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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第三章
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大切な人

「嫌っ、嫌だっ、お父さん、お母さん!!」


 わたしは頭を抱えて、涙を零した。今も目の前の炎は真っ赤に燃え盛る。その赤色が、次から次へと目に飛び込んでくる。


 だから、何とか目を逸らそうと上を見上げた。


 その瞬間、ワイバーンがわたしに向かって火を噴こうとしているのを、視界に捉えた。


「わ、い、ばーん……!?」


 普通ではあり得ない状況に、わたしは気付く。


(違うっ!! ここは日本じゃない。ここは異世界だ。今、この中にいるのは、ベロニカだっ!!)


 我に返ったわたしは、わざと強く唇を噛み、痛みで正気を保つ。


「早くっ! 助けなきゃ!!」 


 殺したくない、けれど、大切な人を守るためにやらなきゃいけない時がある。


「お祖父様の言っていたことは、こういうことだったんだ」


 頭をフル回転させる。飛んでる魔物を一撃で倒す方法。


「それなら、アレしかない!」



----ズッドォォォン



 その瞬間、雷鳴が轟いた。稲妻が走り、ワイバーンに落ちた。


 わたしは、雷魔法を使った。魔王にしか使えないと言われる魔法を。


 ワイバーンは、一瞬にして焼け焦げ、教会の屋根の上に落ちていった。その衝撃で、またも屋根が崩れる。

 

「ベロニカを、早く助けなきゃっ!!」


 出来るだけ見ないようにしていた乙女ゲームのワンシーン。ベロニカが聖女の力を目覚めさせるシーン。


 それは……燃え盛る炎の中で、ベロニカが大切な誰かを助けるために、聖女の力を目覚めさせる。


(でも、目覚めるタイミングは今じゃない。けれど……)


 まだ中にいる気がした。教会の中にベロニカの気配がするから。


 わたしは、教会の中へと飛び込んだ。水魔法で炎を消化しつつ、前に進んだ。


(まだ大丈夫。絶対に間に合う。間に合ってみせる!!)


 けれど、古びた教会は、燃えるのも早かった。


「もうっ、さすがにわたしだけじゃ限界だよっ」


 必死の水魔法も、燃え盛る炎を相手では、意味のないように思えた。けれど、必死で前に進んだ。


「ベロニカ!!」

「スーフェ?」


 ようやく見つけたベロニカは、礼拝堂の中にいた。


「どうして逃げてないの!? 早く逃げるよっ!!」

「屋根が落ちてきて、……」


(もしかして、本当に助けなきゃいけない、大切な人がいるの!?)


 ベロニカが、ふと視線を落とした。その視線の先には……


「虎縞!?」


 人じゃなかった。虎縞模様のあの布だった。虎縞を救うため、崩れた屋根の残骸をどかしていたらしい。


「ばか! そんなの、買えばいいじゃない!!」

「マリリンに貰った物だし、何より……スーフェがとても気に入っていたから!!」

「えっ!?」


 まさかの自分の名前が出てきたことに、わたしは驚いた。


「あたし、お友達なんていなかったから。ずっと貧乏だって馬鹿にされて、男の子は虫とか投げてきて、女の子からは、男好きって言われて」


 ぽろぽろと、ベロニカの瞳からは、涙が零れ落ちていた。


「だったら、逃げよう。わたしだって同い年の女の子の友達は、ベロニカが初めてだもの!! こんな布より、ベロニカの方が大切だよ!!」

「スーフェ……」


 逃げよう、と手を差し出したその時、燃え落ちた十字架が、わたしたちを目掛けて落下する。


「危ないっ!!」


 咄嗟にベロニカを突き飛ばしていた。


 魔法が使えることなんて忘れて、助けなきゃ、という本能だけで、わたしは動いていた。


「うぎゃあぁぁあっっ」


 そして、灼熱の十字架の下敷きになってしまった。足掻いても、十字架の重さで逃げることもできない。


 身体にも火が燃え移ろうとしていた。尋常じゃない熱さと痛さで、すでに意識が遠のいていた。目が霞んで、何も見えなくなってきた。


 死ぬ、そう思った。


「スーフェっ、今っ水を、水をっっ!!」


 ベロニカが水魔法を使って助けようとしてくれていることが何となく分かった。


 ちょろちょろっとしか出てこないし、ベロニカは泣いてるし、でも、


(ベロニカだけでも、早く、逃げて……)


 伝えたくても、声に出せない。


「もっと、もっと!! もっと、いっぱい出てよっ、水!!」

「スーフェッ!!」


 瞬間、わたしに大量の水がかかり、同時に教会全体が氷漬けになった。ほんの一瞬で、教会全体に広がり燃え盛っていた炎が氷と化した。


 十字架が風魔法で退かされ、十字架の下からわたしを助け出してくれた。


「スーフェ、しっかりして!!」

「おい、スーフェ、起きろ!! おいっ!!」


(ルベの、声? そう、だ、従魔契約……)


「ルベ、との……」


 わたしの意識は、そこで途絶えた。






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