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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第三章
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VIPの中のVIP

「困ってたって、どうしたの?」


 嫌な予感はするけれど、どうしてか、口が勝手に開いて尋ねてしまう。


「さっき、お客様が来てるって言ったでしょ?」

「うん、VIPのことだね」

「その方が、冒険者登録をしたいって来てるのよ。でも、誰も戦う相手がいなくて困っていたの」

「え? だって、いつもはギルド職員かそこらへんの冒険者と戦うんでしょ?」


 わたしの時もそうだった。けれど、確かに冒険者の姿がどこにも見当たらない。


「ギルド職員は手を抜いたとか言われると困るから、今回は戦えないの。だからと言って、冒険者たちも嫌がっちゃってね。だから、今回は特別に、全く見ず知らずの冒険者登録をしに来た人と戦うのがいいと思っていたところだったのよ」


 そして、実に良いタイミングでベロニカが来たわけだ。


(冒険者が嫌がるって、そんなに強い相手なのかな? まあ、それでベロニカが負ければ冒険は諦めてもらえるだろうし、ベロニカ次第だね)


 やっぱり冒険の旅には危険が付きものだから、諦めてもらえるのなら、それに越したことはない。


「ベロニカはどうしたいの?」

「あたしは冒険者登録をするためなら、誰と戦ってもいいわ」

「うふふ、決まりね。今準備するから待っててね」


 マリリンが嬉しそうに裏口へと向かっていった。右手に持つピンクのジュリ扇を、頭上高くでふりふりふり。


「あれが武器って、絶対に反則だよね」


 あのジュリ扇は、ふわふわしているくせに、オリハルコン製の刃物すらも防ぐという都市伝説があるらしい。


「ねえ、スーフェ」

「ん? どうしたの?」


 深妙な面持ちで、ベロニカが声をかけてきた。


(もしかして、怖くなっちゃったのかな? そうだよね。いきなり戦うとか、怖いよね)


 だからわたしは、優しくベロニカに声をかける。


「ベロニカ、怖いなら、無理に試験を受けなくても平気だよ?」

「えっ、違うの。戦うって、どんなふうに戦うの? じゃんけん?」

「まずそこ!?」


 そもそも、戦うのが怖いとかいう次元の問題ではなかった。


「えっと、一対一で、殺す以外のなんでもありな試合をして、勝てば試験に合格して、ギルド登録ができるんだよ。本当に大丈夫?」


(一応、魔法は一通りできるようにはなったみたいだけれど、水はまだ“ちょろちょろ”だし、風は“そよそよ”だし、土は“ぽこん”だし……)


 普通なら、絶対に合格は無理だよな、とわたしは思ってしまった。


「うーん? まあ、何とかなるかな?」

「何とかなるって、本当に思ってるの!?」


 やっぱりベロニカの神経は、ダイヤモンドでできていると思う。


「とりあえず、先手必勝だよ! 対戦相手はきっとベロニカの可愛らしさに見惚れて油断してるはずだから、始まりの合図がなったらすぐに、思いっきり魔法を放つの!! 一撃必殺だよ」

「先手必勝、一撃必殺ね! 分かったわ」

「うん。ベロニカの魔法くらいなら、思いっきり放っても相手は死なないだろうから」


 だって、水はまだ“ちょろちょろ”、風は“そよそよ”、土は“ぽこん”だから、人なんて死ぬはずがない。


 この時のわたしは、本気でそう思っていた。



「ベロニカ、スーフェ、準備できたら闘技場にいらっしゃ〜い」

「「はーい!!」」


 わたしとベロニカは、闘技場という名の空き地へと向かった。


「まじか……」


 わたしの顔が一瞬にして青褪めた。


 ベロニカの対戦相手が誰なのか、わたしは一瞬にして分かってしまったから。紛れもなく、VIPの中のVIPだったから。


「スーフェ、知り合い?」

「知り合いっていうか、一方的に知ってるだけっていうか……」

「どうしたの? 何か変よ?」


(だって、まさか、彼がここにいるなんて思わないじゃない……)


 戸惑うのも無理のない話。少しくらい、変になっても仕方がないと思う。


「……ベロニカは彼を見て何か感じる?」


(運命の出会い的な……)


 わたしの言葉にベロニカは彼をじっと見つめる。どうしてか、鼻をクンクンとならす。


「お金の匂いがする。それも大金」


 真剣な表情で紡がれた言葉は、やっぱり金のこと。


 確かに彼はこの国で一番のお金持ちに違いない。けれど、聞きたいのはそういうことではない。


「いや、わたしが聞きたいのは運命の出会い的な、胸がキュンとときめく的なことなんだけど」


 わたしの言葉にキョトン顔。わたしもどうしたらいいか困ってしまう。


「あら〜、お相手を見てびっくりしちゃった? 対戦してもらうお相手は、こちらの方よ。もちろん知ってるわよね? でも、遠慮しないで戦ってね。ルールはいつも通り、殺さなければなんでもありだから。色仕掛け、もありよ!」


 マリリンがわたしたちに「うっふ〜ん♡」と説明してくれた。


 確かに色仕掛けが一番安全かつ勝算があるかもしれない。


 だって、そこにいたのは……


「ライアン王子……」


 乙女ゲームの攻略対象者でこの国の王子、


   ライアン・フォン・ロバーツ


その人だったのだから。


 



昨夜、猫の日記念に短編を投稿しました。きっと何も考えずにサクッと読める系です。ぜひ読んでみてください。


婚約解消されたい令嬢と、解消したくない王子の俺。

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