感動のご対面
「次は、冒険者ギルドに行って、マリリンに会いに行こうよ」
わたしとベロニカは、抱き合って泣いているお母様たちに気付かれないように、こっそりと王妃様の部屋を抜け出した。
部屋の外で待っていたお父様に状況を話し、これからきちんと王城の侍医の診察を受けるのだという。
そして、王城を早々に抜け出して、わたしたちは冒険者ギルドへと向かった。
「あたし、とってもドキドキするわ。いきなり訪ねたら、驚かないかしら?」
「ふふ、きっと驚くよ!」
もちろんベロニカが。
「さあ、ルベ。準備して」
ルベは無言でわたしの頭の上に乗ってくれた。きっと、何を言っても無駄だということが分かっているのだろう。
「頼もお!!」
わたしはいつもの如く、勢いよくドアを開けて、大きな声で叫んだ。
「……」
全く返事がない。冒険者ギルド内はシーンと静まり返っていた。人っ子一人見当たらない。
「誰も、いない? 何か大事件でもあったのかな?」
けれど、王城では冒険者全員が駆り出されるような事件が起きてるような雰囲気は全くなかった。
「あら? スーフェじゃないの。どうしたの?」
そこへ、ひょっこりと現れたのは、わたしたちの目的の人、マリリンだ。
今日もばっちりメイクを決めて、ルベに向かって、これでもか! というほど、ウインクをしている。
よく見れば、冒険者ギルドの天井にはミラーボールが設置されていた。
冒険者ギルドがマリリン色に染まっていた。
「もう、マリリンったら、どうしたの? は、わたしのセリフだよ。どうして誰もいないの?」
「ああ、今ね、特別なお客様が来てるのよ。その対応に追われててね」
「へえ〜、そうなんだぁ。いわゆるVIPが来てるんだね。ふふ、実はわたしも、マリリンにお客様を連れてきたんだよ。じゃん! ベロニカです!」
わたしは背中に隠れてもらっていたベロニカを、勢いよく紹介した。
「……」
(ふふ、ベロニカったら、びっくりして声も出ないのね)
マリリンと向き合ったベロニカは、何も言葉を発っすることなく、固まって動かなくなっていた。
はっきり言うと、マリリンは、男でも女でもなく、マリリンだ。一見さんは、間違いなくマリリンの迫力に驚くと思う。
そして次第に、マリリンの大人の魅力に嵌っていく。蟻地獄のように、もう二度と抜け出せない。
「えっ? ベロニカって、もしかしてペレス村の? あらやだ、とっても大きくなったわね」
懐かしむマリリンを見て、ベロニカの表情がぱあっと笑顔になった。
「やっぱり! マリーおねえちゃんですよね? マリーおねえちゃんが“赤いMの人”だったの?」
「ふふ、ばれちゃったのね。ええ、そうよ。ベロニカもアタシのことを覚えてくれていたのね」
何かがおかしい。わたしの想像していた展開と、どんどんかけ離れていくではないか。
そして、ようやく理解したわたしは叫ぶ。
「えっ!? ちょっと待って。マリリンがベロニカのおねえちゃん!? 嘘っ、まじで!?」
目玉が飛び出るかと思った。結果。一番びっくりしたのは、わたしだった。
「ふふ、おねえちゃんって言っても、血の繋がりはないわよ。アタシの大好きだった使用人の娘さんがベロニカなの。最後に会ったのは、ベロニカが5歳くらいの時かしら?」
「えっ、そうなの? ベロニカも、5歳の時のマリリンさんと今のマリリンさんが同じ人って、良く分かったね。七年前でしょ? 全くの別人でしょ?」
だって、ほんの数日前までは、マリリンはガッツリ男の中の男という姿だったのだから。
「やだなぁ、スーフェったら。マリーおねえちゃんは全く変わってないよ。あ、でも、とっても綺麗になってて驚いちゃった!」
「まあ! ベロニカったら、お上手なんだから!」
「……」
わたしはもう、何も言えなくなってしまった。
ルベがわたしの気持ちを察してくれたのか、もふもふの可愛い前足で、頭をぽんぽんと叩いてくれた。
(ルベ……)
ようやく心を取り戻したわたしは、思い出す。
「そうだ、ベロニカ! マリリンにご報告したら?」
「あら? ご報告なんて、彼氏でもできたの?」
「マリーおねえちゃんったら、違うよ。あたしね、魔法が使えるようになって、しかも、聖女様になれたの! これも全てマリーおねえちゃんのおかげだよ。今まで仕送りしてくれてありがとう」
ベロニカは瞳に涙を浮かべながら、深々と頭を下げてお礼を言っていた。
マリリンがいなかったら、本当にのたれ死んでいてもおかしくない状況だったみたい。
(一人で掘っ建て小屋に住むほど、困窮していたんだものね)
それを思うと、わたしまで泣けてきた。
「まあ、聖女様!! 素敵ね。それなら、これからベロニカ様って呼ばなければいけないわね」
「えぇっ!! やめてよ。今まで通りベロニカって呼んで!」
「いいの? それならアタシのことは、マリリンって呼んでね!」
「うん! 分かったわ」
「スーフェ、ベロニカを連れてきてくれてありがとう。この後はどうするの?」
「わたしは冒険の旅に出るよ。ベロニカは家ができるまで王都に住むんだっけ?」
わたしはベロニカに確認した。もし王都で暮らすのなら、このままオルティス侯爵家の別邸に住んで貰えばいいと思っている。
「あたしね、色々と考えたんだけど、やっぱりあたしもスーフェと一緒に冒険の旅っていうのに行きたいわ」
「「ええっ!?」」
わたしとルベの声が揃った。
「スーフェ、もしかしてあたしと一緒じゃ嫌なの?」
「嫌というか、そもそもベロニカは冒険者登録してないでしょ? だから一緒には行けないんだよ」
ベロニカがいると転移魔法が使えない。その一点が本当にネックだ。
けれど、聖女様がいると何かあった時には確かに心強い。それはルベも思ったらしい。
ちなみに面倒見の良いルベは、お守りが大変だから嫌なだけ。しかも聖女様。
「え? 冒険者登録?」
「あら〜、それなら、今から挑戦してみる? ちょうど困ってたいたところなのよ」
「困ってた?」
マリリンが、とても嬉しそうに勧めてきた。けれど、どうしてだろう。とっても嫌な予感がしてしまう。
もちろんその嫌な予感は、見事に当たるのだけれど。