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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第三章
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伝説の大工

「ただいま〜!! って、何してるの?」


 わたしとルベはペレス村に帰ってきた。もちろん転移魔法でさくっと。そしたらなぜか、教会の前に行列ができていた。


「あら、スーフェお帰りなさい! 今ね、魔法の訓練がわりに、村のみなさんの不調を治していたの」

「いやあ、女神様だ。ベロニカちゃんは聖女様だね」

「もうっ、お上手なんだから! 約束通り、教会と一緒に、あたしのお家も建て直してね」

「任しとき!」


 わたしが匠のスキルで直そうかな、と思っていた掘っ建て小屋も、新築に立て直す約束をちゃっかりと交わしていた。


「ヒロインパワーは健在だね。わたしたちがいない間に、村人みんなが陥落してるなんて。乙女ゲームが始まった時が恐ろしいよ」


 やっぱり遠いところへ旅に出よう、とわたしは思った。


「おっ、嬢ちゃん帰ってきたんかい! 木はどうした? やっぱり無理だったろう?」


 少しだけ馬鹿にしたように、にやにやしながら言う大工さんに、わたしはイラッとした。


「もちろん、もう用意してあるよ」

「!?」


 ベロニカの家の隣の空き地に、アイテム袋から出した木を、すでに積み上げていた。ベロニカ相手に、鼻の下を伸ばしてヘラヘラしていた大工さんが気付かぬうちに。


「これで、教会とベロニカのお家を作ってあげてね」

「まあ! スーフェ、本当にありがとう」

「当たり前だよ!」


(だって、ベロニカには王妃様の病気を治してもらうんだから)


 相変わらず、下心満載だと自分でも思う。


 それからは、わたしも匠のスキルを活かして、大工仕事に精を出した。


「嬢ちゃん、腕がいいねえ。そろそろ少し休もうぜ。もうみんな草臥れちまったよ」 

「ふう、そうだね。休むことも大切だものね。やっぱり王城の匠のように、ぱぱっとはいかないね。はあ、疲れたよ。カルは今頃何してるのかな?」


 少しだけ、カルのことを思い出して、わたしは心を癒やしはじめた。


「スーフェ!」

「ああ、カルの声が聞こえる。幻聴かしら……って、カル!?」


 教会の目の前に、一台の馬車が停まった。そこから降りてきたのは、カルだった。


「スーフェのことが心配で来ちゃったよ。もう大丈夫なの?」

「うん! カルに会えたから、元気100倍! もしかして、交換日記をみて、すぐに来てくれたの?」

「うん。でも、先に精霊たちに話は聞いていたんだ。ちょうどスタン様と王城にいる時に、交換日記を見て、急いで出発したんだよ。だから、スーフェのご希望の人も連れてきたよ」


 馬車から颯爽と、一人の男の人が降りてきた。わたしの胸がドクンと高鳴る。


「匠!!」


 尊敬してやまない、王城の匠が現れたから。


 わたしは交換日記で、聖女様が見つかったけれど、神聖な教会が燃えちゃったから、助っ人が欲しい、とお父様に伝えてもらえるようにお願いをしていたのだ。


 匠の姿を目にした瞬間、ペレス村の大工さんたちが目を丸くして驚いていた。


「ゲンさん!!」

「えっ、匠が大工のゲンさんだったの?」


 匠は、大工仲間の間では伝説の人物だった。


 王城で会った時と違って、ニッカボッカを履いていて、ねじりハチマキがよく似合う。


 まさに大工のゲンさんの名に相応しい装いだった。


「聖女様が目覚められた教会がピンチだとお聞きして、駆けつけた次第です。もしかして、こちらが?」


 ピンチどころか、すでにピンチを通り越してアウトだと、ここにいる誰しもが思った。


「匠でも、難しいですよね?」


 だけど、伝説の大工は一味違う。


「いやいや、フェリシア様の時と比べたら、可愛いもんですよ。でも、スーフェ様も将来有望ですね」

「わたしじゃないです!! 濡れ衣です!!」


 あろうことか、わたしのせいにされた。ワイバーンのせいなのに。


「ご謙遜なさらずに、それでは、記念にスーフェ様のお印を刻まなければいけませんね。どのようなお印にしましょうか?」

「まさか、隠し◯ッキー!? 嬉しい!! じゃあね、こんな印でお願いします」


 わたしじゃない、濡れ衣だ、と言っていたのも忘れて、ここぞとばかりに、こそこそこそ、と耳打ちをしてお願いした。


「任せといてください。スーフェ様の第一号なので、にゃっと言わせるものを用意しておきますね。スーフェ様は、聖女様と一緒に私が乗ってきた馬車でお帰りください。スタン様がお待ちです」

「分かったわ! じゃあ、ベロニカ、お昼を食べたら、わたぢたちもさっそく王都に向かいましょう!」


 わたしたちが王都に向かう準備をしていると、とても威勢の良い声が後ろから聞こえてくる。


「ゲンさん、どうだい、直せるかい?」

「べらんめえ、これっくらい、ちょちょいのちょいってもんよ!」

「さすがゲンさん! 百人力だ! よし、行くぜっ! ゲンさん」

「がってん承知の助!」


(えっ!? ここは、江戸!?)


 わたしは、思わずゲンさんたちのことを二度見してしまう。その時にはすでに、匠は、ぱぱっと直し始めていた。


「さすが、伝説の大工のゲンさん!!」


 明日には、教会が完成してそうだ。





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