イ・ケ・メ・ン
「嘘っ!?」
「えっ、スーフェ、一体どうしたの?」
鑑定したわたしは心底驚いた。ベロニカも釣られて驚くほど。だって、だって、
(理力の加護って、あれだよね! あれしかないよね!? あ、だから光魔法の使い手なの!? 嘘っ、激アツ!!)
けれど、この感動はベロニカに言っても絶対に伝わらない。だから、ベロニカにも伝わることだけを教えてあげる。
「この倒れている人、ケール・コラットさんって名前みたいなんだけど、ケールさんが光魔法の使い手みたいなの。だから、わたしたちの旅は今、目的が果たされてしまったってこと」
ちなみに、コラットという名は猫ちゃんの品種と同じだ。だからこそ、絶対にケールさんは悪い人ではないと確信した。
「えぇっ、旅が終わりだなんて、そんなの嫌だわ」
「わたしも……」
わたしとベロニカは長考した。悩んで悩んで悩んだ末に、一つの結論に辿り着く。
「ケールさんの無理強いはしたくないから、目を覚ますのを待とう! だから、隣国までケールさんを運ぼう!」
隣国に行くことは絶対に諦めたくない。だから、強制的に隣国へ搬送することを決めた。
「どうやってケールさんを連れていくか、だよね」
この前のママグリフォンみたいに、アイテム袋の中に入れることはさすがに出来ない。
だからといって、わたしがおぶっていくのは疲れるから嫌だ。
困った時は、もちろんルベ頼みだ。なんと今回は、わたしが言い出す前に、ベロニカも同じことを思ったらしい。
「ルベちゃんに頼めばいいんじゃない?」
「やっぱり、ベロニカもそう思った?」
わたしとベロニカは一斉にルベを見た。
「無理だ」
たった一言吐き捨てて、ルベがわざとらしく尻尾をふりふり。余裕たっぷりに「俺は猫だ」アピールをする。何それ、可愛すぎ。
「魔法を使って運べばいいんだよ!」
もちろんルベが。
「ふふ、スーフェったら、人間になればいいのよ」
「にゃっ!!」
ベロニカが笑顔で放った言葉に、余裕ぶっこいていたルベが驚く。そして、あり得ないくらい狼狽え始めた。
「へ? ベロニカこそ何言ってるの? わたしは人間だよ?」
意味が分からない。わたしは人間だ。とても可愛い女の子だ。
もしかしたら、ヒロインのベロニカから見ると、悪役令嬢のわたしは、悪魔に見えるのだろうか?
わたしが怪訝な顔をしていても、ベロニカの笑顔は崩れない。
「ルベちゃんが……」
「にゃー、にゃー! にゃー!!」
ベロニカの言葉を遮り、突然ルベが騒ぎ始めた。残念ながらその努力は報われない。
「ルベちゃん、うるさいから猫可愛がってあげるわ」
「にゃにっ!?」
ベロニカの手がルベをすでに撫でていた。けれど、ルベは必死に抗っている。
「言うな! 絶対にだめだ!! お前、……にゃっ!!」
猫可愛がりの威力が増したらしい。
ベロニカの魔力はやはり申し分ないほどあるみたい。それを使いこなし始めてしまった。さすがヒロインチート。
故に、ルベはもう抗えない。ルベは今、ごろごろと喉を鳴らして、ベロニカを遮る言葉は出てこない。
その隙に、ベロニカは本題に入る。
「ルベちゃんが、人間になればいいのよ」
「は?」
「ルベちゃんは人間になれるのよ。しかも、イ・ケ・メ・ン!」
わたしはキョトンとしてしまう。ルベがイケメン、確かにイケ雄猫だ。
そして、ルベは元魔王。もしかしたらわたしの知らない魔法が使えるのかもしれない。
「ルベには、人間になれるそんなすごい魔法が使えるの?」
わたしはルベに確認をした。
「ごろごろごろごろ」
可愛い。若干の現実逃避感は否めないけれど、ごろごろと喉を鳴らすルベは可愛すぎる。間違いなく猫だと思う。
けれど、話が進まないので猫可愛がりを一旦ストップして尋問タイム。
「ルベ、どうなの?」
「……人間になれます。正確には、人型に」
ルベはとうとう観念をした。どうしてか、とても言いづらそうにその事実を告げる。
「へえ、すごい魔法が使えるんだね!」
あっけらかんとルベを褒めたわたしに、どうしてかルベの方が驚いている。
「あら、スーフェは全く驚かないのね?」
「うん、だって、ルベは頭の良い猫ちゃんだもの。そしてにゃ王だもの。人型になるくらいちょちょいのちょいだよ!」
人間が猫ちゃんに変身する話はよくある話。だったら、逆もありだとわたしは思う。
「そういえば、ルベちゃんと添い寝とかしてたけど、カルセドニーさんはルベちゃんが人型になれることは知ってるの?」
「カル? あ! 多分知ってるのかも! もしかして、カルはそれでヤキモチを焼いたのかな? ふふ、ルベは猫ちゃんなのにね」
「……もし、人型の方が俺の本当の姿だとしたら?」
言いにくそうにルベはわたしに尋ねた。もちろんわたしは即答する。
「それはないよ。だって、盗み見れば本当の姿が分かるはずでしょ? ルベは猫ちゃんのままだもの」
お祖父様の時に、本当の姿が盗み見ることができると確認済み。けれど今、ルベを盗み見ても猫ちゃんの姿のままだ。
「だから、ルベは猫ちゃん! 以上!」
「いや、だって、一緒に寝たり、その、あの、」
ルベが真っ赤な顔をして焦っている。黒猫ちゃんなのに、顔が赤くなるのが分かってしまう不思議。けれど可愛いから何でもあり。
「あ、もしかしてキスのこと? ふふ、ルベったら純情なんだから! そりゃ、人型のルベを愛でるのは浮気してる感があるだろうけれど、猫ちゃんの姿のルベを愛でるのは無問題! ね、ベロニカ!」
「ふふ、あたしは人型でも、猫型でも、もしもロボットでも、ルベちゃんはルベちゃんだと思うし、愛があれば何だってありだと思うわ」
「猫型のロボット!? ルベはロボットなの!? 未来から来たの!?」
「にゃわけねーだろ!!」
「そっか、残念……」
猫型のロボットなら、何が何でもアイテム袋をそのお腹に装着させたのに。