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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第四章
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新しい仲間

 再び隣国へ向けて歩いていた時、ルベに担がれているケールさんが目を覚まそうとしていた。


「う、うーんっ……」

「あ! ルベ、止まって! ケールさんが起きそうだよ!!」


 一度その場に止まり、布に包まれたままのケールさんを地面に寝かせた。


 ドキドキわくわく、綺麗な子の寝起きの姿は一見の価値がある。


 すると、すぐにケールさんはパチリと目を覚ました。


「……!?」

「あ、起きた?」


 驚いた表情で、きょろきょろと周りを見回す。寝起きは良いらしい。羨ましい。


「あなたたちは誰? 魔物は? それに怪我は!? えっ、動けない……」


 それはもちろん布に巻かれているからだ。寝起きでミノムシ状態は地味にびっくりする。わたしも経験済みだ。


 すぐにケールさんを脱皮させ、巻いてた布を地面に広げて、みんなで座る。ちょっとだけ一休み。


「魔物は逃げてったよ。怪我はベロニカが治してくれたの」

「治す? ありがとうございます。えっと、ポーションを使われたのですか? お金を……」


 今まで長い間この世界には聖女様はいなかったらしいので、怪我や病気に時は、主にポーションを使っていたらしい。けれど、それは王族や貴族、お金持ちの間だけの話。


(ケールさんも良いところのお嬢様なんだろうな。ポーションって言葉がすぐに出てくるくらいだから)


 それに名前には家名も付いていた。


「あら、そういえば相場を決めておくのを忘れていたわ。どうしましょう?」

「ベロニカ、もし隣国の人なら観光案内をしてもらうのはどう? わたしたち隣国は初めてだし。それに今は、少しだけお財布も潤ってるもの」

「そうね。それは良いかも! あの、あなたは隣国の人ですか?」

「隣国というか、はい、チェスター王国の者ですが……」


 隣国の名前をようやくわたしたちは知った。


「まずは自己紹介しようか! わたしはスーフェ。冒険者だよ!!」

「あたしはベロニカ。あたしも一応、冒険者なのかな?」

「……」


 ルベはツンとする。人型になってもスタンスは変わらないらしい。


「えっと、この人はルベ。本当は可愛い黒猫ちゃんだから!」

「……黒猫ちゃん?」

「そう。今は人型だけどね。あなたは?」

「わたく……俺はケールです。助けてくれてありがとうございます」

「「……俺?」」


 わたしとベロニカは首を傾げた。だって、間違いなくケールさんは女の子のはずだから。それに今、絶対にわたくしって言おうとしたし、無駄に丁寧な言葉使いだし。


「ベロニカ、きっとマリリンの逆バージョンかもしれないから慎重にね」

「ええ、それに別の事情があるにかもしれないわ」


 わたしとベロニカは察した。センシティブな問題かもしれないと。だから、今は男の子としてケールさんと接することを決めた。


「えっと、ケールさん」

「あの、ケールで大丈夫です」

「じゃあ、お言葉に甘えて! わたしのこともスーフェって呼び捨てにしてね」

「あたしもベロニカって呼んでね」

「ルベもね。えっと、ケールはどうして魔境の森に一人でいたの?」

「……いわゆる家出です」

「家出?」


 随分と素直な家出っ子だ。普通ならこんな素直に家出なんて言わないだろう。


「はい。どうしても婚約が嫌で……」


 めちゃくちゃ素直すぎる。しかも、同い年くらいで婚約の話が出るなんて、きっとどこかの貴族の箱入り娘に違いない。


「その婚約者から逃げるために国を飛び出したの? じゃあ、チェスター王国に婚約者がいるの?」


 もしそうなら、チェスター王国に連れて行くのは申し訳ない。


「婚約の話があったのは、ロバーツ王国という国の公爵家からです。両親がこっそりと話しているのを聞いてしまって」

「それならどうしてわざわざロバーツ王国の方に向かうの? 普通なら反対に逃げるよね?」

「チェスター王国の北側は魔の樹海につながる森になっていて、生きては帰れないと言われています。それなら魔境の森の方がどうにか生き延びることができるかもしれないと思いまして」


 でも、魔物に襲われてしまった。そして話を聞いてわかったことは、絶対にこの子は世間知らずだということ。わたしやベロニカ以上の世間知らずだ。


「でも、どうしてロバーツ王国の公爵家がわざわざ隣の国で婚約者を探すんだろうね? 何て言う公爵家か覚えてる?」

「確か、ゲイリー公爵家という家でした。何でも、(わたくし)の、えっと、俺の使える魔法に興味があるというのが理由みたいです」

「ああ、光属性魔法は珍しいからね」

「!?」


 わたしの言葉にケールは目を見開いて驚いた。


「あ、ごめんなさい。勝手に鑑定して見ちゃったの」

「いえ、大丈夫です。でも、実際は光魔法も上手く扱えなくて、きっと、嫁いでもこんな役立たずでは捨てられちゃうだけだと思うんです。もしそれが、国家間の問題に発展してしまったらと考えたら怖くなってしまって、それで……」


 (わたくし)とか嫁ぐとか、普通に言い始めてるけれど、センシティブな問題なのでもちろんスルーする。


「捨てる、じゃなくて、殺すだな」

「ルベ!! 何言ってるの!?」

「チビ、今の話の流れで気付かないのか? 普通気付くだろ?」

「え?」

「ロバーツ王国のゲイリー公爵家」

「ああ、魔術師の!」

「ああ、光魔法の使い手がロバーツ王国から姿を消している。きっと、奴らが関わっているに違いない」

「えっ、それじゃあ、ケールも婚約なんかしたら」

「ああ、きっと殺される」


 一気に沈黙が落ちる。


「……ケール、家出したのは結果的に良い判断だったよ! このまま逃げよう! それか、ゲイリー公爵家よりも良い婚約相手を自分たちで探しちゃおうよ。わたしたちと旅をしながらさ。そうすれば、家にも戻れるし。そうと決まれば、作戦会議だね。親を納得させるには、家格とかも考える必要があるよね? そもそもケールの家は貴族なの?」

「……」


 ケールは口を噤んだ。黙秘権を行使するらしい。そこで真打登場、ベロニカがケールをクンクンと嗅ぐ。


「ケールはスーフェと同じような香りがするわ」


(わたしと同じ香り……)


「なるほど、ケールの家は侯爵家か!」

「……はい」


 ケールは素直に認めた。ベロニカの嗅覚は百発百中で当たるみたいだ。






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