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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第五章
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魔術には魔術で

「お二人はこれからどうされるのですか?」


 わたしは魔術師の一族の生き残りだというシュタイナー夫妻に尋ねた。


 男性がカーヌムさん、女性がアルカさんというお名前で、わたしの両親くらいの年齢のご夫婦だ。


「どこの国でも魔術師は歓迎されないので、ここでひっそりと暮らすのが一番良かったのですが……」


 その顔はとても悲しそうで。そしてお二人は顔を合わせて頷いて、そして教えてくれた。


「息子を探しに行きたいと思っています」

「息子さん、ですか?」

「はい。どうにか息子だけは生き延びてもらいたいと、転移術で遠くに逃がせはしたのですが、実はどこに行ったかは分からないんです」


 焦っていて、どの場所に通じる転移陣を使用したのかが分からないのだという。


 魔術師の一族は、対外的な点から閉鎖的にならざるを得なかっただけで、各国に転移陣を置いて、必要な時は転移できるようにしていたらしい。


 とても羨ましい。羨ましすぎる。だからわたしは提案をする。


「それなら、わたしの家に来ませんか?」

「えっ?」

「わたしに魔術を教えてください! もちろんお仕事として!! うちで働きませんか?」


 念願の魔術。魔術師は怖い人ばかりのような気がしていたけれど、このご夫婦はとても人の良さそうな方たちだ。


 それに、目には目を、歯には歯を、魔術には魔術を。


 魔術についてきちんと知ることができれば、公爵家のあの魔術師のことについても、何か分かるかも知れない。


「ちょっとスーフェ、ロバーツ王国は魔術は禁忌でしょ? チェスター王国もだけど」

「きっと何とかなるよ。だって、転移術ができたら絶対に便利だよ! もしもみんなとの冒険の旅が終わっても、すぐに会えるんだから!」


……などとうまいこと言いつつも、結局はわたしの頭の中は今、ピンク色のドアで埋め尽くされている。


 切実にピンク色のドアが欲しい。アイテム袋を手に入れた今、アイテム袋の中から「タララタッタラー♫」と、ピンク色のドアを取り出すという偉業を成し遂げたい。考えただけでもテンションが上がる。


「助けていただいたうえに、そこまでしていただくなんて滅相もない。きっとご迷惑をおかけしてしまいます」

「大丈夫ですよ! 全く心配いらないです」

「でも、先ほどもお話に出た通り、ロバーツ王国でも魔術は禁忌とされていますから……」

「でも、魔術が禁忌なのは、危険な魔術を使おうとしたり、生贄を使ったりするからですよね? そういう危ない魔術はまるっと契約魔法で制限しちゃえばいいだけですし」


 魔術に関しての法律や規範を予め作った上で、契約魔法を使いそれを遵守させればいいのだと、わたしは考えた。


 しかも契約魔法を使えば、ただの法律とは違って、契約を犯した瞬間、予め定めておいた罰を下すことまでできる。その強制力は絶対で、逃げることもできない。


「契約魔法? 契約魔法なんて、そんな魔法が存在するのかしら? 魔法については家庭教師から学んでいるけれど、私は今までに聞いたこともないわよ?」

「確かに文献には載ってないけれど、あるんだよ。わたしも使えるし、わたしのお祖父様も使えるよ」


 お祖父様と違って、わたしは契約魔法を有効に活用してみせる。愛人契約なんかには絶対に使わない。


「だから問題ありません! わたしのうちを拠点にして、息子さんを探せばいいんですよ。それに、今までここで魔物と共存してきたんですよね? ということは、魔物は友達、ですよね?」

「友達というか、魔の樹海にはたくさんの魔物が生息していますから、魔物の扱いには慣れていると思います。特にこのあたりの魔物は知能も高いので、共存も可能でした」


 時々、怪我をした魔物を見つけては、治療したりもしているそうだ。


「それなら、やっぱりうちで働いて欲しいです! 切実に人材を募集していたんです!!」


 だって、公爵家の森にいる精霊さんたちが連れてきた魔物たちが増えすぎて、カルだけでは手に負えなくなっているから。


 しかも、カルは中等部にも通っている。勉学と魔物の世話の両立は大変に違いない。できる限りカルの負担を減らしたいと思っていた。


 けれど、魔物の世話をしたがる人ははっきり言っていない。しかも、グリフォンのセドを筆頭に、見ただけで卒倒してしまいそうな魔物たちの世話だから余計にだ。


「善は急げ! 思い立ったが吉日! 今、カルに連絡をとってみるから……」


 ささっと交換日記を開き、メッセージを書き書き書き。


 カルからの返事を待つ間にわたしたちは少しだけティータイム。


 ルベとミケにはミルクを。すると


「ワンちゃんもミルクを飲んでみる?」


 いつのまにか中型犬くらいの大きさになっていた召喚獣様--ワンちゃんにもミルクをあげてみる。ちなみにこのワンちゃんは大きさが自由自在に操れるらしい。


「あ! 飲んだ!! 他にも何か食べるかな? アルカさん、何を食べさせても平気ですか?」

「はい。召喚獣様は特に甘いものがお好きみたいですよ」

「甘いもの?」

「ふふ、じゃあ、飴ちゃん食べる?」


 ベロニカが飴ちゃんを三個取り出した。国境門の人たちから、一体いくつの飴ちゃんを強奪したのだろうか? ベロニカのことだから、相当数の飴ちゃんを手に入れたに違いない。


「ワンちゃんって、飴ちゃんを食べても平気なのかな?」

「ワンちゃんはワンちゃんでも、召喚獣様だからきっと食べるわよ! だってほら!!」


 飴ちゃんに興味津々のワンちゃんは、我先にと三つの頭がひしめき合っている。その姿がとても可愛くて。


「うわっ、可愛すぎる!! わたしもあげたい!!」

「私も!!」


 わたしたちはワンちゃんの三つの頭それぞれに飴ちゃんをあげた。


「ふふ、可愛いね。今日から君はスーちゃんだ!」


 わたしは自分が飴ちゃんをあげたワンちゃんにスーフェのスーをとって名前を付けた。


「もうっ、スーフェったら、勝手に名前をつけるなんてずるいわ! あたしだって、素敵な名前を考えてたのに! ねっ、ベロちゃん!」

「二人ともセンスないわね。私の考えた名前の方がいいわよ! ねっ、ケーちゃん!」

「お前ら、他人様が呼び出した召喚獣に自分の名前を付けようとすんなよ。それにもう名前くらいあるんじゃないのか?」


 ルベが呆れたように言う。けれど、わたしたちは自分の名前を付けたくて仕方がない。今まさに誰の名前を付けるかで睨み合っている。


「ケーちゃんよりもケルちゃんの方が良いですよ。それに、身体は一つですけれど、頭は三つあるんですから、それぞれに名前をつければピッタリじゃないですか! ケルちゃん、ベロちゃん、スーちゃん。三つの頭をあわせてケルベロスーちゃん。どうですか?」


 ミケの提案に、バチバチッと火花を散らしていたわたしたちの目から鱗が落ちた。


「なるほど、頭で数えるのね。ふふ、素敵ね」

「ケルベロスーちゃん、そのまんまだけど、良い案ね」

「ミケ、センスあるね!! さすがミケ猫にミケって名前だけあるよ」

「それって褒めてるんですか? 貶してますよね?」


 ケルベロスーちゃんたちも異議を唱えない。名前もなかったようで、気に入ってくれたらしい。


 それよりも、甘いものをもっとくれ、と言っている。


 そんなこんなしてるうちに、カルから返事がきた。


「カルから返事がきたよ! さすがカルだよね。いつもすぐに返事をくれるんだもの。やっぱり愛の力で日記が書かれたって直感するのかな?」


 あくまで交換日記だから、わたしが交換日記を書いたからといって、前世のメールのように着信音が鳴って知らせてくれる機能はない。それなのに、カルはすぐに返事をくれる。


 本当にどうして返事がこんなに早いのか不思議でたまらない。けれど、深いことは考えるな、と囁かれている気がする。


 だからわたしは深いことを気にしたりはせず、その返事を読み上げる。


「魔術師の件は分かったよ。スタン様に相談するね。それと、……!?」


 次の一文を見て、わたしの全身に戦慄が走った。柄にもなく読み上げる声が震える。


 だって、それは予想すらしていなかったあり得ない一文だったから。


 そこには、


「スーフェに紹介したい女性がいるんだ」


と書かれていた。


 浮気、その言葉がわたしの脳裏を過った。


 



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