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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第三章
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王妃様治療計画

「じゃあ、王都に向かって出発しよう! ベロニカ準備できた?」

「ええ、準備万端よ。家の中の物も全部持ったわ」


 そう告げるベロニカの手には、大きめのカバンが二つだけ。絶対にあり得ない。


「……もしかして、ベロニカもアイテム袋を持ってるの?」


(家の中の物を全部持ったと言う割に、荷物が少ないよね?)


 わたしはベロニカの家の中も覗き見る。本当に何もない。


「アイテム袋って何?」

「え? 無限に何でも入る袋だよ。わたしのアイテム袋みたいに」


 ベロニカはキョトン顔。瞬間、わたしは察した。ただの貧乏だ、と。


「ベロニカ、今からでも間に合うよ! 一緒に聖女の力でがっぽり稼ごう!」

「ふふ、スーフェったら、がっぽり稼ぐだなんて。でも、お金は大好きだから大賛成よ!」


 純真無垢なはずのベロニカが、無償の愛を捧げるはずの聖女様が、わたし色に染まっていく。

 

「そうと決まったら、よし! しゅっぱーつ!」


 わたしは、ベロニカとカルと一緒に馬車に乗り込み、王都へ向けて出発した。ちなみにルベは屋根の上。


「カル、こちらベロニカだよ。正真正銘の聖女様。絶対に惚れちゃだめだからね」


 正直言って、ベロニカはとっても可愛い。さすが乙女ゲームのヒロインだけある。


 だから、カルがベロニカに惚れてしまうのではないかと心配になってしまう。きっと大丈夫だと思いつつも、不安は拭えない。


「はは、スーフェは心配性なんだから。僕が好きなのはスーフェだけだってば」

「もう、カルったら! ベロニカの前で恥ずかしいな」


 ……と言いつつも、わたしは本気で嬉しい。できるなら、もっと言って欲しいと思ってしまう。


「ベロニカ、こちらわたしの“婚約者”のカルセドニー様。絶対に口説いちゃだめだからね!!」

「ふふ、スーフェったら、わたしが男の人を口説けるわけないでしょ」

「……無自覚ヒロイン? こわすぎる」


(さっきも村人たちを陥落してたじゃない!? これ、絶対にベロニカの知らないうちに逆ハーレムでしょ!? 本当にやめてほしいんだけど!)


 逆ハーレムルートの悪役令嬢は、きっと凄まじい終わりを迎えるのだろう。ただでさえ、マジDEATHの乙女ゲームの悪役令嬢は、全ルート死亡エンドだというのに。


 まっ、逆ハーレムルートがあったかどうかなんて、わたしが知ってるはずもないけれど。


「そう言えば、スーフェはまさか、あれからルベさんと何もないよね?」


 どうしてか、突然カルが尋ねてきた。


「る、ルベと!? な、何もないよ!!」


 明らかに動揺したわたしに、じとりとした視線が突き刺さる。そこで空かさずベロニカがフォローに入ってくれた。


「ふふ、スーフェったら慌てちゃって。ルベちゃんと何もないじゃない」

「そ、そう、何もないよ」


(ベロニカ、まじ女神!! ナイスフォロー!)


 思わぬフォローに、わたしは心の中で雄叫びをあげた。


「ふふ、だって、ルベちゃんと一緒のお布団に寝ただけだもの」

「ベロニカっ!!」


 思わぬ爆弾に、一気に青褪めたわたしはちらりとカルを見た。笑ってるのに、怒ってる……


「スーフェ、どう言うことなのかな? 説明してくれる?」


 もう逃げられないと悟ったわたしは、観念して全てを話した。


 今回は絶対にルベの心は盗んでません、と。むしろ、わたしは瀕死の状態だったので、全く何も分かりません、と。


「スーフェの言っていることは本当よ。だって、スーフェはルベちゃんの本当の……」

「にゃー、にゃー! にゃー!!」


 ルベが突然現れた。相変わらず危機察知能力が鋭いらしい。けれど、それが運の尽き。


「まあ! ルべちゃんだわ。ふふ、猫可愛がってあげるからおいで」

「嘘!? お前まじで信じられない!! チビより最低だっ!」


 おいで、おいで、と手招きをするベロニカには、もう逆らえない。ベロニカは、見事に猫可愛がりのスキルを使いこなしていた。


「ルベさん、スーフェの話は本当?」

「ああ、本当だ。だから頼む、俺をこいつらから解放してくれ!!」


 ベロニカはルベを撫でている。わたしもベロニカに便乗してルベを撫でている。

 わたしたちに撫でられたルベの毛並みは、より艶々さらさらとなり、輝きが増した。


「なんとなく居た堪れなくなってきたよ。ルベさん、こっちにおいで」


 色々と知っているらしいカルが、ルベに救いの手を差し伸べてしまった。

 

「そう言えば、どうして遠回りしているの?」


 馬車は公爵家の領地を通らずに、迂回をしている。


「あの辺一体には、もう当分近付くな」

「どうして? 近道通ろうよ」

「……ワイバーンは、おそらくあの地で召喚された。他にもいるかもしれない」

「でも、ルベちゃん、あそこを通らなきゃ、あたし、村に帰れなくなっちゃうわ?」


 きっと帰りの心配をしているのだろうけれど、もちろん馬車で送る予定だ。


「じゃあ、家ができるまでは、王都で観光でもしてればいいんじゃない? 少し聖女の力でがっぽり稼いでから、村に戻ればいいよ」

「スーフェ、がっぽりって、聖女の力は神聖なものだよ?」

「だって、聖女様だって立派なお仕事だよ? タダ働きなんて、ブラックじゃん!!」


 前世でわたしが目指していた職業は、安定した公務員。ブラック職業は反対だ。


「……ブラックとか、ちょっと意味が分からないよ。でも、聖女様だと認められれば、国が面倒見てくれるはずだよ。王城に行って相談してみればいいんじゃないのかな?」

「王城で相談? あたしが王城に行くなんて無理よ。あたしだって身の程を弁えているわ」

「カル、それいいね! いい考えだよ!! ベロニカ、王城に行こう。わたしも一緒について行くから! そして、聖女の力を知らしめよう!」


 ……王妃様を治療して。


 わたしの中で、無事に王妃様治療計画の道筋ができあがった。

 

 

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