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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第三章
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癒しの魔法

 時は遡り、教会が燃える少し前。


「おい、お前たちは一体、人間界(ここ)で何を企んでるんだ?」


 俺は、遠くからワイバーンを見てほくそ笑んでいた一人の男に、冷めた声で話しかけた。


「その声は……」


 男は振り返る。


「あれ? 確かにあのお方の声だったはずなのに……?」


 振り返った男は、キョロキョロと辺りを見回し始めた。


「お前はバカか。目の前にいるだろう」


 目の前には、俺ーー黒猫が一匹。


 見間違いだと男は目を擦る。聞き間違いだと耳を叩く。ふざけんな。


「俺、疲れてるのか? もしや、あの忌々しい教会の力が幻聴を!?」


 男はキッと教会を睨みつけた。俺には一切目もくれない。


「おいっ、やっぱりお前はバカだろう? 仕方ねえな」

「!?」


 俺は魔力を解放し、黒猫の姿から一瞬にして人型に姿を変えた。


「ま、魔王様!?」

「ああ、この姿は久しぶりだな」


 本当は黒猫なんかじゃない。


 魔王として魔界にいた頃は、人型だった。ある日突然、人間界に召喚されたと思いきや、猫型にされていたのだから。


 けれど、今はどちらも俺の本当の姿らしい。


「人間界でこの姿だと疲れるんだよな」


 俺は愚痴をこぼす。それに、黒猫の姿の方がチビーースーフェが喜ぶから、とは思っていても、決して口には出さない。


 男はすぐさま俺の前に跪いた。


「魔王様、あなたにお会いしたかった」

「立て。俺はもう魔王じゃない」

「確かに、魔界では新たな王の誕生を待っていると聞いた。だが、我が王はあなただけだ」


 男は恍惚とした表情で俺を見る。正直言って、こいつの言うことには全く興味がない。


「それより、お前は何しにきた?」

「あなたのいない魔界なんてつまらない。だったら、人間界で面白いことを始めるってやつらについてきただけです。あなたこそ、何しに人間界へ?」

「ふん、お前に関係ない。お前らも余計なことをせずにさっさと魔界へ帰れ」

「余計なこと……?」


 男は眉根を寄せる。そして、明らかに俺に対し、不信感を露わにした。


「人間界を征服するつもりだろ?」

「魔王様、あなたは違うのですか?」

「興味ない」

「まさか、あの小娘に唆されて……」


 その瞬間、俺の魔力が男を威圧する。少しやり過ぎた。


「関係ない。少しでも手を出したら、容赦しない」


 スーフェに何かあると、俺も危険に晒される。俺にとっては死活問題だ。けれど、それだけではないことくらい、俺が一番よく分かっている。


「小娘なんかに絆されて、魔界の王の名が汚れる。あの小娘がいけないのか」


 男が指笛を鳴らすと「キィィィン」と言う音が村中に響き渡る。


「お前っ、やめろっ!!」


 この指笛が何を起こすかを知っている。


「俺は王も何も興味ない。俺は俺のやりたいように生きる。邪魔するやつは容赦しない。ただそれだけだ」

「そうですか、あなたの気持ちは分かりました。きっと、あなたを慕っていた彼も、心底幻滅するでしょう。私は新しい王についていく。そして人間界を征服するのです」

「待て、ふざけんなっ」



----ズッドォォォン



 その時、雷魔法が放たれた。


(まずい、チビか……)


「怖い怖い。そんなに怒らなくても」


 男は、俺が雷魔法を使ったのだと、誤信した。そのことに、俺は、ほっとした。


 スーフェのことを知られるのは避けたい。スーフェのあの神様から授かった力は、危険すぎるから。


「人間界に手を出すなんてやめろと伝えろ」

「ええ、元魔王様は腑抜けになりましたとお伝えします。では」


 男は去っていった。




 *****



「!?」


 俺は一瞬にして教会内に転移した。

 視界に飛び込んできたのは、燃える十字架の下敷きになるスーフェの姿。


「スーフェ!!」


 俺は思わずスーフェの名を呼んでいた。いつもは今さら呼ぶに呼べないその名前を。


 そして大量の水をかけ、一瞬にして教会全体を氷漬けにした。風魔法で十字架をどかした瞬間、ベロニカがスーフェに駆け寄り抱きしめる。


「スーフェ、しっかりして!!」

「おい、スーフェ、起きろ!! おいっ!!」


 必死に叫ぶ俺の耳に、力ないスーフェの声が届く。


「ルベとの従魔……」


 その時、スーフェの意識が途絶えた。ベロニカの腕の中で力なく項垂れる。


「いやあぁぁぁぁ!!」


 泣き叫ぶベロニカの肩を掴み、俺は叫ぶ。


「おい、お前、ベロニカ。大丈夫だ。俺が生きているうちはスーフェは死んでない」


 ただ、状況が危ういのは身を持って分かっていた。魔力も生命力も、スーフェに可能な限り送っている。ただ、それも限界に近づいていた。


「ルベ、ちゃん、なの?」

「お前ならできる。お前にしかできない。もう分かってるんだろ? 聖魔法が使えるって聞いたんだろ?」

「無理、できない」


 ベロニカは頭を振る。泣きながら、仕切りに頭を左右に振った。


「できないじゃない。やるんだ。スーフェを助けられるのはお前しかいない。自分の力を信じろ」

「スーフェを、助けられる?」


 俺の言葉に、ベロニカが耳を傾けはじめた。


「ああ、お前は間違いなく聖魔法が使える。癒しの魔法だ。イメージしろ、助けたいって強く願えっ」

「癒しの魔法が使える……」


 ベロニカはそれだけを呟くと、覚悟を決めたのか、強く叫んだ。


「ルベちゃん、あたしやる。スーフェを助けたい!! あたしが助ける!!」


 スーフェを抱き抱えたベロニカが、一瞬にして、金色の光に包まれる。その温かい光が、スーフェの傷を癒していくのが分かった。


 教会全体が、金色の光で包まれた。


(……このボロい教会は、ほぼ廃墟と化していたにも関わらず、これだけの力が残されていたのか)


 近寄りたくないと思うほどの神聖な力が宿っていたことは明らかだったけれど、これほどまでとは思わなかった。


「……できた?」


 スーフェの傷は、すっかりと癒えていた。


 着ていた服はところどころ燃え破れ、縮れてはいるけれど、スーフェの身体の火傷も傷跡も、きれいに無くなっていた。


(本物の聖女、か。関わりたくねえな)


 けれど、ベロニカが俺に、これでスーフェは大丈夫か、と仕切りに目で訴えてくる。


「よくやった。もう大丈夫だ」


 柄にもなく、褒めてしまった。それに安心したのか、ベロニカも意識を手放した。


 スーフェとベロニカを担いで、俺は教会を出て行った。


「……浄化されるかと思った」


 正直言って、俺は俺でギリギリの戦いだった。






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