綺麗な子を拾いました
「それにしても、ひたすら真っ直ぐだね」
はっきり言って、飽きてきた。ただひたすら真っ直ぐな道を歩くって、苦行でしかない。
わたしたちがコックス村を出発して、すでに二時間以上は歩いたと思う。いや、もっとかもしれない。
ちなみにベロニカは、身体強化の魔法を込めた魔石を使いながら歩いているので、わたしたちに遅れをとることなくサクサクと歩けている。
「魔物も出ないのね? お腹が空いたわ」
「えっ、魔物を食べるの? 現地調達!?」
魔物=食材という公式が成り立っているベロニカの思考は尊敬に値する。
けれど、わたしは自分で捌いてまで魔物を食べたいとは思わない。だから、アイテム袋から歩きながらでも食べられるパンを取り出して、ベロニカに差し出した。
「まあ! スーフェありがとう!!」
「せっかくだから、わたしも一緒に食べよう」
前世日本人のわたしは、食べ歩きも全然できる。
できるだけ早く隣国に辿り着きたいわたしたちは、休まずにひたすら歩き続けている。さすがに魔境の森のど真ん中で夜を越すのは少ない方がいいから。
「魔物が出ないのは、きっとルベのおかげだよ。ね、ルベ!」
「……」
返事がないっていうことは、その通りらしい。ツンと澄ました様子でルベが先頭を歩いてくれている。
「それにしてもベロニカも、だいぶ魔法が上手くなってきたね」
「ふふ、ありがとう。でも、やっぱりまだうまくいかないわ」
ただ歩いているだけではつまらないから、ベロニカは土魔法を使いながら歩いている。土魔法ででこぼこだった道を整えているのだ。
さらにわたしが、匠のスキルを使いながら仕上げの舗装をしている。わたしたちが歩いてきた道のりを振り返ると、道路整備が完璧だ。
もちろん今日中に隣国に辿り着くことは叶わず、魔境の森で一夜を明かす。
そして今日も、サクサクっと道路整備をしながら隣国へと向かって歩く。身体強化のスキルは旅に必須だと思う。
すると突然、一番前を歩いているルベが突然立ち止まった。
「ルベ、どうしたの? とうとう魔物が出た?」
「ああ、魔物と、……人の気配だ」
「魔物と人!? ということは、魔物に襲われているってこと!? ベロニカ、走れる?」
「ええ、大丈夫よ。早く助けに行きましょう」
もちろん魔物と戦うのはルベにお任せするつもりだ。
「いた!」
けれど、見つけた瞬間、魔物はすごい速さで逃げていった。
「逃げた? これもルベのおかげ?」
ルベを見ると、ちょっとだけドヤッとしていた。可愛いすぎる。
「スーフェ、人よ!!」
魔物がいたところには、人が倒れていた。わたしたちと年齢も変わらなさそうなくらい小柄な人。
「本当だ。うわっ、傷だらけだよ。ベロニカすぐに治して!!」
「任せて!」
「あっ、ちょっと待って」
わたしは清浄魔法を使って、その人を綺麗にした。血塗れすぎて怪我の具合が全く分からなかったから。
それにどんな魔物だったか分からないから、血に毒が紛れていたりしていたら怖い。用心に越したことはない。
「ベロニカお願い!」
すぐにベロニカは、ぎゅっと抱きしめて聖魔法を使った。
(抱きしめる必要はないと思うんだけどな)
けれど、ぎゅっと抱きしめる姿は、まさに聖女様っぽい。これも乙女ゲームの強制力のせいなのだろうか。
そして、見事にその人の傷は治っていった。それなのに、目を覚ます気配がない。
だから、ベロニカと二人でここぞとばかり、じろじろとその人を観察してしまう。だって、
「うわあ!! とっても綺麗な子だね。男の子? いや、女の子?」
髪はとても短く、身なりも男の子の恰好だ。けれど、身体の線は細く、とても綺麗な顔をしている。
わたしの疑問に、ベロニカが自信満々に答えてくれた。
「絶対に女の子よ」
「え? どうしてそんなに自信満々なの?」
「抱きしめたら、とても柔らかかったから」
「にゃるほど!」
ぎゅっと抱きしめた時、お胸のあたりが柔らかかったらしい。そうすると、余計に一人でこんな場所にいることを疑問に思う。
「目を覚ましそうにもないわね? あたしの魔法が効かなかったのかな?」
「そんなことはないと思うよ。傷は綺麗に癒えてるし。きっと精神的なショックとかそういうのじゃない?」
「精神的なもの? それだと、無理矢理起こすのは躊躇っちゃうわね」
「そうだよね。ねえ、ルベ何かいい方法ない?」
困った時のルベ頼み。とりあえず、ルベに意見を求めてみる。
すると、ルベは間髪いれずに答えてくれた。どうしてか、少しだけ呆れた様子で。
「いい方法というか、お前らはまだ旅を続けるつもりなのか?」
「え、突然何を言いだすの? 当たり前じゃない! 光魔法の使い手が見つかるまでは旅を続けるよ!!」
今回の旅の目的は、光魔法の使い手を探すことだ。裏の目的もあるけれど。
すると、やっぱりルベは呆れたように言ってくる。
「それなら、旅はここで終わりだな」
「え?」
ルベの視線は倒れている人に向いている。
「まさか!?」
わたしは急いで鑑定をした。
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ケール・コラット
【魔法】 四大属性魔法・光属性魔法
【能力】 理力の加護
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わたしたちの旅の目的が果たされた。このままでは、道路整備をしただけで終わってしまう。