0話 全く盛り上がらないお茶会
カチャリ、と繊細なティーカップが微かな音を立てる。
私はそっと顔を上げて、無礼にならない程度に正面に座る男性を観察した。
今、ティーカップを下ろしたのは金髪に青の目を持つ男性。
リネリア王国の男性貴族の正装であるジャケット姿で、細身に見えるけれど騎士団に所属しているからか胸元や腕周りはがっしりしている。手も大きくて、彼の手元にある私と同じもののはずのティーカップがやけに小さく見えた。
柔らかそうな髪が、春風を受けて微かにそよいでいる。目を伏せているから、長い睫毛が目元にうっすらとした影を作り出していた。
……絶対に、私より睫毛が長い。どうすれば睫毛を伸ばせるんだろう。睫毛専用の育毛剤とか、ないかな。
暖かな陽光差し込むテラスにいるのは、私と彼だけ。さっきまで給仕をしてくれていた従者や私が連れてきたメイドは、さっき室内に引っ込んだ。
テーブルには、おいしそうなお菓子がたくさん並んでいる。紅茶も甘い香りで、とてもおいしい。
周りに目をやれば、綺麗に整えられた芝生やこぢんまりとした可愛らしい花壇などが見える。
そんな素敵なティータイムの席だけど――残念ながら、私たちの間に会話らしい会話はない。
一応、努力はした。
これでも私の目の前にいる人は……私がいずれ結婚するかもしれない人だし、私よりもずっと身分が上だ。
ただし、である。
むっつり黙る彼に話題を振るけれど、「ああ」「そうか」くらいしか返事をもらえなかった。
「……お菓子、おいしいですね」
「……ああ」
「ベルンハルド様は、お菓子はお好きですか?」
「……まあ」
うん、さっきからずっとこんな感じ。もう慣れた。
鍛えられた体と優美なかんばせを持つ目の前の人は、黙ってお茶を飲んでいる。私も時々話しかけつつ、おいしいお菓子とお茶を堪能する方に力を入れることにしていた。
……そうしてお茶会が始まって一時間ほどで、お開きとなった。
「いかがでしたか、お嬢様」
「ヒルダ……」
帰りの馬車の中で、メイドのヒルダに問われる。彼女はお茶会の間は室内で待機していたから、あのやり取りを知らない。
馬車が動きだし、私はすうっと息を吸った。
「……いい感じよ」
「まっ、ということは?」
「全然会話が弾まなかったの」
「なんと!」
「これで……間違いなく、破談になるわ!」
「おめでとうございます、お嬢様!」
ノリのいいヒルダはきゃーっと喜んでくれたので、私も満面の笑みで拳を固め、天井に向かって突き出した。
「きっとベルンハルド様は伯爵に、破談を申し出てくださるわ!」
「よかったですね! これで旦那様と奥様にもよい報告ができますね!」
「ええ! 今日は打ち上げよ! お菓子を買って帰りましょう!」
「わーい! 私、甘いタルトがいいです!」
「今日一日ヒルダを振り回してしまったものね。遠慮なく言ってちょうだい!」
もちろん、私のお金から出す。
なぜなら今の私は、とっても機嫌がいいのだから!