魔境の森に街道を
旅に出た、と言っても、わたしたちが向かった場所はコックス村の別邸だ。もちろん、転移魔法でサクッと転移した。
「お祖父様!」
「おお、スーフェちゃんじゃないか。どうしたんじゃ?」
お祖父様は相変わらず、のんびりとコックス村での余生を楽しんでいるみたい。そして、視界に入るマダムたち。
(相変わらずだな……)
げんなりしてしまいそうになるけれど、今はやらなければならないことがある。
「魔境の森の木をいただきたいんですけど、権利関係って、どうなってるんですか?」
「木を伐採するのか? 魔境の森の木ならいくらでも伐採して大丈夫じゃ。と言うのも、以前にも、隣国との国交を活発させようと、街道を作る計画が出たんじゃけど、魔物が危険だから頓挫してしまったんじゃ。だから、街道を作っとると言えば、褒めはされど怒られはしないんじゃ」
「なるほど! 街道を作ればいいんですね」
「そうじゃ。隣国まで一本道が通ればわしも嬉しいのう。そうすれば、シルビアちゃんに簡単に会えるようになるからのう」
「……」
「シルビアちゃんとは清い関係じゃ!!」
「もうっ、分かりました! では、行ってきます!」
「行ってきます、って? まさか本当に……」
お祖父様の言葉を最後まで聞かずに、わたしは魔境の森へと向かった。
「次は、精霊さんに許可を取ろう! 精霊さーん、森の木を貰ってもいいですか?」
ふわりふわりと現れた精霊さんが、わたしを一瞥して言い放つ。
『お前が凶暴スーフェか。だめに決まってるだろ?』
精霊ネットワークでは、すでにわたしは要注意人物らしい。もう魔境の森の精霊さんにまで話が伝わっていた。
「失礼な!! それに今回は教会を建て直したいの。ペレス村の教会。だから、木をちょうだい!」
『ああ、あそこの教会か。あそこがなくなるのは俺らも嫌だ。それなら少しくらいは分けてやるか』
「本当!? ありがとう。じゃあ、さっそく! えいっ!!」
『!?』
精霊さんたちの気が変わる前に、わたしは土魔法を使った。同時に風魔法も使った。土を柔らかくし、上手に木だけを抜いて、浮かせたのだ。
しかも、お祖父様の要望通り、森の中を通れるように真っ直ぐに。まるでモーセの海割りのように。
「せっかくだから、隣の国まで木を全部抜いちゃった! これで隣の国まで楽に行けるようになったよ!」
魔境の森に一本の街道を作った。
もちろん抜いた木は全て、ルベの可愛い前足で広げてもらっているアイテム袋の中にイン!
(ルベのお腹にアイテム袋を付けたくなるけれど、残念ながら張り付かないよなあ……)
そんなことを思いながら、次から次へと木が吸い込まれていく。けれど、時間がかかりすぎて、自分でもやりすぎた感が否めない。
「チビ、このアイテム袋の中に入れた木はどうするんだ? さすがに多すぎるだろ?」
「教会を建てる分と、あとベロニカのお家! それでも残った分は、……そうだ! 旅の途中でどこかに植樹するのはどう? わたしが旅した記念樹みたいにさ」
わたしのアイデアに、ルベが深いため息をつく。
『スーフェ、お前、本当に信じられない』
精霊たちは、唖然としていた。わたしの精霊さんたちからの好感度は、地よりもさらに深くに落ちてしまった。
「よし! できた!!」
ようやく全ての木がアイテム袋の中に入った。
「スーフェちゃん、本当にやりおったのか?」
お祖父様が様子を見にきた。その顔は、若干青褪めている。
「はい! 真っ直ぐに抜けていて、とってもいい眺めですよね」
「魔物が出てこないかが心配じゃのう」
「そこはお祖父様と精霊さんたちとで頑張ってください」
相変わらず他力本願だ。
「こんな時こそ、魔術師がいてくれればいいんじゃがのう」
「魔術師、ですか?」
「ああ、魔術師は悪いやつだけじゃないんじゃ。前に魔術師の隠れ里の話をしたじゃろ?」
「はい、二度と行きたくないと言っていた場所ですよね?」
「あそこは、魔の樹海の奥深くにあって、その隠れ里の周囲には魔物避けの結界が張ってあるんじゃ。その魔物避けの結界があれば、きっとこの道も安全に通れるじゃろう」
ちなみに、魔の樹海とは、魔境の森とは比べ物にならないほど強い魔物たちが出るらしい。
「確かに、いきなり魔物が飛び出してきたら危険ですよね。急ぎの要件が終わったら、試しにこの道を通ってみますよ」
次の冒険の旅は、隣国に行ってみようと今決めた。
「その時は、シルビアちゃんにお土産でも持っていってもらおうかのう」
「致しません」
「スーフェちゃんのためを思って言ってるんじゃ。シルビアちゃんは良いところのお嬢さんだったはずじゃから、頼ると良い」
「それなら、……分かりました」
うまく言いくるめられた感も否めないけれど、シルビアちゃんにお土産を持っていくことも決まった。