5話 庭園散策に行こう
ヒルダに助言をしてもらい、母様にも文面の相談をしつつ書いた手紙の返事は、なんと三日後には届いた。
「早い……」
「時間を考えると、お屋敷に着いてすぐに返事を書かれたっぽいですねー」
「なんだか面目ないわ……」
……ベルンハルド様は、几帳面な方なのかもしれない。
そう思いながら、ヒルダが開封してくれた手紙を受け取る。
封筒も便せんも上質な紙製で、太陽の光にかざすと細かな模様が浮かび上がった。これ一枚でもかなり値が張りそう……と考えてしまう私は、やっぱり所詮は成り上がり男爵家の娘だ。
封筒の中には便せんが二枚入っていて、かなり大ぶりで角張った字が書かれている。
これが、ベルンハルド様の字なんだろう。思っていたよりもワイルドな感じだ。
一枚目の便せんには、アンネリエがすくすく育ってよかったということがまず書かれていて、天気がいい日には半日ほど庭に出しておくといい、と助言が加えられていた。
そして二枚目には――
「……ヒルダ、見て!」
「いいことが書かれてましたか?」
「ええ! ベルンハルド様が、今度のお休みに一緒に王立庭園を散策しないかって誘ってくださったの!」
王立庭園はその名の通り過去の国王が造らせた、王家が管理する庭園だ。
王城の隅っこにあるけれど、ここは身分を証明して入場料を払ったら一般市民でも散策可能だ。私も、子どもの頃に両親に連れられて行ったことがある。
ここには薔薇などの王侯貴族が好む花はもちろん、城下町の花屋でも売っているような有名な花もたくさん植えられていて、デートスポットにもぴったりの場所だ。子どもの頃に行ったときも、仲のよさそうな恋人たちや夫婦たちを見かけて、ちょっと羨ましくなったっけ。
……そんな王立庭園に、ベルンハルド様と一緒に行ける。
子どもの頃のような「家族」ではなくて――憧れていた「恋人」同士として。
――記憶の中にある美しい庭園をベルンハルド様と一緒に歩く自分を想像すると、じわじわと頬が熱くなってきた。
「……どうしよう……嬉しい……」
「デートに誘ってくださるなんて、ベルンハルド様もお嬢様のことを気に入られたのでしょうね」
「そ、そうかな? そう思ってもいいのかな?」
「そうですねー。自分の好きなものが溢れている場所にお嬢様を呼ぶってことは、お嬢様のことを憎からず思っているってことじゃないですか? お嬢様のことがどうでもよくて義理でデートを提案するのなら、自分の好きな場所には呼ばないと思うのです」
「……そう、かもね」
ヒルダの言葉を聞き、私はアンネリエの植木鉢に視線を落とした。
確かに、もし私のことがどうでもよかったら、自分の好きな花がたくさんある王立庭園を一緒に歩こうなんて言わないかもしれない。
それだったらやっぱり、私なら一緒に庭園を歩いて花を観察してもいい、と思ってくださったってことで……。
ぼんやりとベルンハルド様のことを考えていると、すくっとヒルダが立ち上がった。
「……こうしてはいられません! 王立庭園に着ていくドレスを新調しなければ!」
「えっ? いいよ、そんなの。外出用のドレスなら、クローゼットにたくさんあるし……」
「前々から申し上げていますけれど。お嬢様が質素倹約なのはそれはそれでよろしいことですが、使うべきときに使わなければお金も無駄になります! 旦那様も奥様も、お嬢様はもっと服飾品にお金を掛けるべきだとおっしゃっているではないですか!」
ヒルダに指摘され、つい節約精神を出してしまった私は言い返せなかった。
私、そこまでおしゃれに関心がないし、関心がない分野についてはついついケチってしまうんだよね……。
「う……それは、そうだけど」
「庭園散策ですから、くるぶし丈の外出用ドレス、グローブ、ブーツ、それから日傘も新調して……ああ、そうです。つばの広い帽子も買わなければ、と思っていたのですよ! ちょうどいいですね!」
「そ、そんなにいいのに……」
「遠慮なさらないことです! いいですか、お嬢様。お嬢様は最初こそフられる気満々だったベルンハルド様との結婚に、今ではすっかり乗り気になってらっしゃるではありませんか!」
腰に手を当てたヒルダが、熱弁を振るっている。
ここで口を挟んだら後々面倒なことになるというのは分かっているから、黙って聞くことにする。
「となれば、今後はベルンハルド様を虜にできるよう、今以上に身だしなみに気を配るべきなのです! そもそも、私はお嬢様のお付きであり、メイク係でもありますからね。いつもお屋敷ではすっぴんでグータラ過ごすお嬢様を飾る機会を、見逃したりはしません!」
「そ、そうね……」
「ということで、奥様に相談しますね。お嬢様の魅力で、ベルンハルド・エストホルム様をメロメロの虜にしちゃいましょう!」
「……できるかなぁ」
磨けば光る隠れ美人ならともかく、私はただのグータラ平凡女だからなぁ……。
私としては半信半疑だけど、ヒルダはやる気に燃えているようなので、ひとまず彼女に任せることにした。