脱出大作戦
それからすぐに、わたしたちは一つの馬車の荷台に詰め込まれるように乗せられた。
犯人の男たちは二人だけしかいないみたいで、二人とも御者台に乗っている。
わたしたちのいる荷台には、男たちが話していた通り、隠蔽の魔法がかけられていた。
「なるほど、隠蔽の魔法で荷台には何もないと見せかけて、国境の外に出るつもりなんだね。これだけの人数を一気に隠蔽するなんて、さすが魔族だね」
「スーフェ、感心してる場合じゃないわよ? そろそろルベちゃんが来てくれるんじゃない?」
すでに縄抜けをし終えているベロニカがわたしを急かす。
「はいはい」
ぶっちゃけ縄を切るくらい、魔法でちょちょいのちょいだった。けれど、その様子を見ていた王子殿下がどうしてか驚いている。
「お前っ、どうして魔法が使えるんだ?」
「え、なんで? 普通は使えるでしょ?」
「いや、この縄自体に魔法を無効化する力が備わっていて、俺は魔法が使えなかったんだ」
「へえ、そうなんだ! この縄にそんな秘密があったなんて」
もちろんわたしは縄にかけられているその魔法ーー無効化を盗んだのは言うまでもない。
「縄も後で何かの役に立ちそうだね」
ある一定の魔法や魔力を無効化してくれるらしい。絶対に冒険者ギルドに売れそうだ。せっかくだから、全ての縄をアイテム袋の中に回収する。
「タララタッタラー♫」
同時にアイテム袋からナイフを二本取り出して、一本をベロニカに渡す。
「今から縄を切るけれど、まだ外には飛び出さないでね」
わたしの言葉にみんなが頷いてくれた。素直な子供たちだ。
みんなの縄を解き終わったところで、少しだけティータイム。
「まずは腹ごしらえが必要だよね」
アイテム袋の中から、少しの食料とお水をみんなに配った。一服し終わった頃、馬車が急停止した。
「あ! ルベが来てくれたっぽい!」
「じゃあ、あたしが外を見てくるわ」
ベロニカが外に出て、周囲の安全を確認してくれる。
「スーフェ、大丈夫そうよ!」
「よーし、みんな準備はいい? せーの……」
……で行くんだよ、と言おうとしていたのに、子供たちは一斉に飛び出して行ってしまった。
「うわーっ! 待って!!」
子供たちが一斉に飛び出したと思ったら、四方八方に逃げ始めてしまった。
「馬車から降りた後のことをきちんと言っておくのを忘れてたよ」
「まあ、スーフェったら。これじゃあ門兵さんたちに保護をお願いする前に、子供たちの行方がわからなくなっちゃうわよ?」
「仕方ない、ちょっと痛いかもしれないけれど、みんな我慢してね」
そう言って、わたしが盛大に放ったのは土魔法。「ドォーン!」と言う音とともに地面が掘り下がる。
「わおっ! ナイスイーン!」
逃げた子供たちが一瞬にして消えた。一斉に落とし穴へと落ちていったから。
「この地を、辺境トイツ村じゃなくて、東◯ドイツ村と呼びたいな」
せっかくだから“池ぽちゃ”も欲しいな、としみじみと思ってしまった。
「スーフェ、この穴どうするのよ?」
「もちろん、全落……だめだ、開催できない。A◯木さんがいないもの」
やっぱりA◯木さんがいてこそのオープンだと思うから。それだけは譲れない。
「あ! じゃあ、温泉にしたらどうかな?」
子供たちの安全のために、深くは掘り下げなかったから、きっと温泉にちょうどいい深さだと思う。あとは源泉を掘り当てるだけ。
わたしが一人盛り上がる中、ベロニカはキョトン顔。
「温泉って、何?」
「えっ、ベロニカは温泉を知らないの!?」
そう言えば、転生してから温泉の存在を今までに聞いたことがない。
「はあ、ショックだよ。温泉がないなんて。でもきっとそのうち誰かが掘り当ててくれるよね? 仕方がない。今は目の前のことを終わらせよう。肝心の男たちは、やっぱりルベがいるから大丈夫みたいだね!!」
すっかり忘れていた犯人の男たちは、人型バージョンのルベがすでに確保していた。
「おい、お前たち、何してるんだ?」
「ま、魔王様!!」
犯人の男たちーー魔族の男たちはやっぱりルベの知り合いだったらしい。人型バージョンのルベを見て、すでに戦意を喪失しているようだ。
きらきらしいルベには興味がないから、わたしは王子殿下と今後の打ち合わせを開始する。
「あなたが捕まっていたってことが知られると、きっと護衛の騎士の方たちの首が物理的に飛ぶだろうから、あなたも犯人を捕まえた側ってことにする、でいいんだよね?」
「ああ、俺のせいで誰かが死ぬのは嫌だから、そうしてくれると助かる」
王子殿下が話が分かる相手で良かったと、しみじみと思う。
王子殿下がいなくなったことに対して、どこまで話が広がっているかは不明だけれど、穏便に済ませられればそれが一番だ。
その間に、ルベも魔族の男たちに詰め寄る。
「何してるんだと聞いている」
「生贄にするために子供を攫ってるんですっ!!」
「ばか、お前っ、何を素直に言ってるんだよっ」
「お前こそばかかっ、魔王様に嘘つくわけにはいかねえだろっ!!」
「そうだけど、……シアン様に怒られるぞ」
「やっぱり、ヤツが関わってるのか……」
ルベは深いため息をつく。
「そうだ、シアン様に渡された“あれ”を使うしかない!!」
「ああ! ピンチの時に使えって言ってたやつだな」
魔族の男たちが、何かに魔力を込め始めた。それに気付いたルベが焦る。
「……!? ばかっ、お前らっ、それはだめだっ!!」
瞬間、男たちを蒼い炎が包み込み、跡形もなく焼け死んだ。