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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第五章
97/125

魔の樹海

お久しぶりです。ブクマを外さずに待っていてくださりありがとうございます!!

新章スタートです。どうぞよろしくお願いします。

 わたしたちが今いる場所は魔の樹海と呼ばれる深く薄暗い森の中。


 ここは一歩踏み入れたら最後、生きては帰れないと言われる魔物の巣窟……のはずなのに、


「ちょっと! 少しくらいわたしにもミケのことを抱かせてよ!!」

「イヤよ、あたしのミケちゃんだもの」

「ベロニカはもう時間よ、次は私の順番なんだから!! 早く私にミケちゃんを抱かせて!!」

「ま、魔王様、助けてください!!」

「……」


 全くそんな雰囲気ではないけれど。


 ミケは猫族なので猫ちゃんに変身できる。しかもとっても可愛いミケ猫ちゃんに。


 ちなみに嫌がらせでミケを抱っこしているわけではない。ミケを抱くことも訓練の一環だ。


 ここ最近のベロニカとケールの訓練は、自分の魔力をコントロールすること。ミケに魔力が流れないように制御しながら抱っこするという、とても素敵な訓練方法だ。


「ミケ、本当にこっちであってるのか?」

「はい。前に一度、シアンのヤツをつけた時に、魔の樹海に来たことがあります。今思うと、魔術師の隠れ里を探していたのかもしれませんね。その時のシアンは何もせずに帰ったんですけどね」


 するりとベロニカの腕の中から逃げ出したミケがルベに駆け寄る。猫ちゃんが並んで歩いている姿はとても可愛い。


 わたしたちに危害を加えないことを約束して、ミケはルベの近くにいることが許された。女三人に猫ちゃん二匹。とても楽しい冒険の旅。


「そういえばさ、ミケって、ルベのことが大好きだよね? どうして今まで会いに来なかったの?」


 なんと、ミケは魔界では優秀な諜報員らしい。ケールが光魔法を使えることをいち早く知ったのも、実はミケのせいなのだという。


 優秀な諜報員なら、すでにルベの居場所は把握していたはず。それなのにミケは今まで一度もルベに会いには来なかった。


「魔王様は人間界で自由を謳歌していましたから。楽しそうな魔王様を邪魔したくありません。俺は魔王様の嫌がることはしたくないし、魔王様親衛隊は魔王様の嫌がることは絶対にしないということが鉄則なんです!」

「なら、さっさと魔界に帰れ」

「そんにゃあ……」


 相変わらず、ルベはミケに塩対応。人間界を謳歌するルベ。人間界に連れてこられたと言いつつも、ちゃっかり楽しんでいるなんて。


「それならさ、どうして今回はルベの前に姿を現したの?」

「だって、ずるいじゃないですか! 俺は我慢してるのに、他のヤツらは魔王様に会っただなんて。だから俺も遠慮するのをやめたんです! もうこうなったら、俺はどこまでも魔王様について行くんですから!」

「絶対に魔界に帰すからな」

「そんにゃあ……」


 こんなやりとりを毎日繰り返している。きっとにゃ界でもそうだったのだろう。やっぱりにゃ界は平和だと思う。


「それにしても、魔の樹海のはずなのに、魔物が全く出てこないわね? 私が聞いていた話と違うわ?」


 生きて帰った者はいないとまで言われている魔の樹海。強い魔物がうじゃうじゃといるはず……なのに出てこない。


「やっぱりルベがいる限り、魔物たちは出てこないのかな?」

「ルベちゃんさすがだわ!」

「お前たちが戦いたいって言うなら、いくらでも魔物を連れてきてやるよ?」


 もちろん誰も返事などするわけがない。


「あっ! そろそろシアンが引き返した場所ですよ」

「あれ? 何か建物があるよ!」

「にゃっ!? 建物なんかなかったのにっ、でも絶対にここで間違いないです!!」

「神殿かしら? お金持ちの人がたくさんいればいいわね」

「時々さ、本当にベロニカが聖女様なのか疑いたくなるよね」

「魔の樹海の中に神殿だなんて、怪しさ満点ね。中に入るのには光が必要かしら?」


 そう言いながらケールは短剣を手に取り魔力を込める。今やケールはライトなセイバーを使いこなしている。もちろん懐中電灯がわりに。


「やっぱり、魔術師って敵なのかな?」


 気軽に魔術師を探そうとは言ったものの、正直不安はある。


 だって、お祖父様の呪いも、図書館で会ったあの人も、わたしにとって良いものではなかったから。


「スーフェは不安なの? やっぱりやめる? チェスター王国でたくさん稼げたから、無理はしなくても大丈夫よ?」

「二人でえげつない商売をしてたわよね。買う方も買う方だけど」


 チェスター王国でも、聖魔法と清浄魔法を込めた魔石はバカ売れだった。


 それよりもバカ売れだったのは『聖女ベロニカ特製の美味しいお水』だ。あれは本当にぼったくりだと思う。製造方法は企業秘密だ。


「魔術師……いや、やっぱり行こう!」

「大丈夫なの? 無理しなくてもいいのよ?」

「だって、ピンク色のドア……いや、ミケのためにも、魔術師を見つけなきゃ」

「いや、俺は魔王様のそばにいられるなら別に魔界に帰らなくてもいいんですけどね。それに今、ピンク色のドアとか言いかけませんでしたか?」


 意味が分からないと、皆は首を傾げるけれど、わたしは知る人ぞ知るピンク色のドアが欲しい。


 つまりは、魔術には転移術があるだろうから、是非とも盗み見たい。わたしには転移魔法があるけれど、大人数での大移動に備えたいから。


「大丈夫、大丈夫! いざとなったら、ルベがいるから! ね、ルベ!」

「……本当にあの神殿の中に入るのか? お前たちは入らない方がいいと思うぞ」

「あれれ? とか言って、もしかして神殿の中に入りたくないの? ルベは神聖な雰囲気とか苦手だから入りたくないだけでしょ?」

「違う!! ただ、良いものではない気がする。結界を張ってうまく隠してはいるけれど」


 神殿を覆うように結界が張ってあり、中の様子がうまく窺えないらしい。


 ミケが以前訪れた時は、結界により神殿の存在に気づくこともできなかったのだろう。


 今はどうしてか、その結界が損傷しているみたい。だから、神殿の姿が露わになったうえに、中の気配が漏れ出ているほど不完全な状態で、それが良いものではないのだとか。 


 わたしたちは結界の損傷箇所を探す。


「ここから入れるみたいだ。だが……」


 ルベが一気に怪訝な表情を浮かべるけれど、わたしたちはそれさえも気が付かない。だって、


「あれ? とてもいい音楽が聞こえてこない?」

「あら、本当!」

「確かに、この音楽は心が休まる気がするわね」

「……音楽よりも、この中は最悪そうだぞ?」


 再びルベが忠告してくれるのに、聞く耳を貸そうとしない。それどころか、


「わたし、歌いたくなっちゃった!」

「スーフェの歌って初めて聴くわ。歌って歌って!」

「私も初めて。ロバーツ王国では、小さい頃から歌の練習もするの?」

「ふふ、それでは、ご要望にお応えして、スーフェリサイタルを開催したいと思います!」


 わたしは意気揚々とエアーマイクを握りしめる。


 その様子を見たルベだけが、そそくさと逃げるように神殿の中へと進む。きっと、先に中の警戒をしてくれるのだろう。


 そして、わたしは歌う。



「ホゲ〜、ボエ〜、ボエ〜♫」



 わたしの歌声が響き渡る。風に乗ってどこまでも。


「や、やめてっ!! スーフェ、やめて!!」

「ひぃっ!! 殺されるわっ!!」

「にゃっ!!」

 

 その瞬間、神殿の奥から、呻き声が聞こえてきた。


『ぐるるるるるっ』


 同時に、男たちの慌てる声も。


「は? 何だよ、何で急に起きたんだよ?」

「さっきの騒音のせいか!? 誰だ? あのど下手くそな歌は!?」

「う、うわあぁぁあ!!!」


 ど下手くそな歌と聞こえた気がした。許すまじ!


 急いでわたしたちが神殿の奥に足を踏み入れると、そこには


「酷いっ、何これ?」


 目を覆いたくなるほど無惨に、血に塗れた人たちが倒れていた。


「だめだわ、もうお亡くなりになってる……」

「スーフェ、あの奥に人が! それと」

「「「わんっ!?」」」


 そこには冒険者っぽい男たち三人と、とても大きくて不思議なフォルムのワンちゃんがいた。


「ばかかお前ら。あれは犬じゃねえよ。ケルベロスだ」


 先に様子を見に来ていたルベが冷静に教えてくれた。それにあいつらは魔族だ、と。


「それよりも、そいつらはまだ生きてるぞ。どうするんだ?」


 ルベが可愛い前足で教えてくれたその先には、血塗れの男女二名が倒れていた。






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