28 不満の詰まった弁当箱
電車の中。俺は三人と一緒に向かい合って座っている。俺は通路側で窓側には白宮がいる。目の前には柾、そしてそのまた横に秋葉だ。
「それで、つまり金は必要ないと?」
「ああ、秋葉のお母さんの計らいでな。ほんと助かったよ。なんせ結構お高めな旅館だからな」
「そうだよ!だから私に感謝してくれてもいいんだよ?」
騙された。最初から俺は何もかも騙されていた。
万が一俺が金を払えなくても問題無いように、こいつらはそこまで根回しをし、如何に俺を誘いだすか、それを綿密に考えていたわけだ。
俺が金を払えなくても、こいつらとしては何も困らない。何なら後払いでもいいとか言って連れてきたのだろう。最初から退路は塞いであったわけだ。
「白宮も知ってたんだよな?」
「はい。その、お二人からは先輩には絶対に言わないでと」
「だって、奏汰は普通に誘っても絶対来ないしね」
「そうそう。去年だって、三人で遊びに行こうって言ったのに、なんだかんだ理由を付けて断られたしね」
「誰が付き合ってるカップルと一緒に旅行に行くんだよ!?」
「去年はたっぷり奏汰に俺と秋葉のいちゃつきぶりを見せてやろうと思ってたのに」
「あわよくば奏汰が彼女欲しい!っていうくらいのものを見せてあげようと思ってたのにさあ」
「余計なお世話だ!」
全く、こいつらはそう言ったことしか頭に無いらしい。
「でも、今年はそれも出来そうにないよな」
「どうせするんだろ?」
「まあ、するけど。効果は無いと思ってさ」
「なんでだよ?」
「だって、奏汰と白宮さん付き合って……」
「ねーよ!?だからそう言う関係じゃないって何度言えば分かんだよ!?」
「えー、でもこの前はもうデートにだって行ったんでしょ?それもうデートじゃん!!」
柾と秋葉はそう言ってこの前から俺たちの事を邪推していたらしい。
「それに、こんな写真も撮ってるんだから、いいわけは出来ないでしょ?」
「あ、秋葉先輩、それは!?」
「は?何を……」
そう言って秋葉がスマホをこっちに向けると、そこには俺と白宮の写真が写っていて、
白宮はとても無邪気で嬉しそうな年相応の少女の笑顔を浮かべ、俺は少し顔を逸らしている。
そう、あの日ゲーセンで撮った写真だ。
「なんでこれを!?て、そうか。白宮か」
「すみません。秋葉先輩にどうしてもって」
「いや、この場合はお前じゃなくて秋葉が悪い。お前は謝んなくていいよ」
少し気まずそうな白宮の頭に手を乗せる。
最近ではよくやるようになった事だが、それを柾と秋葉は呆れ顔で見て来る。
「ねえ、まさ君。これで付き合ってないってどう思う?」
「はっきり言っておかしいと思う。そうじゃなくても奏汰が男なのか疑惑が浮かんで来るレベルだな」
「うるせーな。俺はれっきとした男で間違いないっての」
大体、このくらい普通じゃないのか?と思い白宮を見ると凄く恥ずかしそうに俯いている。
「え?これって?……え?」
「先輩、そう言うのは二人の時以外はあんまり……」
「なんか俺甘すぎて胃もたれしそうだわ」
「まさ君も?私もなんか凄くお腹いっぱいだよー」
「お前らが言うな!お前らが」
(いつもこっちは胃がもたれて炎症おこしてるっての!)
とは思いつつも白宮の反応が普通に予想と違ったため少し戸惑う。
「こんな写真を撮って頭ぽんぽん。おまけにほぼ半同棲中。これでなんで健全な友達のままなのか俺は理解が出来ないよ奏汰」
「俺はお前らと違って慎重なんだ。一時の気の迷いでお互いを不幸にしたくないしな」
「なんだよその少し深めの話しは」
そんな風に話しているとそろそろお昼も近くなってきたので白宮が鞄から人数分の弁当を取り出す。
昨日からせっせと何やら作っていたのはこれの様だ。
「これ、作ってきたので皆さんもどうぞ」
「これって、祈莉ちゃんの手作りでしょ!?やった!祈莉ちゃんの料理って前から思ってたけどおいしすぎるんだよねー!これでなんで付き合わないのか私は奏汰が生きてるのか怪しくなってくるよ」
「ああ、そうか。俺もしかしたらアンデッドなのかもな」
「あー、アレだろ?夜闇の死王、ノーライフキング!!とか言い出すんだろ?」
「うるせぇよ、このオタク野郎!」
柾がそう言ってオタクかつ厨二病発言をしてくるので適当にツッコミを入れる。
大体生物か疑わしいって、そしたらこんなことせずにこいつらを食い殺している。
そう考えながら俺は二人よりも少し大き目の弁当箱を渡される。
「なんで俺だけ大きいんだ?」
「アレだよ、奏汰アレだよ!やっぱり大事な人にはそれだけ多く食べてもらいたいっていう、そう言う事だよ!」
「お前には聞いてねぇよ!で、しかもなんでこんな茶色い物多めなの?いじめ?」
「いえ。ただ、先輩また瘦せたので、多めに食べないといけないと思いまして」
「おー!よかったな奏汰。お前のためにここまで考えてくれてるんだぞ?」
そうか、そんなことを。でも、流石にこれは……。
そこにあるのはいつも見る色鮮やかな緑多めの料理ではなく、全体的に茶色で見てても胃もたれしそうな不毛の大地だ。
見ているだけでも胃がもたれそうになって来る。が、柾と秋葉にとってはそうでもないのか凄くキラキラした目で俺の弁当を見る。
確かに、品目的には凄く手が凝っているのがよくわかる。分かるのだが、それでももう少し緑を取り入れてもらえると助かった。
「い、やがらせ、じゃないんだよな?」
「おいおい奏汰、それは流石に白宮さんに失礼だろ?」
「少し日頃の先輩への不満を取り入れてはみました」
そう笑顔で言い放つ白宮。
ああ、やっぱりだ。そうだろうとは思っていた。白宮だって人間なのだ。俺への不満の10や100はあって当然だ。寧ろない方が可笑しいのだ。
「ちゃんと食べるんだよ奏汰?」
「そう言うなら、秋葉にも少し分けてやろうか?さっき食べたそうな顔してたよな?」
「いいよ私は。それは祈莉ちゃんが奏汰に作った物なんだから」
「早く食べろよ!お前、残したら今日晩飯抜きな?」
「なんとも横暴な親友だな。胃がもたれて吐きそうになったらお前に吐いてやるよ」
俺はそのまま箸でまずは唐揚げを掴む。これも相変わらず自分で揚げたらしくとても美味しい。
思わず「うまい!」とこぼしては柾と秋葉が俺にニヤッと微笑む。
その後、何とか無事に弁当を平らげた俺だったが、やはりというか少し吐き気を催しながらしばらくはその場から動けなくなるのだった。
電車に乗って約3時間。ようやく電車は目的の海水浴場と旅館のある街に到着するのだった。




