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パンドラの匣  作者: ばれーしょ
1/1

邂逅

拙作ですがよろしくお願いします。

 キューブ


 ある日を境に中央大陸で発見されるようになったそれは、はじめはただのガラクタだと思われていた。

 無機質な材質の、幾何学的な文様の施された立方体形状の物質。軽く弾いてみれば内部に反響音のすることから、()()が何らかの箱状の物体であることは発見者にも気づくことができたものの、何が入っているのか。どのような用途が秘められているのか。それらの情報は知る由もなかった。


 時が経つにつれキューブの発見報告は世界各地で見られるようになる。ある者は山岳の頂点で。ある者は急流の中で。ある者は遺跡の中だったり、なんなら市街の裏路地の一角であったり。

 とにかく場所を問わず、キューブは発見されるようになった。それに呼応するように、キューブ()()の開封に成功する者たちも現れ始める。そして、開けた者らは皆例外なくその中身の驚愕することとなる。



 ––––––彼らが開封したキューブの中には、「奇跡」が詰まっていたのだった。



 あるキューブからは炎熱が迸り、あるキューブからは急流の如き水流が止めどなく発生した。当時の人類には「奇跡」と呼ぶほか形容できないそれらの事象が、開封の成功者によって続々と行われるようになったのである。


 キューブの発見と、それに伴う開封者の出現と「奇跡」の具現。


 これらの事例が発生した九百年前の出来事を総称して、こう呼称する。


 人類に初めて「魔導」が伝わった瞬間––––––第一次魔導革命、と。




 ・・・


 ドスン、と重い麻袋をカウンターの上に置く。普段より早々に切り上げてしまったが故に、量としては少ない方の収穫であった。


「おーらおっちゃん、こいつでどうだい、換金してくれねぇか」

「今日も来たのかいあんちゃん、どうだい?今日はなんか良いもん拾ったか?」


「まぁ数はぼちぼちってとこかな。でも俺には見る目はねぇけどよ、いくらか良いのまじってるかもだぜ」

「いい加減匣のギャンブルに懲りないのかねぇあんちゃんは。まぁ査定できるだけしてみるけどよ。どれどれ––––––」


 ここは北方のある街、魔匣専門店の一角であった。

 すっかり日も暮れて、街灯が通りを薄暗く薄暗く照らすなか、店のカウンターを挟んで匣技師の偉丈夫と疲れ切った様子の青年とが話し合っていた。


「んーーー」

「どうよおっちゃん、なんかあったか?」


「いや、相も変わらずダーメダメだ。まったく運が悪りぃな、あんちゃんは」

「マッジかよ.....」


 わかりやすくがっくりと項垂れる青年。


「で、どうする?見たところ全部ランク1ってところだが。それでも換金してくか?」

「いやぁ、持ち帰るよ。あんがとな、おっちゃん」

「おう、またなんかみっけたら言ってくれよ」


 青年はカウンターから持ち出した麻袋を肩に担ぎ、チャリンと鈴のなる扉を開けて外へ出る。すっかり冷え込んでしまった街中で、肩をすくませながら足早に寝床へ急ぐ。



 青年の名前はリナーク。

 キューブを探し当てては魔匣専門店に持ち込み、換金して日銭を稼ぐ––––––そんな日々を送っている人物であった。

 今も日課の匣探しを町外れの森で行い、収穫した匣を換金してきたところである。


 第一次魔導革命以降、各地で発見された匣は、内包された「魔導」のその利便性から世界各地で重宝されてきた。もちろん、何かしらの加工は必要であるが。

 例えば、熱を伴う匣であれば炊事も容易になるし、多めに水の出る匣がいくつかあれば、水道に活用できるよう加工すればそれだけで街の公共衛生も整備しやすくなる。

 一千年近くの時を経て、匣は今や人類にとって必要不可欠な道具と化していた。


 そんな匣をどこからか探してきては、内包される「魔導」の利便性に賭けて匣の加工業者に頼んでは換金––––––という博打者も居るとか居ないとか。



「ったくこれ全部ランク1かよぉ〜ついてなさすぎかよ、俺!?––––––前に2が出たのも二ヶ月前だったか.....」


 リナークの悪態も虚しく、帰路を辿るリナークの肩で揺れる麻袋はなんとも歯応えなく佇んでいるようだった。


 休憩がてら街路の脇に座り込むと、おもむろに麻袋を開けて中身を取り出すリナーク。


「んー一個くらい良さげなの絶対入ってる気ぃしたんだけどな.....


 –––––––––ん?」



 不意に周囲の空気がピリついたことに気付くリナーク。

 普段の街中と違い、どこか風も軋むような雰囲気がして––––––周囲を見渡そうと、首を動かした次の瞬間。ごう、という音とともに北方の空が赤く光り輝いた。


「あっち–––って、今日行った森の方じゃね!?いや、これ!!!」



 もう絶対何かあるっしょ!!!!!!




 そう言うがいなや、リナークは麻袋を担いだまま全速力で北方の森へと駆け出した。




 ・・・


「いや絶対この辺だと思うんだけどな〜〜〜確か」


 先程の赤い光の根本へ向かおうと全速力で突っ走ったリナークは、気づけば森の奥深くまで進んでしまっていたようだった。


 夜の闇の中、一心不乱に森へ駆け込んでみたは良いもののろくな明かりも無い。針葉樹の木々が風に揺れ、足元の草木も擦れて音を出すが、リナークが開けた空間に出て足を止めた頃、それらも止まってしまった。

 暗闇と静寂の包む中、リナークはもはや迷子に陥りかけていた。


「なんかどのあたり歩いてるかわかんなくなってきたし、そろそろ切り上げるかな––––––って、おう」


 コツン、とした感触の元––––––足元を見てみると、そこには紛れもなき無機質幾何学立方体、匣がぽつんと転がっていた。

 それを匣と認識するとほぼ同時に、リナークは拾い上げる。


「え、もしかしてこれか!?俺見つけちゃったか!?絶対レアもん来たぞこれ!」


 ヒャッホウ、と狂喜乱舞するリナーク。

 先程の静寂と打って変わり、喧騒が森の中を支配した。––––––が、それが彼にとっては《《まずかった》》。


「ヒャッホ–––––––––おうぐっ!」




 突如としてその身を弾き飛ばされるリナーク。

 勢いよく地上から射出されてしまった彼の身体は放物を描いたかと思えば、大きな木の幹に打ち付けられてしまった。

 気づけば森の最深部まで足を踏み入れていた彼は、そのモンスターの出没地域に足を踏み入れてしまっていたことに気づけなかったのだ。


 活動時間帯が夜型であるが故に、昼間の探索では目にすることのなかったモノ。知識としては薄ら知ってはいたものの、気を抜きがちな性格が災いし存在を忘れてしまっていたモノ。


 森の主たる闇熊、ノクタノベアードが彼の目前にその巨体で聳え立っていた。



「ぐぅ、いて、てて–––––––––、ってノクタノベアードさん、ってマジかよォ.......」


 なんとか口を開いたは良いものの、出てくるのは声にならない声と血反吐の塊。

 先程打ち付けられた衝撃で上半身のどこかがイカれたか、体勢を直そうにも激痛が走る。


「あー、ケホッ、あ゛、あァ––––––。完全に、ミスこいた、なぁっ」


 ズシン、ズシン、と巨躯が動かないリナークの前に迫ってくる。

 森の主はリナークにわずかながら注がれていた背後の月光を遮るようにして、彼の前に再び立つ。


「んにゃ、最–––––期、これかよっ。––––––最後なら、そうだな」


 無慈悲に振り下ろされる鋭き闇の刃。

 喰らいつかんとその首を突き出した森の主の前で、リナークは最後独り呟く。


「金゛と、美女!!!抱いて、終わりだがった、なァ–––––––––」


 狂牙を前にゆっくりと瞼を閉じるリナーク。

 夜の闇と月明かりさえ閉じ込める森の中、人の叫びが一つこだまする–––––––––。







「『炎槍イグニ・タペラント』ッッ!」






 瞼を閉じるはいいが、いつまで経っても命の絶たれた気配がしない。

 目を開けたらそこはお花畑でした〜天国へようこそ〜とかなってないよな、と思いつつ、意を決して目を開くリナーク。


 すると目の前には花畑....などではなく。

 胴体を真っ直ぐに()()()()()()闇の大熊の倒れた抜け殻と、そのかたわらで地団駄を踏む人物の影が。




「寝起きに、人死にの現場見る!とか!なんだここ!?地獄か!?普通ありえんじゃろ!?」


 その人物はフーフー言ったかと思えば、少しすると落ち着いたようでクルリとリナークの方を向く。


「おう、もう目ぇ開けていいぞお主。そこの熊は吾輩が倒しちゃったし」

「いやもう超絶美女のハチャメチャ大活躍!みたいな?特大スクープ間違いなし的な?お主も見てたじゃろ?あ、目閉じてたから見てなかったか」



「いやでもどうじゃ?今の吾輩の勇姿!感想!感想くれ!」


 ほれ、ほれ!と物凄い勢いで手を振る女性。意識が朦朧とするリナークにもその姿はかろうじて目に写り、それはもうボンキュッボンと形容するもおこがましいような.......そんな、均整の取れた体つきの–––––––––








「ロリじゃん.......」





 意識を失うまさに直前。

 リナークが最後に発した言葉は、この五文字だけであったそうな。

















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