伝説の大工
「ただいま〜!! って、何してるの?」
わたしとルベはペレス村に帰ってきた。もちろん転移魔法でさくっと。そしたらなぜか、教会の前に行列ができていた。
「あら、スーフェお帰りなさい! 今ね、魔法の訓練がわりに、村のみなさんの不調を治していたの」
「いやあ、女神様だ。ベロニカちゃんは聖女様だね」
「もうっ、お上手なんだから! 約束通り、教会と一緒に、あたしのお家も建て直してね」
「任しとき!」
わたしが匠のスキルで直そうかな、と思っていた掘っ建て小屋も、新築に立て直す約束をちゃっかりと交わしていた。
「ヒロインパワーは健在だね。わたしたちがいない間に、村人みんなが陥落してるなんて。乙女ゲームが始まった時が恐ろしいよ」
やっぱり遠いところへ旅に出よう、とわたしは思った。
「おっ、嬢ちゃん帰ってきたんかい! 木はどうした? やっぱり無理だったろう?」
少しだけ馬鹿にしたように、にやにやしながら言う大工さんに、わたしはイラッとした。
「もちろん、もう用意してあるよ」
「!?」
ベロニカの家の隣の空き地に、アイテム袋から出した木を、すでに積み上げていた。ベロニカ相手に、鼻の下を伸ばしてヘラヘラしていた大工さんが気付かぬうちに。
「これで、教会とベロニカのお家を作ってあげてね」
「まあ! スーフェ、本当にありがとう」
「当たり前だよ!」
(だって、ベロニカには王妃様の病気を治してもらうんだから)
相変わらず、下心満載だと自分でも思う。
それからは、わたしも匠のスキルを活かして、大工仕事に精を出した。
「嬢ちゃん、腕がいいねえ。そろそろ少し休もうぜ。もうみんな草臥れちまったよ」
「ふう、そうだね。休むことも大切だものね。やっぱり王城の匠のように、ぱぱっとはいかないね。はあ、疲れたよ。カルは今頃何してるのかな?」
少しだけ、カルのことを思い出して、わたしは心を癒やしはじめた。
「スーフェ!」
「ああ、カルの声が聞こえる。幻聴かしら……って、カル!?」
教会の目の前に、一台の馬車が停まった。そこから降りてきたのは、カルだった。
「スーフェのことが心配で来ちゃったよ。もう大丈夫なの?」
「うん! カルに会えたから、元気100倍! もしかして、交換日記をみて、すぐに来てくれたの?」
「うん。でも、先に精霊たちに話は聞いていたんだ。ちょうどスタン様と王城にいる時に、交換日記を見て、急いで出発したんだよ。だから、スーフェのご希望の人も連れてきたよ」
馬車から颯爽と、一人の男の人が降りてきた。わたしの胸がドクンと高鳴る。
「匠!!」
尊敬してやまない、王城の匠が現れたから。
わたしは交換日記で、聖女様が見つかったけれど、神聖な教会が燃えちゃったから、助っ人が欲しい、とお父様に伝えてもらえるようにお願いをしていたのだ。
匠の姿を目にした瞬間、ペレス村の大工さんたちが目を丸くして驚いていた。
「ゲンさん!!」
「えっ、匠が大工のゲンさんだったの?」
匠は、大工仲間の間では伝説の人物だった。
王城で会った時と違って、ニッカボッカを履いていて、ねじりハチマキがよく似合う。
まさに大工のゲンさんの名に相応しい装いだった。
「聖女様が目覚められた教会がピンチだとお聞きして、駆けつけた次第です。もしかして、こちらが?」
ピンチどころか、すでにピンチを通り越してアウトだと、ここにいる誰しもが思った。
「匠でも、難しいですよね?」
だけど、伝説の大工は一味違う。
「いやいや、フェリシア様の時と比べたら、可愛いもんですよ。でも、スーフェ様も将来有望ですね」
「わたしじゃないです!! 濡れ衣です!!」
あろうことか、わたしのせいにされた。ワイバーンのせいなのに。
「ご謙遜なさらずに、それでは、記念にスーフェ様のお印を刻まなければいけませんね。どのようなお印にしましょうか?」
「まさか、隠し◯ッキー!? 嬉しい!! じゃあね、こんな印でお願いします」
わたしじゃない、濡れ衣だ、と言っていたのも忘れて、ここぞとばかりに、こそこそこそ、と耳打ちをしてお願いした。
「任せといてください。スーフェ様の第一号なので、にゃっと言わせるものを用意しておきますね。スーフェ様は、聖女様と一緒に私が乗ってきた馬車でお帰りください。スタン様がお待ちです」
「分かったわ! じゃあ、ベロニカ、お昼を食べたら、わたぢたちもさっそく王都に向かいましょう!」
わたしたちが王都に向かう準備をしていると、とても威勢の良い声が後ろから聞こえてくる。
「ゲンさん、どうだい、直せるかい?」
「べらんめえ、これっくらい、ちょちょいのちょいってもんよ!」
「さすがゲンさん! 百人力だ! よし、行くぜっ! ゲンさん」
「がってん承知の助!」
(えっ!? ここは、江戸!?)
わたしは、思わずゲンさんたちのことを二度見してしまう。その時にはすでに、匠は、ぱぱっと直し始めていた。
「さすが、伝説の大工のゲンさん!!」
明日には、教会が完成してそうだ。