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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第三章
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過去の記憶

 もうすでに、空は暗くなり始めていた。逢魔が時の悪戯か、突如として目の前に現れた魔物に、わたしの足は竦む。


「おいっ、チビ!!」

「……ルベっ!? ねえ、あれっ、ワイバーンだよね?」

「ああ、さっき外に出た時にはすでにこの辺を飛び回っていた。まだ悪さはしていないようだけどな。それに、他にも嫌な気配がする。俺はそっちに行く。チビは“もしも”の時には、ワイバーンと戦えるか?」

「え!? そんなの無理だよ!!」

「無理じゃない。やらなければ、このまま村が襲われるかもしれない。それでもいいのか?」


 ルベの言葉に思い悩む。できれば魔物とは戦いたくない。


「このワイバーンは、敵なの?」

「ああ、おそらく」


 ルベは、とても残念そうに呟いた。


 その表情を見て、やっぱり魔物を殺したくない、と思ってしまった。


「もう少しだけ様子を見てもいい? だって……」

「チビの好きにしろ。判断するのはお前だ。だが、覚悟は決めろよ」


 そう言うと、ルベは村の入り口の方へと走って行った。わたしはそのままワイバーンを警戒する。


「特に、何もしないみたい? ただ飛んでるだけ? それなら戦わなくてすむかも!」


 そう思っていた。何をするわけでもなく、ワイバーンはひたすら教会の上を旋回していたから。



----キィィィーン



「ッ、痛っ!? 何、この音?」


 突然、鼓膜を切り裂くような音が聞こえてきて、咄嗟に耳を塞ぐ。


 その瞬間、ワイバーンは豹変した。


----ドォーンッ


「きゃあっ!! 嘘っ、やっぱり敵なの? でも……」


 教会の屋根に、ワイバーンが体当たりし始めた。屋根がボロッと崩れ落ちる。


 ただでさえ古い教会だったから、その一撃ですでに被害は甚大だった。


 それなのに、わたしはまだ決意できないでいた。魔物を殺すという決意を。


 その間もワイバーンの攻撃は止まらない。次の瞬間には、



----ギャーッッ



という鳴き声とともに、火を噴いた。それは、真っ赤に燃える赤い色。


「……い、いやぁぁぁあぁぁ!!」


 瞬間、わたしは叫ぶ。一瞬にして、脳裏に何かが過ってしまったから。


 途端に、身体がガタガタと震えだして止まらなくなった。これ以上にないくらい、怯え震え、目の前は涙で滲んでいた。


「いや、だめ、助けて……」


 ワイバーンの攻撃は止まらない。教会に向かって再び火を噴く。そして、とうとう教会が燃え始めてしまった。


 一気に燃え上がる教会、赤い炎がわたしの目に飛び込んでくる。


 風に乗って飛んでくる火の粉が熱くても、わたしは何もできず、未だガタガタと震えていた。動きたくても、わたしの全てが正常に作動しない。


「わたしが、早く……」


 助けなきゃ……頭を抱え、力なくその場に座り込んでしまった。


「だめ、中に、いる、早く、助けなきゃ……」


 前世での記憶を、思い出してしまったから。無理矢理にでも、忘れようとしていた記憶を。


「お父さんとお母さんを、助けて!!」


 前世のわたしの両親は、わたしの目の前で、火事で亡くなってしまっていたのだから。


「だめ、ひとりにしないで、いや……」


 必死で抗おうと頭を振る。涙が止まらない。


 けれど、目の前で赤く燃え上がる炎を見て、フラッシュバックのように、それは脳裏に次々と浮かび上がってくる。


 地獄の業火のような、あの日の光景が。

 



 ******




「きちんとお行儀良くするのよ」

「分かってるって! お父さんもお母さんも私がいないからって、寂しがらないでね」

「それは無理だな、考えただけでもう寂しい……なんてな。明日また、楽しい話が聞けるのを待っているよ」

「うん! 期待しててね。じゃあ、行ってきます!」


 その日、近所の友達の家にお泊まりに行っていた。自分の家から目と鼻の先の、家族ぐるみで仲の良い友達の家へ。


 だから、全く不安なことなどなかった。それなのに、夜になって、どうしてか不安になった。初めてのお泊まりだったから、なのか……


 夜中にふと目を覚ますと、慌ただしい声と、けたたましいサイレンの音が耳に響く。


「火事だぁ!!」


 外からたくさんの人の叫ぶ声が聞こえる。その声がより一層わたしの不安を掻き立てた。


 ドクンドクンと脈を打つ……


「まさか……」


 嫌な予感がした。だから、外に飛び出してしまった。走って、走って、そして、見てしまった。


 赤く燃え盛る炎、必死に消化活動をしてくれる消防士、カメラを向ける野次馬。それのどこにも両親の姿は、なかった。


 目の前で、自分の家が燃えていた。一夜にして、全てが奪われた。


 赤く燃え盛る炎だけが、目に焼き付いて離れなかった。


 その時から、“火”が恐怖の象徴となった。それはもちろん今も……



 



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