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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第三章
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お泊まりセット

「それじゃあ、ベロニカはお泊まりセットを準備してきてね。その間に、ご飯の準備をしておくから!」

「分かったわ。楽しみにしてる!」


 結局、わたしは教会に泊まることにした。一人じゃ寂しいから、ベロニカも巻き添えにして。


 そのかわり、夕飯をご馳走する約束をした。夕飯の時間にしては少し早いけれど、お腹も空いているので、今からその準備に取り掛かるところだ。


「ふふ、やっぱりパーティーをするなら、ステンドグラスの綺麗な礼拝堂がいいよね! きっと神様も一緒に楽しんでくれるでしょ!」


 だって、チョロ神だもの。とわたしは思う。


 ベロニカからも、泊まるなら礼拝堂が一番安全だと聞いた。むしろ礼拝堂以外はやめたほうがいいらしい。


 神父さんもいなければ、お祈りに来る人も、今ではほとんどいないのだという。


 アイテム袋からテーブルセットを出して、オルティス侯爵家の料理人さんたちが作ってくれた料理を並べた。


 準備も整った頃、ベロニカがお泊まりセットを持ってやってきた。


「ベロニカ、こっちこっち〜!!」

「わあ、すごい! こんなにたくさんの料理、初めて見たわ。とっても美味しそう!!」


 ベロニカという、未来の聖女様を接待するために、わたしは本気を見せつけた。あわよくば、恩を売り、破滅エンドを回避するために。


(ベロニカと仲良くなっておいて損はないはずだもの! それに、一緒に王妃様のところまで来てもらわなきゃ!)


……という、わたしの思惑は、一瞬にして忘れることになる。


「べ、ベロニカ、それ……」


 ベロニカのお泊まりセットを見て、わたしは目を見開いて驚いた。そして思わず指をさす。


「それはっ!! 虎縞模様の布!?」


 それはまさしく、わたしが今、熱烈に探し求めているラ◯ちゃんになるための虎縞模様だった。


「布っていうか、毛布がわりのブランケットよ。夜はやっぱり冷えるから、教会に泊まる時はいつも愛用しているの。もちろん、これもマリリンさんから貰ったものよ」

「欲しい! 切実に欲しい!!」

「……うーん、これがなくなると寒いし、それにマリリンさんに貰った大切なものだから、ごめんなさい」

「そうだよね、マリリンから貰った大切なものなら仕方ない。大丈夫! また探してみるよ」


と言いつつも、わたしは盛大に肩を落とした。その姿は、今までにないほど、哀愁が漂っていたに違いない。


「よし! ご飯を食べよう。いただきます!」


 けれど、立ち直りも早かった。


「あら? ルベちゃんは、一緒にご飯を食べなくてもいいの?」

「ルベは教会が苦手なんだって。だから、外でふらふらしてると思うよ」


 仕方がないから、あとでミルクを持っていってあげるつもりだ。


「ルベちゃんが、というか猫ちゃんが言葉を話せるなんて初めて見たわ。あれも魔法なの?」

「ルベはきっと、特別な黒猫ちゃんなんだと思うの。それに、ベロニカも特別な聖女様なんだよ。たくさんの病気を治したりできるんだから!」

「もうっ、突然そんなことを言われても、全く実感が湧かないよ。それに、そんな凄い力があったら、あんなところで暮らしてないよ?」


 確かに、聖女の力があったら、あんな掘っ建て小屋で暮らす必要はない。だから余計に、できるだけ早く聖女の力を目覚めさせてあげたくなる。


「あの、ベロニカのご両親は?」

「いないわ。でもね、マリリンさんだけが、ずっとあたしのことを気にかけてくれていて、遠い親戚ってだけで、本当に良くしてくれてるの。だから、とても感謝してるわ」

「マリリンとってもいい人なんだね!! 尚更、聖魔法を使えるようになりたいね。きっとマリリンも喜んでくれるはずだよ。そうだ! 一緒にマリリンに会いに行こうよ。きっとびっくりするよ」


 もちろん、会ってびっくりするのはベロニカの方だとは思うけど。


「ねえ、魔法って、どうやったら使えるの?」


 ベロニカの素朴な疑問に少しだけ考える。


 赤ちゃんの頃から魔法を使っているわたしは、間違いなく自分は魔法が使えると信じて疑わなかった。そして、当たり前のように魔法が使えた。


「うーん、魔法が使えると認識して、自分の力を信じることと、あとはイメージ、かな?」

「イメージ?」


 こてりと首を傾げたベロニカは、魔法をどのように使うのかが、分からないらしい。


「風魔法なら、風が吹いているイメージを膨らませるの。そよ風のような優しい風とか、台風のような強い風とか。だから、聖魔法なら怪我を治すイメージをすればいいんじゃないのかな! 血を止めるとか、病原菌をなくすとか、病気を治したいって強く思うの! それに、ベロニカには間違いなく魔力は流れているから、自分の力を信じればきっとできるよ!!」


 聖属性魔法の魔力が流れていることは、もうすでにルベで実証済みだ。


「そっか〜、あたしにも魔法が使えるかもしれないんだ。試しに使ってみようかな。えっと、火魔法は……」


 あろうことか、火属性魔法を教会の中で使うと言い始めたベロニカを、わたしは必死で止める。


「だめだめ!! 火は絶対にだめ!!」

「あ、そうだよね。建物の中だものね。じゃあ、水?」

「確かに水魔法なら結果が分かりやすくていいと思うよ。水魔法は、川とか、水が流れるのを思い浮かべて、徐々に、手からその水が流れ出るのをイメージするの。ゆっくりとね」

「えっと、川をイメージして、ゆっくりと」


 おそるおそるコップに添えたベロニカの手から、ちょろちょろと水が注がれた。


「で、できた!? 嘘っ、信じられない!!」

「うん! 上手!! それでいいんだよ。教わったらすぐにできちゃうなんて、さすがヒロインだね!!」

「え? ヒロイン?」

「あ、えっと、よし、乾杯をしよう!! かんぱーい!!」


 無理矢理、秘技、話題転換の術を繰り出した。今までで一番下手だったけれど、何とか話題はそらされた。


 そして、わたしたちはお腹がいっぱいになるほどご飯を食べた。


 初めて会ったというのに、わたしたちはすぐに打ち解けた。やっぱり猫ちゃん好きに悪い人はいないのかもしれない。


「あー、お腹いっぱい!」

「あたしも、美味しすぎて食べ過ぎちゃった。スーフェ、ごちそうさまでした」

「ふふ、喜んでくれて嬉しい。そうだ! ルベにもミルクをあげてこなきゃ。ちょっと外に行ってくるね」

「じゃあ、あたしはここで眠れるように、準備してるね」

「ありがとう! お布団もそこに出しておいたからね」


 アイテム袋の中には、布団をちゃっかり二組用意しておいた。もちろん、わたしとカルの分のつもりで。


 そして、ルベを探しに教会の外へ出たわたしは、俄かに信じられない光景を目の当たりにする。


「あれ? ルベがいないな。どこに行ったんだろう? って、あれっ、何っ!?」


 わたしの頭上空高く、教会のちょうど真上に、不穏な空気を身に纏った、とても大きなワイバーンが飛んでいたのだから。






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