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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第一章
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喋る黒猫ちゃん

「ここが本邸なんですね!」


 わたしは今、生まれて初めてお父様と一緒にオルティス侯爵家の本邸に訪れた。


 若くして爵位を継いだお父様は、王城での仕事のほかにも領地経営もしなければならない。

 それにわたしも同行させてもらった。念願の約束を果たしてもらうため。


 ちなみに、わたしたちがいつも住んでいるのは、王都にあるオルティス侯爵家の別邸だ。


 お父様の仕事場が王城だということと、どうしてか、お母様が頑なに本邸に帰りたがらないからだ。


「お父様、どうしてお母様は本邸に帰りたがらないのですか?」

「え、あ、うん。まあ、いろいろとあるみたいだよ」


(絶対に怪しすぎる!!)


 わたしの問いに、お父様は歯切れの悪い回答をした。もちろん納得のいかないわたしは、さらに突っ込んだ質問を投げかける。


「女の人の幽霊が出るって本当ですか?」

「え、いや、幽霊は出ないと思うよ、幽霊は……あ、スーフェ、今日は思う存分、魔法を使ってごらん。使用人たちのことも気にしなくて平気だよ。ほら、行ってらっしゃい」


 やっぱり歯切れが悪い。わたしが隠し事が苦手な理由は、絶対にお父様譲りだと思う。


(……お父様、絶対に何か知ってるわ)


 実を言うと、わたしは本邸に行くことが決まった時に、お母様も一緒に行こうと誘っていた。


 その時に、お母様がわたしに言った言葉。


「あそこには若い女の幽霊が出るのよ。本当に信じられないわっ」


 どす黒い殺気を纏いながら、文句を言い放つお母様の様子は明らかにおかしかった。


 けれど、お母様とお祖父様の問題と幽霊とでは、全く結びつかない。結局は、お母様の謎が増えていくばかりだった。


 納得のいかないまま外に追いやられたけれど、今日は思いっきり魔法が使えるまたとない絶好の機会。わたしは気持ちを入れ替えることにした。


「広々とした場所は、やっぱり気持ちがいいなぁ!」


 今日は雲一つない青空で、緑の多い本邸の敷地は心が癒される。


 本邸は別邸よりも敷地がとても広く、お父様の言う通り、魔法の訓練にうってつけの場所だった。


 敷地内ならどこに行っても構わないし、好きなだけ魔法を使っていいよ、と言われたわたしは、わざわざ敷地の端っこにある池にやって来た。


「誰にも見つからないような場所で、思いっきり魔法を使ってみたいよね!」


 ただそれだけの理由で。


 体力錬成も兼ね、思いっきり走った。冒険者になるための地道な訓練を続けてきたわたしにとって、走ることも全く苦ではない。


 苦節七年の努力の結晶が、今まさに発揮されている。頑張って来て良かったと、思わず涙が出そうになるほど嬉しい。


「今日はここで水魔法の訓練をするぞ! よし、行くぞぉ!!」


 腕まくりをして気合を入れると、池の水を最大限使用して、水で器用に龍の形を作った。もちろんお魚さんたちに迷惑をかけないように、配慮も欠かさない。


「ふふ、我ながら、初めてにしては上手にできたわ」


 何度も言うけれど、苦節七年、わたしは本当に地道な努力を続けてきた。


 年齢を重ね、体力や魔力量が増えるにつれ、自分の周りの空調を操るだけでは、もちろん物足りなくなっていた。


 そこでとうとう、次のステップに踏み出した。


 遠くの物を操る遠隔魔法や、ナノ単位ではないかというほどの魔法の微調整。


 風魔法に至っては、空気の振動を操ることまでできるようになっていた。盗み聞きをしなくても、遠くの人の声が拾えるくらいに。


 ちなみに、わたしの最近のお気に入りの訓練は、複合魔法だ。


 魔法を同時に使えば、それだけ魔力が減った気がするからだ。もちろん、七年間一度たりとも魔力が枯渇することなどなかったけれど。


 そして今、自分の魔法を自画自賛しては、たがが外れたように、調子こいて次から次へと魔法を使いまくっている。


 そんなわたしの前に「ちょっと待った!」と言わんばかりに、それは再び現れた。


「チビ、誰の魔力で魔法が使えていると思ってるんだ。いい加減やめろ」

「えっ!?」


 その声は、大人の男の人の声だった。


 ビクッとしてしまった小心者のわたしは、きょろきょろと周りを見回した。けれど……


「誰もいない? 気のせいかな?」


 そう思い、懲りずにまた魔法を使おうとした。そんなわたしを、黒い影が襲い掛かる。



ーーーーにゃあっ!!



 “それ”はわたしの顔を目掛けて飛びついてきたのだけれど、わたしはその一瞬のときめきを見逃さない。


 だって、長年思い馳せていた、あの黒いもふもふっとした、とても可愛いあの存在だったから。


「黒猫ちゃん!!」


 わたしは黒猫ちゃんを捕まえて、ぎゅっと抱きしめた。油断していた黒猫ちゃんは、あっけなくわたしに捕まってくれた。


(きっと、この黒猫ちゃんを離してしまったら、もう会えないかもしれない。そんなの嫌! 絶対に連れて帰って、思う存分もふもふするんだから!!)


 傍迷惑な野望を胸に、絶対に逃すまいと、思いっきり黒猫ちゃんを抱きしめた。ぶっちゃけ、もふもふを既に堪能していた。


(はあ、幸せすぎる。もふもふ最高!!)


 抱きしめた黒猫ちゃんに、わたしはすりすりともふもふに顔を埋める。


「チビっ、逃げないから離せ! 本当にやめろ!! やめてくれ!!」


 その言葉に耳を疑った。チビと言われたからではない。言葉遣いが乱暴だからでもない。


「えっ? 黒猫ちゃんが喋った!?」


 普通ならあり得ない。けれど、腕の中の黒猫ちゃんが明らかに喋ったのだから。






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