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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第四章
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入国審査

 わたしたちは、さっそく入国審査を受けることにした。


「チェスター王国に入国する目的を教えてくれ。目的によっては、入国を許可できないからな」


 門兵さんに厳しい口調で告げられたので、まずは絶対に入国できるはずのケールから。


「ケール・コラットです。入国の目的は、家に帰るためです」

「あれ? もしかしてコラット侯爵家の? いつの間に国外に出ていたんだ!? 使用人の人たちが探しているぞ? あ、まだあそこにいるみたいだから、すぐに行ってやれ」


 門兵さんの指差す方には、良いところの家の馬車と慌てた様子の使用人さんらしき人がいた。


「はい。スーフェ、ベロニカ、ルベちゃん、先に行って謝ってくるので、入国審査頑張ってくださいね」

「うん! 行ってらっしゃい」


 ケールは一足先に入国し、探しに来てくれた使用人さんのところへと足早に向かった。

 

 次は、残されたわたしたちの入国審査だ。


「じゃあ、次。お嬢ちゃんは? 冒険者かい?」

「ベロニカです。冒険者でもあるけれど、少しだけ聖女の力が使えるようになったので、黒猫ちゃんと一緒に修行の旅をしています。黒猫ちゃんはあたしの大切な力の源なんです」

「もしかして聖女様か!? 本当に存在したのか!! 一応、本物かどうかの確認はさせてくれ」


 事前の打ち合わせ通りに、ベロニカはすらすらと入国理由を語る。聖女を拒む国はないだろうから、こちらも入国審査を難なく通過できるはずだ。


 加えて、聖女の魔法に黒猫ちゃんの力が必要と言われてしまったら、ルベも拒まれない。


 わたしの相棒と言ってもよかったのだけれど、国によっては入国を拒まれるかもしれないから。


 ベロニカの腕に抱かれることを拒否したルベは今、ベロニカの頭の上に乗っている。


 ちなみに、頭の上に乗られても、ルベは風魔法を使って体を浮かせてくれているので全く重くはない。


 そして、聖女の力を確認するために、ベロニカとルベは一緒に連れて行かれた。ちょうど怪我人がいるらしいから、実際に治療してみせるらしい。


「じゃあ、最後。お嬢ちゃんは? お嬢ちゃんも冒険者かい?」

「はい、スフェーン・オルティスです。スーフェって呼んでください。わたしは冒険の旅をしていることも理由ですが、真の目的は手紙の配達です!」

「手紙の、配達?」


 わたしの言葉を聞いた門兵さんは一気に怪訝な顔をした。今まさに、入国拒否をわたしに言い渡そうとしている。


 けれど、そんなこと一切気にせずにわたしはアイテム袋の中に手を突っ込む。


「タララタッタラー♫」


 わたしがアイテム袋から取り出したのは、一通の手紙。


「は? 本気で手紙の配達なのか? ……でもまあ、とりあえず見せてみろ。なになに? ファーガスより愛を込めて? ふざけてんのか? ん? ……この刻印は!?」


 封筒に印章された刻印を見た瞬間、門兵さんの顔色が明らかに変わった。


「……まさか、あの有名な伝説の勇者様の刻印!? いや、まさか……」

「ご名答! ファーガス・オルティスは、わたしのお祖父様なんです」


 門兵さんの表情は驚きと興奮に満ち溢れ始めた。


(お祖父様ってば、本当に凄い人なんだね。ただのくそエロじじいじゃなかったんだね)


 お祖父様の名声が、隣国にまで届いていると知り、わたしはとっても嬉しい。


「いや、待て。受取人は? ……!? ちょっと待ってろ、今すぐ確認してくる!!」


 門兵さんはわたしの手紙を手にしたまま、待機所がある方向へと全速力で走って行った。


 すると、入れ替わるようにして、聖女の力の確認を終えたベロニカが戻ってきた。

 

「ねえ、スーフェ、一体あのお手紙は誰宛なの?」

「確か、シルビアちゃん! うふふな関係を築いていた当時は良いところのお嬢様って言ってたよ。でも、今はどこかのお嫁さんになってるはず」

「本当にそのシルビアちゃんに会えるの? さすがに同姓同名の方がたくさんいるんじゃないのかしら?」

「きっと大丈夫だよ! 一番有名なシルビアちゃんって言えば、誰でもわかるって言ってたから」


 一番有名なシルビアちゃん、前世でいう芸能人みたいな有名な方がいるのだろう。そんな風にのほほんと考えていた。


 わたしとは対照的に、先程の門兵さんが慌てて帰ってきた。何となく嫌な予感がしてきた。


「シルビア・チェスター王妃陛下宛の封書を、しかと確認した。ぜひ、お手渡しされるように」

「えっ? 王妃さまぁっ?」


 耳を疑いたくなる言葉が聞こえて来た。まさかの王妃様宛。その事実に、一気に面倒臭くなった。


「え〜っ! 王家とか本当に嫌なんだけど!! そうだ! 渡しておいてくださいよ!!」


 もうこのまま正規に入国できなくてもいい。最後の手段で転移魔法を使えばいいだけだから。


 けれど、全力で手紙を突き返された。最悪だ。


「はあ、どうして無駄に王家と関わりが……あ!」


 わたしは良い事を考えた。


「この国には、王子様っているんですか? おいくつですか? 婚約はされていますか?」

「今年で14歳になられる王子殿下がいらっしゃるが……そうだ、魔境の森で君たちと同じくらいの年齢の少年に会わなかったかい?」

「わたしたちと同じくらいの年齢の少年? わたしたちが会ったのは、さっきのケールだけですよ。他には人っ子一人いなかったです。もちろん馬車とかもすれ違わなかったですよ」


 周りを警戒しながら歩いていたルベも、街道以外の森の中にも人の気配はなかったという。


「そうか、それなら良かった。じゃあ、国を出たりはしていなさそうだな……」


 そんな時、同じ年齢くらいの少年のフリをしているケールが戻ってきた。


「スーフェ、ベロニカ、ルベちゃん、もし良かったら、今日うちに泊まって行きませんか? きちんとお礼をさせてください」

「ケールのおうちに泊まらせてくれるの? 嬉しい!!」


 無事に入国を果たしたわたしたちは、コラット侯爵家の別邸へと向かった。


 チェスター王国の国境門を越えるとそこに広がっていたのは、


「残念なくらい何もないんだね……」


 ただひたすら荒野が広がっていた。






 

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