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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第三章
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旅の目的

 間抜けなわたしは気付かない。けれど、常識猫のルベはもちろん普通に気付く。


「なあ、チビ、コイツ……」

「ルベはちょっと大人しくしてて。今いいとこなんだから!」


 わたしは、じゃがいも料理で「わあ、すごい!」と言わせることに夢中になりすぎて、目の前にいる村人の正体に気付いたルベの言葉に、全く耳を貸そうとしない。


「ほらほら、とりあえず、騙されたと思って食べてみてよ」


 じゃがバターを村人に差し出した。村人というか、ベロニカに。


「美味しい! じゃがいもって食べられるのね」

「でしょ! 思わず『わあ、すごい!』って言いたくなるでしょ!!」


 わたしは、とうとう自分で言ってしまった。


「他にも、美味しいじゃがいも料理をいっぱい作ってあげるから、一晩家に泊めてよ!」


 突然「家に泊めて」と切り出した。かなり不審者なわたしは、泊まる宿を確保するために夢中でやっぱり気付いていない。


「……いいけど、あたしの家はここだから、お客様の泊まれるところなんてないよ?」


 もちろん、掘っ建て小屋を指差した。


「うーん、ここに泊まるのは確かに嫌だなぁ。だって、ボロいんだもん」


 明らかに難色を示したわたしに、やっぱりルベが嗜める。


「チビ、お前、初対面の相手に失礼だぞ。本当に悪役令嬢ってヤツになるつもりか?」

「えっ、悪役令嬢!? だめだめ!! それだけは絶対にだめ! えっと、失礼なこと言ってごめんなさい。でも、他に泊まれるところってないかな?」


 やっぱり、掘っ建て小屋にだけは泊まりたくない。


 悪役令嬢ってなに? 意味分からないんだけど? と首を傾げつつも、ベロニカは提案してくれた。


「それじゃあ、教会に泊まれば? あたしも雨の日には教会に泊まらせてもらったりするの」


 掘っ建て小屋は、雨の日になると雨漏りがするらしい。


「教会か〜、ボロかったけど、掘っ建て小屋よりはましかな。うん、そうしよう。親切にありがとう、村人さん! って、ベロニカじゃん!! うわぁ〜、悔しいけど、実物めっちゃ可愛い!!」


 わたしはようやく目の前の村人が、今回の旅の目的の人物だと気が付いた。


「え? あたしのことを知ってるの? あたしはあなたのこと知らないよ?」


 ベロニカはもちろん首を傾げる。


 よく分からないけれど、褒めてくれてありがとう、とわたしににっこりと笑いかける。その笑顔に既視感を覚える。


「さすが乙女ゲームのヒロイン! スチルどおりの笑顔、クオリティー高っ!!」


 途端に、蔑むようなルベの視線がわたしに突き刺さる。


「じゃなくて、えっと、マリリンに聞いたの。王都の冒険者ギルドのマリリンに」

「マリリン?」


 やっぱりベロニカは首を傾げる。


「あ、マリオさんに聞いたの!」


 その名前を出した瞬間、やっぱりわたしの脳裏には「赤いM」がチラついた。


「マリオさん、って誰?」

「え? マリオさんは遠い親戚って言ってたよ?」


(まさか、ここに来て人違い? けれど、ベロニカは間違いなくスチル通りだし、奇跡的な人違い?)


 まさか、そんなことがあり得るのか、とわたしはベロニカを凝視する。


「遠い親戚? 冒険者ギルド? それって、もしかして、赤いMの人!?」

「えっ!?」


 またまた、まさかの、ベロニカの口から「赤いMの人」発言に、わたしは一気に青褪める。


「ベロニカ、あなた、赤いMの人を知ってるの!?」


(まさか、ブロックを壊し、キノコやカメを踏むあのお方を知ってるってこと!? じゃあ、ベロニカも転生者!?)


 赤いMを知っている、即ち、日本の記憶がある。一気にわたしの心臓が飛び跳ねる。


(ヒロインで転生者って、わたしの断罪確定じゃない!! だって、そういう子って逆ハーを目指すんでしょ!?)


 乙女ゲームの世界にきた人は、だいたいみんなその乙女ゲームをプレイしているというセオリー。転生者のヒロインは、だいたい逆ハーレムルートを目指すというセオリー。


(詰んだ……)


 がっくりと、項垂れるわたしに、ベロニカは構わず話しかける。


「あのね、いつも赤い文字でMって書かれた手紙と一緒に、昔から私のことを援助してくれてる人がいるの。遠い親戚だから、冒険者ギルドで働いているから、としか教えてくれないんだけど……そっか、赤いMの人の知り合いの方なのね。それなら、あたしに協力できることがあるなら、どんどん言って!」


 赤いMは赤いMでも、あの赤いMでは無かったらしい。ということで、ベロニカも転生者ではなかった。


 ほっと胸を撫で下ろす。しかも、できることがあれば協力するとの言質付き。わたしは一気に上機嫌になった。


「本当に! えっと、わたしの名前はスーフェだよ。よろしくね」


 あくまでスーフェだ。絶対にスフェーンとは名乗らない。


「あたしはベロニカよ。でも、どうしてあたしのことを赤いMの人から聞いてたの?」

「赤いMの人じゃなくて、マリリンって呼んであげて。きっと喜ぶから」


 赤いMじゃ、やっぱりあっちの赤いMがチラついてしまう。


「マリリン? やっぱり女性の方なのね! お洋服も、とても可愛いお下がりをくれるの」


(まさか、オーバーオール? 今はサロペットっていうんだっけ? いや、可愛いって言ったら狸のスーツしかないっしょ!)


 ちょっとだけ、わくわくした。


 けれど、残念ながら、可愛くて清楚な白色のワンピースだった。






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