ってくれよ」

 「なんで俺が?」

 「お前暇だろ?俺は今から少しすることもあるしさ」

 

 そんなニマっとした顔を向けて来る柾。

 (こいつ絶対大したことやらねーだろ?)

 内心ではそんなツッコミを入れるが、やることが無いのは事実なので大人しく二人を迎えに行く。

 そして、女子更衣室より少し前の方で待っていると「あのぅ」と誰かに声をかけられる。

 するとそこには明らか初対面な女性三人組がいて、


 「もしかしてお兄さん一人?」

 「よかったらうちらと遊ばない?」

 「向こうで三人で遊んでるんだけどどう?」

 

 矢継ぎ早に言葉を浴びせられる俺。しかし、なぜこんなことになってるのかが理解できない。

 (なんで?はぁ?どうして俺に声を?もっと他に声かける人いるだろ?遊びの誘いならそこのいかにもな男にかければいいだろ?)

 内心でとてもてんぱりながらもなんとか声を絞り出す。


 「あ、えっと待ち合わせしてるので……」

 「それってお友達?じゃあ皆呼んで遊ぼうよ!」

 「その、えっと……」

 

 押しの強さに強く出れない俺はその女性たちに腕を掴まれる。

 歳は恐らく大学生くらいだろうか?いかにもな陽キャに分類されるであろうその女性たちは俺をそのまま引っ張ろうとして……


 「お待たせ―奏汰……って、お取込み中だった?」

 「あ、やっと来たか。おせーよ秋葉」

 「ごめんごめん。少し手間取っちゃって」


 そう言いながら秋葉は俺の腕をつかむ女性たちを見てから俺に聞く。


 「それで?この女性たちは?」

 「ああ、さっきたまたま話しかけられて……」


 ここでどう答えるのが正解なのか分からない。俺の気持ちだけを伝えるならば、強引に連れ去られそうになってた。と言うところだが、この女性たちにもそこまで悪意はないのだろう。普通に遊び相手を探していただけなのだと思う。

 だからか余計になんと答えるのか悩んでしまう。ここで波風立てずに穏便に済まさなければ折角の海が台無しになるかもしれない。それは海が初めてな白宮にとってもいい事ではない。


 「ただ少し待ってる間話してただけだよ。しばらく待っても来なかったから少し向こうで遊ぼうって言われて、でもそしたら秋葉達が来て」

 「……ふーん。そう言う事」

 「あ、秋葉?」

 「それじゃあ私たちも悪いわね。すみません、私たちの連れが妙な勘違いをさせました」


 秋葉はそう女性たちに威圧的に言い放つ。その顔は笑っていて、だが結構な付き合いの俺には分かる。この顔は相当怒っている顔だ。なんでそこまで怒っているのかはわからないが。

 秋葉の言葉を聞いて女性たちは「あ、なんだ彼女さんがいたんだー」とか言って去って行った。

 

 「はぁー。助かった。ありがとな秋葉。俺もう駄目なのかと思った」

 「何女みたいなこと言ってるのよ?ああいうときはしっかりとしないと駄目でしょ?全く、これだから奏汰は」

 「す、すみません」

 「謝るなら祈莉ちゃんと一緒に来ること。私はすぐまさ君のとこ行くから!」

 「あ、え、ちょっと?」


 すたすたと走って柾の元へ向かう秋葉。その足取りは迷いが無く、柾のいるところまで一直線で走っていく。

 (あれ?あいつなんで場所知ってるんだ?)


 「あ、あのー」

 「あ、ごめん。じゃあ、俺達も……」

 「その、お、おかしくはありませんか?」

 

 白宮の方を向いてすぐに二人の元へ行こうと言いかけて後ろを振り向くと、そこには、いつもと違いかなり大胆な格好をした白宮がいて、


 「へ、変ではないですか?」

 「へへ変ではないです!」

 「なんで敬語なんですか?」

 「いや、その……」


 目の前には、露出度の高い白と花柄の入ったフリルビキニを纏う白宮の姿があり、俺の思考はそこで固まる。

 いつもはほとんど露出をしない白宮。学校でも常にタイツを履いていて足はおろか、腕すら上からカーディガンを羽織っているのでほとんど肌を顕わにしない。それなのに今はその豊満でバランスのとれた胸と腰辺り以外は全てがさらけ出されていて、一言で言うならば、


 「す、凄く良いと思う」

 「本当ですか!?」

 「あ、あぁ」

 「具体的にはどの辺が?」

 「具体的に、と言われても……」


 直視することすら恥ずかしいその姿を恥ずかしさを押し殺して見る。

 

 「その、なんだ……詳しい事は分かんないけど、か、可愛いと思うぞ!」

 「……!!そ、そうですか……な、なら悩んだ甲斐があったというものですね」

 「そ、それより早く行こう」


 あまりにも居たたまれなくなった俺は白宮の腕を引いて二人の元へ急ごうとして、そう言えばと白宮の方へ向き直る。

 

 「あ、あの先輩?」

 「……あんまり人に見られるのは、あれだから」


 自分で来ていたパーカーを上から羽織らせる。自分の物の為か、白宮が羽織ると大分大きく見えるが、その分下の方も腿あたりまで隠れているのでいいだろう。恥ずかしさを隠すように俺は少し強めに白宮の腕を引く。


 「こういうのは、やっぱりずるいです……バカ……」

 

 少し小声で「バカ」と呟いているのが聞こえるが、今はそんな事に構っていられるほど俺も正常じゃない。ただでさえ暑いというのに、こんなものを見せられれば熱で死んでしまう。

 

 (あー、やばい。こりゃ熱中症で倒れるわ)

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういうところで無自覚に紳士なのムカツクなこのやろー末長く爆発しとけー
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