聖女の力は王妃を救う
翌日、わたしとベロニカは、お父様とお母様と一緒に王城へと向かった。
正直言って、あり得ないほどドキドキしている。だって、本当にうまくいくかどうかなんて確証がないのだから。
(わたしがこんなに緊張しているんだから、ベロニカはもっと緊張しているはずだよね? 大丈夫かな?)
……と思っていたら、お母様と一緒に王城の至る所にあって、見つけると幸せになれるという隠れミッ◯ーならぬ、隠れフェリシアのお花を探して遊んでいる。
(乙女ゲームのヒロインって、やっぱり神経が図太い初期設定なのかな? 王子ルートを選んだら、王妃になるんだもんね。普通の神経じゃ生きていけないか)
お遊びもほどほどにして、わたしたちは王妃様の部屋へと足を踏み入れた。
「リオナ! スーフェちゃんが聖女様を見つけてきてくれたわよ」
「ふふ、本当に連れてきてくれるなんて、さすがフェリシアの娘ね。スーフェちゃん、どうもありがとう。聖女様、わざわざお越しくださりありがとうございます。このような格好でのご挨拶で申し訳ありません。私はリオナ、と申します」
「は、はい、ベロニカです。よろしくお願いします」
王妃様は不治の病の症状が進行し、ほんの数日の間なのに、起き上がることさえもできなくなっていた。
(間に合って良かったぁ!! あとはベロニカが、ちょちょいのちょい、だね!)
けれど、本当に不治の病が治るかどうかは、やってみないと分からない。もしも治らなかったら、もちろんチョロ神に文句を言うつもりだ。
「挨拶は後にしましょう。ベロニカちゃん、お願いできる?」
「え、あ、はい。……ねえ、スーフェ。タダではできないって言えばいいのかな? それに相場はいくら?」
突然のことに狼狽える気持ちも分かる。けれど、どうしてか、ベロニカの頭の中はお金のこと。
やはりベロニカの神経は、鋼鉄の鋼でできているらしい。
「ベロニカ、それは絶対に言ってはだめなやつだからね。それに言わなくても、わたしたちの想像以上に貰えるだろうから」
「分かったわ。じゃあ、どうすればいいの? 本当にあたしにできるのかな?」
「大丈夫! わたしを救ってくれた時みたいに、自信を持って強く願えばいいの。王妃様の不治の病を治してって」
わたしはあえて「不治の病を」と言った。なぜかと言うと、ステータスにそう書いてあるから。
「分かったわ、やってみる! リオナ王妃様、失礼します」
ベロニカはわたしを治した時のように、ぎゅっと王妃様を抱きしめて、そして、強く願った。
「病気が治るイメージ、元気になるイメージ、あたしならできる、リオナ王妃様の悪い病気を、不治の病を治して! お願いします!!」
すると、金色に輝く光がベロニカから発せられ、その光が一気に王妃様を包み込んだ。
「綺麗……」
その光がとても美しくて、とても神聖な光のような気がして、わたしは思わず呟いていた。
その光に包まれた瞬間から、石のように硬くなっていた王妃様の顔や身体が、みるみるうちに元の姿に戻っていった。
「すごい。ベロニカって、本当に聖女様なんだね」
今さらだけど、わたしは本気でそう思った。
ベロニカの聖女の力を目の当たりにするのは初めてのこと。
けれど、わたしはこの力を決して盗み見ない。聖女の力は、特別な人だけが持つ力だから。
……ではない。
(惜しいな。この力があれば、がっぽり稼ぎながら冒険の旅ができるのに。けれど、ルベのために我慢しなきゃ! わたしってば優しいな)
ルベが聖属性魔法が嫌いだからだ。絶対にルベに嫌われたくないもの。
そんなことを思っている間に、金色の光がゆっくりと収まっていく。
「ふうっ、たぶん、できました!」
肩で息をしながら終了を告げるベロニカの言葉を聞き、お母様は王妃様に駆け寄った。同時にわたしは王妃様のステータスを確認する。
(良かったぁ!! 不治の病って文字が消えてる。これで完治ってことだね!!)
王妃様のステータスには、日本語で書かれた「不治の病」という文字がなくなっていた。
王妃様が死ぬ運命を回避できたのだと思うと、とっても嬉しくて、不覚にも涙が零れそうになった。
だって、乙女ゲームの運命は、どうにかすれば変えられるってことが、立証できたのだから。
「リオナ! 気分はどう? 顔の石化は治ってるわよ。身体は? 動かせる?」
「ええ、全く苦しくないわ。とても身体が軽いもの。私の病気が本当に治ったってこと? 嘘、もうだめかと思っていたのに……聖女様、本当にありがとうございます。ありがとうございます……」
「ベロニカちゃん、本当にありがとう」
王妃様とお母様は抱き合いながら、ぽろぽろと大粒の涙を零してベロニカに感謝をしていた。
きっと、ずっと苦しい思いをして、最悪な場合も覚悟していたのだろう。
「どういたしまして……」
どうしたらいいか分からなくなったのか、ベロニカは救いを求めるように、わたしの方をちらりと見る。
だからわたしは、言葉の代わりに満面の笑みでピースサインをして「良くやった!」とベロニカを褒め称えた。
それを見たベロニカは、ようやく安心できたのか、安堵の表情を浮かべ、そしてとても嬉しそうに笑っていた。