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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第四章
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猫型から人型へ

「じゃあさ、さっそく人型に変身してみてよ?」


 ルベの人型の姿を想像して、ドキドキしてしまう。元魔王だから、やっぱり強面なのか、ニヒルな感じなのか、とか。


「ちっ、仕方が……」

「あ、ちょっと待って、変身したら裸だったとかはやめてよね」


 だって、猫ちゃんの姿のルベは服を着ていない。全裸だ。さすがに、全裸の人型のルベは見たくない。


「なんだよ、その心配……」

「だって、わたしたちは花も恥じらう乙女だよ? ルベのあられもない姿なんて見れないよ。ね、ベロニカ?」

「ふふ、むしろ楽しみかも」

「やっぱりダメだよ!! ルベの貞操の危機だよ!!」


 やっぱり乙女ゲームのヒロインは肉食だ。


「人型になっても服は着てるから心配いらねえよ。どうしてかは知らないけどな」

「魔法ってそういうもんだよね」


 準備万端、ルベが人型に変身した。


「……」

「ふふ、スーフェったら、見惚れちゃってるの? ルベちゃんはとってもイケメンでしょ?」


 確かにイケメンだった。びっくりするくらいイケメンだった。


 黒猫ちゃんバージョンのルベの毛並みのように、さらさら艶々の黒髪で、切長の目に、とっても整った顔立ちで、背も高くてモデルのようにスタイルもいい。


 けれど、それじゃない感が漂ってしまう。だからわたしは文句を垂れる。


「ちょっとルベ!! どういうこと? それはないんじゃない!?」


 わたしは怒り心頭だ。


「どうしてキラキラしいの!? キラキライケメンとか、そんなのルベに求めてないから!! もしかして乙女ゲームの世界だから? ゲームの強制力の仕業? あり得ない!!」

「チビ、意味分からん。どうして、元の姿に戻った俺が怒られなければならないんだ?」

「だって、元魔王でしょ? もっと黒々しいオーラを放った方が絶対にいいって!! キラキラとかあり得ないって!!」


 キラキライケメンは断固反対。もふもふっとした可愛らしさのないルベに求めるものは、見るだけで敵が慄くような強さだ。


「スーフェったら趣味がおかしいわね。ルベちゃんはあたしの中で一番のイケメンだと思うわよ?」


 ベロニカは、乙女ゲームのヒロインだから、キラキラしいのは大好物のようだ。


「……ライアン王子より?」

「ええ、見た目なら断然ルベちゃん派。中身もイケメンだし。けれど、残念ながらルベちゃんからは良い香りがしないの」

「ああ、お金か……」


 わたしは納得した。確かに元魔王のルベには今、お金はないはずだ。


「イケメンなのは分かる。けれど、わたしが文句を言いたいのはそこじゃないの。キラキラしてるのがいけないの。キラキラしてると嘘っぽいの。騙されそうなの。作り物だと思っちゃうの。ただでさえ、変身した姿なんだから」

「作り物じゃねえよ、これも俺の本当の姿なんだよ」

「はいはい。ま、きっとそのうち見慣れるだろうし、ルベはわたしのことを騙すはずないことは知ってるから、まあいいよ」


 仕方がないな、とわたしは譲歩した。


 どうせ好きな姿に変身できるのなら、あの超絶イケメンな前世のわたしの大好きなアーティストの姿が良かったのに。


「理不尽だ……」


 人型のルベは好きな姿に変身したわけではなく、本当に魔王時代のルベの本当の姿だというのに、とルベはぶつぶつ言っている。


「ふふ、スーフェったら、このイケメンと一緒に寝たのよ。キスもしたのよね?」

「わたしが一夜を共にしてキスをしたのは黒猫ちゃんのルベだもの。人型のルベはカウントには入れません!!」


 ぷいっとわたしはそっぽを向く。それだけは絶対に譲れない。


 今後も黒猫ちゃんのルベを愛でるためには、猫型と人型の線引きははっきりとしておく必要がある。人型のルベだと浮気感が満載だ。


「ルベちゃん、スーフェのことは放っておきましょう。って、ルベちゃんが真っ赤な顔をするなんて、ふふ、イケメンの照れる姿が見れるなんて最高ね」

「……ちっ、さっさと行くぞ」


 ルベは照れを隠すように、軽々とケールさんを担ごうとした。けれど、少しだけ触れた瞬間、手を引っ込める。


「ルベ、どうしたの?」

「こいつ、光属性の魔力が溢れてやがる。触りたくない」

「あ、そっか。ふふ、わたしね、良いアイテムを持ってるよ! タララタッタラー♫」


 わたしがアイテム袋から取り出したのは一枚の大きな布だった。もちろん虎縞模様ではない。


「これはね、吸収の魔石を入れている袋の布バージョンなの。本当は冒険服を作ろうかなとも思ってたんだけど、これっていうデザインがまだ思い浮かばなくて」

「……だから?」

「何かいいデザインはないかな?」

「チビ、また話がズレてる」

「あ、そっか。えっと、この布は魔力を遮断できるから、この布でケールさんを包めば、光属性の魔力でルベが苦しむことはないよ」

「それは助かる。じゃあ、やるか」


 ルベはこの布でケールさんを巻き、そして右肩に乗せるように担ぎ上げた。


「もうっ、ルベったら!! もっと女の子を運ぶ方法はないの? お姫様抱っことか」

「いざという時に手が使えないから却下だ」

「ああ、なるほど」


 こうして、ルベがずっとわたしに隠していた秘密はあっけらかんと暴露されーーしかも反応は薄いーーわたしたちは再び隣国を目指してサクサク歩き始めた。






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