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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第四章
86/125

魔王と魔王以上

「ケールは家出してきたって言ってたじゃない? よく一人で魔境の森(こんなところ)まで来れたね? 国境の近くに住んでるの? 護衛の人たちは?」


 他人のことを言える立場ではないけれど、普通の侯爵令嬢は一人でふらふらと出歩かないと思う。侍女や護衛が付くはずだ。


 ちなみに、わたしには優秀な護衛の黒猫ちゃんがいる。しかも、ルベが一緒ならどこへでも行っていいよ、とお父様の許可も下りている。


(ルベったら、お父様からの厚い信頼をいつの間に得ていたんだろう?)


 ちらりとルベを見ると、今も先頭を歩いてくれている。ただ歩いているだけなのに、後ろ姿もとっても可愛い。


「本当は王都に住んでいるのですが、辺境の村に別邸があって、そこに俺だけ遊びに来ていたんです。だから、朝早くにこっそりと抜け出して、家を出てきました」


 ケールは自分のことをいろいろ話し始めてくれた。けれど、まだ男の子のフリは続けるらしい。


 騎士の家系だからなのか、ご先祖さまが魔境の森で訓練をするためだけに、魔境の森に近い辺境の村の中に別邸を建てたのだとか。


 魔境の森で訓練するとか、考えることがお祖父様みたいだな、と思ってしまう。

 

「やっぱりさ、一旦お家に帰ろうか? 今頃みんな心配してるんじゃないの?」


 やっぱり家出は良くないことだから。今回みたいに命の危険もあるし、たくさんの人に心配もかけてしまう。侯爵令嬢が突然いなくなったら、きっと今頃大捜索中だろう。


「でも、魔境の森で訓練してくるって書き置きはしてきました。強くなるまで帰るつもりはないって」

「魔境の森で訓練するって書いちゃったの? それって余計に心配するでしょ?」


 ケールは以前、家族で魔境の森の中に入ったことがあったみたい。けれど、今はケール一人だけ。


 魔境の森に女の子が一人で来るなんて、死にに行くようなものだと思う。


 そんなケールは首を左右に振る。


「コラット侯爵家の男は、魔境の森で一日野宿できるようになれば、一人前と認められるんです。だから、きっと大丈夫だと思いますよ」

「いやいや、きっと心配してるよ? 絶対に心配してるはずだよ!!」


 だって、ケールは男の子ではない、女の子だ。絶対に大捜索中だと思う。


「心配してるかな? ……自分のことしか考えていませんでした。……ごめんなさい」


 ケールはとても反省しているようで、涙を堪えながらも、謝罪の言葉を漏らした。


(やっぱりめちゃくちゃ素直な子だな。こういう子は嫌いじゃないかも!)


「ふふ、謝るのはわたしにじゃないよ。お家の人たちに謝ろう。それじゃあ、早く家に帰ろう!」

「はいっ!」


 ケールは目に溜めた涙を拭いながら大きく頷いてくれた。




「あ、スーフェ、見えてきたわよ」

「本当だ! 意外と早く着いたね」


 ベロニカの指差す方に目を向けると、チェスター王国の国境門が見えてきた。


 実を言うと、ケールと会った場所から30分くらいしか歩いていない。


 ケールは魔境の森に入ってからすぐに魔物に襲われてしまったらしく、そんなに遠くまでは行けなかったのだという。


 そして、わたしとベロニカは、後ろを振り返る。わたしたちが歩いてきた長い旅路を、しみじみと眺めて言った。


「ベロニカ、魔法の腕が抜群に上がったね」

「ふふ、スーフェのおかげよ。……これで、道路の整備代をライアン様に請求できるわね」

「!? ……そんなこと全く思い付かなかったよ」

「ふふ、稼げる時に稼がなきゃね。お金を稼ぐってとっても楽しいわ」


 ベロニカがとても悪い顔をしながら微笑んでいた。


 わたしたちの目に映る、魔境の森の街道は、きっとベロニカが請求するであろう道路の整備代以上に、チェスター王国との国交によって利益を生み出してくれるはずだと思いたい。



 そして再び前を向く。わたしたちの目の前には、とても高い壁が立ちはだかっていた。まるで要塞のように、厳重な警備も敷かれている。


「うっわ、すごい壁だね。いつもこんなに門兵さんたちがいるの?」

「この壁は、魔境の森から魔物が入らないように、と厳重に作られたみたいなんです。警備は、いつもはもっと少ないはずなのに……あ! もしかしたら、つい先日、魔境の森の木が突然抜け始めて、どこかへ動いていくのが目撃され、天変地異の前触れだ、とか、すごい魔物がくる前触れだ、とか噂があったからかもしれません」

「ええっ、何それ? 物騒だね。こわいこわい」


 その瞬間、ルベに思いっきり冷たい視線を送られた。心当たりは、もちろんある。


「ふふ、すごい魔物というか、確かに魔王と魔王以上が来ちゃったものね」

「ちょっと、ベロニカ、魔王はわかるけど、魔王以上って誰のこと?」

「だって、魔王を従魔に従えるってことは、魔王以上ってことでしょ?」


 ベロニカの言い分もわかる。けれど、納得はできない。


(わたしはこんなに可愛いご令嬢なのに!!)


「そう聞くと、この壁が非常に腹立たしく感じるんだけど!!」


 わたしがムッとしていると、ベロニカは笑いながら入国準備へと取り掛かる。


「ふふ、とりあえず入国しましょう!」

「あの、入国するためには厳しい審査、というか、入国する理由が必要になるんですけど、本当に大丈夫ですか? それも、国の利益になる理由でないと認められないって話です」


 チェスター王国の国民以外の者が入国するためには、国境門のところで入国審査があるのだという。


「それなら大丈夫だよ! ベロニカは聖女様だし、ルベは黒猫ちゃんだもの。わたしにはとっておきの秘策があるんだから!!」


 そして、いざ、入国審査へ!






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