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37.ずっと考え続けてられる棋士って凄いよね

まさか温泉卓球で疲れる日が来るとは。

だって未来さん全然ミスしないんだもん。才能に驚くばかりです。

勝ち負けでなく、ラリー回数というスコアを重ねていくゲームになってしまった。



部屋に戻って、現在時刻は8時半。まだ数時間は起きられそう。


いや、正確に言えば、まだ寝たくない。今日寝たら、明日、つまり、旅の最終日が来ちゃうから。刻限が近づいて来ると、長く続いて欲しいと願ってしまうものだ。人間だもの。


ここ数日で、隣に彼女がいるのが当たり前に感じられるようになった。数週間前では、彼女と会うことすら夢物語であったのに。慣れとは恐ろしい。

まして、僕らは学校すら別だ。普段あんなに会える時間が短いことを嘆いていたじゃないか。今の今までその事実が頭からすっぽ抜けていた。


なればこそ、今のこの残った時間を、僕は少しでも二人で有意義に過ごせるようにするべきだ。



「何かして欲しいことある?」


「オセロ」


「おっけー」


好きだな、オセロ。もう多分負け越す。



「...とそれだけじゃなくって、」


「ん?」


「僕に何か普段の振る舞い的なのでして欲しいこととかある?」


「そう言われてもな〜。すぐには見つからないな〜」


「それじゃオセロやりながらでいいから」


「はいはい」



パチパチ石をおいていく。未来はよく考えて、



「んー、特にないかなー。あー、でも」


「でも?」



「...強いて言うなら、これからも、できる限りずっと傍にいて欲しいなー、なんて」


「んー、それは全然良いけど...」


「あー、分かってるよ、違う学校だし時間を取りにくいのは。可能な限りでいいんだよ。」


んー、いつも通り喜んでいいんだよな? ちょっと表情に影が差していた気がしたけど。


「あいよ、分かった。仰せのままに」



パチ。あ、もう打てる手が悪手しかないや。完敗。


「遂にオセロでも負けてしまった」


「やったー、もう一戦やろ。こてんぱんにしてやろうー」


「次は負けん」


ちょっと未来個人に意識が傾き過ぎて、オセロを疎かにしてしまったか。それも大事だけど、有意義に過ごすには、出来事一つ一つに全力で取り組まないと。さしあたっては次は絶対勝つ。


未来から感じた微妙な空気はすっかりなくなったように思われた。




負けましたー。


「もう勝ち方分かんないや」


「昨日の負け越し分まで完済したいな」


「まさかこれ以上ボコす気でいらっしゃる?」


「もちろん。卓球分まで返してあげるよ」


今夜は、楽しく、辛い夜になりそうだ。




.........

......

...


寝たくないけど眠い。もう何回石を置き直したことか。その間にも負け続け、勝率はもう3割くらいだ。そんなふうにを思うのでさえ意識を削られてる気がする。まさか眠気でこんなに辛い思いをするとは...

未来の大きい目がだんだんと細まってきている。分かるよ、多分僕も今そんな感じ。


「ねむいー」


「眠いなー」


「おわる?」


「終わろっか」


思考が回らないためだんだん勝負の質も落ちてる。ここがヤメ時だと思う。


「ねる?」


「ねよっか」


もうだめだー。


2人してそれぞれのベッドに倒れ込む。ろくに片付けもせずに。明日の僕がきっと何とかしてくれるさ。まかせたぞ。


うわー、しこうがふわふわする。これすぐにいしきがおちるやつだ。さいごにかのじょのかおをおがんでおこう。

あ、もうめをとじてる。そうとうねむかったんだろう。でも、めをとじながらもこっちにほほえみかけて...


「...おやすみー...」


ああ、うん。


「おやすみー」


あんしん。ぐぅ。

新情報がなくて申し訳ないです。


今回の豆知識

(19)古文「まかる」は「まゐる」と同じ、参上する、という意味。

平安前期に、出る、という本来の意味が反転しました。めんどくさいね。じゃあ出るはどうやって表現したかと言うと、「まかり出づ」を縮めて「まかづ」としたそうです。ややこしいね。


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