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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第四章
89/125

不思議な建物

 出入口のない建物の前で、わたしは右往左往している。ベロニカは鼻をクンクンと鳴らす。


「ふふ、やっぱりすっごい良い匂いがするわね」

「えっ、ベロニカの鼻って、絶対におかしいよ。じめっとして病気になりそうな匂いしかしないよ? 本当にここなの?」


 路地裏に入ったからなのか、辺りは薄暗く、じめじめとした雰囲気で、はっきり言って美味しい料理が出てくる名店なんてないと思う。


 それなのに、ベロニカは自信を持って、間違いなく良い匂いだと断言する。


「絶対に間違いないわ!!」

「本当に? ……あ! もしかして、隠蔽の能力みたいに何かの魔法がかけられているのかな? ちょっと盗み見るから」


 わたしは盗のスキルを使って盗み見た。すると、


「あ、ドアがあったよ! 本当に知られざる隠れた名店なのかもしれないね。よし、思い切って入ってみよう!」

「ええ、楽しみね」


 わたしは勢いよくそのドアを開けた。鍵はかかっていない。だから余計に、知る人ぞ知る名店なのだと思ってしまった。


 もちろん、そんなことがあるわけないと、入ってすぐに思い知らされる。


「「!?」」


 だって、わたしたちの目の前には、縄で縛られた子供たちがたくさんいたのだから。


「ベロニカ、ここって……」

「あら、さっき言ってた攫われた子供たちみたいね。さすが、スーフェ! 有言実行しちゃったわね!」


 確かに、子供たちを見つけに行こうと宣言して別邸を出てきた気がする。けれど、それは建前であって……


 いや、嬉しいことなんだけれど、驚きすぎて思考が追いつかない。


「あ! 良い匂いの人発見!! スーフェ、あの人よ!! ライアン様と同じくらい良い匂いなのよ」


 ベロニカが駆け寄ったのは、わたしたちと同い年くらいの整った顔立ちの少年だった。


 食べ物の良い匂いではなく、金持ちの匂いセンサーが発動していたらしい。騙された。


「ベロニカ、静かに!! 騒いだら危ないよっ。でも、早く助けなきゃいけないし、もう、なるようになれっ!!」


 わたしは乗りかかった船だから、子供たちを助ける決意を固めた。


 それと同時に、厳重に縄で縛られている少年を、わたしは鑑定してみる。


 だって、この少年が誰なのか、すでに予想がついているから。



 ++++++


 ブルース・ヴァン・チェスター 王子


 ++++++



「やっぱり、そうだよね……」


 チェスター王国の王子殿下の名前なんて知らない。けれど、家名にこの国の名前がついているんだから、間違いないと思う。


 その時、人攫いだと思われる男が姿を現した。


「お前ら、何者だ!? どうやってここに入ってきた!?」

「やばい、ベロニカ!!」


 慌ててベロニカの方を見る。すると、


「スーフェ、捕まっちゃったわ」

「あー、まあ、いっか。とりあえず、わたしも捕まっちゃおうかな」


……ということで、わたしとベロニカは、大人しく子供攫いに捕まってしまい、あっという間に縄で縛られてしまった。


 わたしたちよりもこの状況に驚いているのは子供攫いの犯人の男たち。


「どうしてこいつらはこの場所がわかったんだ!?」

「ドアに鍵かけとかねーからだろ?」

「だって、ドアさえ見えなければ中に入れないと思うだろ!? 現に今まで入ってくる奴なんて一人もいなかったんだから!!」

「そんなことより、そろそろ出発しないとさすがに約束の日に間に合わないぜ?」

「ああ、分かってる。けれど、あの時の魔境の森を見ただろ? いきなり森の木が動き出したんだぞ? やばい魔物がいるんだって!! さすがに、魔物避けの結界を張りながらの移動でも、アレはやばいってっ」


 聞こえてくる男たちの会話が耳に痛い。間違いなく、わたしのことを言っているのだろうな、とすぐに理解したから。


 そんなわたしに、こそこそこそっとベロニカが囁く。


「ふふ、やばい魔物だって」

「全くもってやばくないですから! とても可愛い女の子ですから!!」


 そんなわたしたちにお構いなしに、男たちは話を続ける。


「確かに魔物避けの結界も、強すぎる魔物には効かないって言ってたもんな。でもアレから数日経ったし、もう平気だろ? ガキどもが死んじまったらめんどくせえ」

「ああ、そうだよな。まあ、そのおかげで、出発を遅らせたら、とびきり良い魔力を持つガキも入ったしな」

「でも、きっとどこかの良いところの坊ちゃんだろ? 本当に平気なんか?」

「平気に決まってるだろ。いつも門兵にだってバレてないんだから。やっぱり隠蔽ってすげえな」

「ああ、いつも馬車の荷台は空だと思われてるからな。よし、そうと決まれば、そろそろ出発するか!」


 そうして、男たちは出発の準備をするためなのか、再び部屋を出ていった。


「……ねえ、スーフェどうする?」

「どうするって言われても、逃げるしかないよね。でも今逃げるのは得策じゃないよ。犯人が他にもいたら大変だし。そうだなあ、あの国境のあたりで逃げようよ。そして子供たちを門兵さんたちに保護してもらおう!」

「そうね。子供たちの安全が優先よね。でも、どうやって?」

「ふふ、もちろん誰かに馬車を襲って貰って、馬車が停まってるうちに逃げればいいんだよ! そのためにはルベの協力が……!?」


 その瞬間、わたしの頭の上からもふもふの尻尾が垂れる。


「もうっ、ルベったらいつの間に来てたの?」

「お前たちがこの変な建物に入っていく時からずっと見てたんだよ」

「じゃあ、話は早いね。わたしたちが乗せられた馬車を、ルベがうまく足止めしてね」

「ああ、わかった」

「あれれ? ずいぶん素直だね」

「さっきのやつらは魔族だ。だから俺にも責任がある」

「にゃるほど! にゃ王としての責任を果たすんだね」

「……」

「ベロニカ、作戦が決まったよ! って、何してるの?」


 わたしとルベが一生懸命作戦会議をしている最中に、ベロニカが子供たちに飴ちゃんを配っているではないか。


「スーフェも飴ちゃんが欲しいの?」

「今はいらないよ。でも、よく飴ちゃんなんて持ってたね?」

「さっき、門兵さんを治した時に、お金の代わりにたくさんの飴ちゃんをもらったのよ。みんなお腹がすいたみたいなの。だからお裾分け!」

「ってことは、さっきもタダでは治さなかったんだね」


 入国するために見せた聖女の力でさえも対価を取るなんて、純真無垢な聖女様の姿は微塵もない。


 けれど、飴ちゃんを子供たちに配るベロニカの姿は、まさに聖女様そのものだった。





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