木材探しの旅に出る。
「う、うーん。ここは、どこ? てか、ボロいんだけど?」
目を開けたら天井に穴が開いていた。朝日が眩しくて目が覚めた。
「……って、火事は!? ベロニカは? わたし、死んだはずじゃ? ってことは、ルベも一緒に死んだ?」
(きっとここは天国じゃない。けれど、わたしが地獄に行くはずがない。きっとまた別の異世界に転生したんだ……)
わたしは自分の都合の良いように納得しようとした。
「スーフェ、おはよう。もう大丈夫?」
優しく微笑むベロニカが目の前に現れ、わたしはほっと胸を撫で下ろす。
そして、転生どころか自分も死んでいないことに気が付いた。
「ベロニカ! 生きてたのね!! ベロニカこそ大丈夫だった?」
「ええ、スーフェとルベちゃんのおかげよ」
「ルベのおかげ? ルベは?」
わたしはルベを探した。きょろきょろと遠くの方ばかりを探していた。
「ふふ、そこよ」
ベロニカの指す方向はわたしが寝ていたお布団の上。わたしの横でルベは寝ていた。
たくさんの聖魔法を浴びてしまい、さすがのルベも、死んではいないけれど、力尽きてしまったみたい。
「ルベ、良かった。生きてる。もふもふ……」
もふもふしたかった。けれど、なんとか耐えた。
せっかく隣に寝てくれているのだから。しかも、自らの意思で。それを壊したくなかった。
「スーフェ、あたしね、聖魔法が使えたよ。大切な人を守りたいって思ったら、使えたの」
「本当に!? 良かったじゃん!! って、わたしを助けてくれたんだよね? 本当にありがとう」
「ううん、スーフェが魔法を教えてくれたからだよ。でも、本当に良かった。大切なはじめての女友達を助けることができて」
ベロニカが、ぽろぽろと涙を零し始めた。
「ちょっと、ベロニカに泣かれると、わたしまで泣けてくるよ。やめてよ!!」
そして、わたしは教会で起きた話を、少しだけ聞いた。
「そっか、わたしが意識を失ってる時に、ルベがやっぱり来てくれたんだ」
「しかもね、ルベちゃんたら……」
「にゃー、にゃー! にゃー!!」
ルベは身の危険を感じて起きたらしい。わたしに知られたくない話をしようとしているベロニカの言葉を遮った。
「ルベ!! 本当にありがとう。良かった、わたし死ななくて。ルベまで一緒に道連れにしそうになってたなんて、本当にごめんね」
「ああ、チビが無事なら、それでいい」
「ルベ、恥ずかしがらないで。スーフェって呼んでいいんだよ?」
意識が遠のく中でも、スーフェと呼ぶルベの声は聞こえていた。どうせだから、もう一度きちんと呼んで欲しい。
「誰が呼ぶかっ!! それに、そっちのも、絶対にチビに言うなよ」
ルベの言葉に、ベロニカはきょとんとしながら、確認するように言う。
「スーフェに言うなって、ルベちゃんが……」
「にゃー、にゃー! にゃー!!」
「もう、ルベとベロニカで秘密の話? わたし妬いちゃうよ、って、やいちゃうと言えば、教会は!?」
急いで外に出て確認すると、ワイバーンが焼いちゃった教会は、見るも無惨な姿だった。
だから、わたしが匠のスキルでパパッと直す、予定だったけれど……
「だめだ、嬢ちゃん。まず、元になる木が足りねえよ。それにゲンさんがいてくれねえと、完璧には戻せねえ」
村中から集められた大工さんたちが吐露していた。
「もう廃墟だったし、壊しちゃっていいんじゃねえかい?」
「廃墟?」
「ああ、誰もいなかっただろう? それに、雨の日に女の子の幽霊が出るって噂になってからは、余計に誰も寄り付かなかったはずだ」
「まあ、幽霊ですって、あたし怖いわ……」
十中八九、その幽霊の正体は、ベロニカだと思う。
「そっか、廃墟だったから今にも崩れそうなほどボロかったんだね。でも、せっかくだし、建て直そうよ! きっと、観光名所になるよ」
「観光名所?」
「うん。ベロニカの聖女の力が目覚めた教会だもの。みんなその力にあやかりたいに決まってるよ」
とは言いつつも、このまま放置したら、精霊さんたちに怒られるだろうから。
そして、わたしたちは修繕に取り掛かった。
さすがに匠のスキルがあっても、燃えた物は戻らなかった。だから、わたしは考えた。
「よし! 木を伐採してこよう。どれくらい必要?」
「えっ!? まあ、あればあるだけ助かるってもんよ」
あればあるだけ、と無責任なことを、この大工さんは言ってしまった。
「オッケー! よーし、どこがいいかな? 通ってきた森の木なんかはどうかな?」
「やめておけ。あそこにはむやみに近寄るな」
ルベが待ったをかけた。
あの森は公爵家の領地、昨日のワイバーンと関係があるだろうことがルベには容易に予想がついたみたい。
「うーん、じゃあ、あそこ! 出発するその前に、と」
わたしは、カルに交換日記を書いた。昨日の出来事と、ちょっとしたお願い事を。
「じゃあ、ベロニカは魔法の練習と、王都に向かう準備をしていてね」
「王都?」
「マリリンに会いに行こうよ! お礼は言える時
に言ったほうがいいよ!」
わたしの本来の目的は、もちろん王妃様。
本当のことを言って、ビビって行かないと言われるのが嫌だから、マリリンをダシに使った。
「うん、分かった。準備して待ってるね。気を付けて行って来てね」
わたしとルベは、木材探しの旅に出た。