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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第三章
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3分以上クッキング

 わたしたちは絶体絶命の大ピンチを迎えている。


「大変!! 宿屋がない!!」


 せっかく村に着いたのに野宿は嫌だ。せっかくなら暖かいお布団で眠りたい。あわよくば、ルベと一緒に。


 大ピンチなのは、ルベだけだった。


 教会を後にしたわたしとルベは、村を回りながらも日が暮れてしまう前に宿屋を探した。


 小さい村だからすぐに見つかるだろうと思っていた。けれど、


「まさか、小さすぎて宿屋がないなんて……しかも、お腹もすいたよね」


 飲食店も全く見当たらなかった。とぼとぼと歩いていると、それは突然わたしの視界に飛び込んできた。


「いも!!」


 じゃがいもだ。お店に売っているものではない。畑の隅にごろっと転がっていたのを、わたしの食べ物サーチアイが捉えた。


「なんだい、お嬢ちゃんはこれを知っているのか? これは食えないぞ? 試しに作ってみたけれど、腹を壊したんだ」

「えーっ、嘘だぁ!!」

「嘘だと思うなら、お嬢ちゃん持っていくかい?」

「いいの!? ありがとう」


 わたしは思った。


(ラノベあるあるだね。ここで、ぱぱっとじゃがいも料理を作って、「わあ、すごい!」ってなるやつだね)


 決して「わあ、すごい!」をやるためではなく、普通にお腹が空いたので、じゃがいも料理を作ることにした。


 本当なら、アイテム袋から手軽に美味しい料理を出すこともできる。けれど、それではつまらない。


 せっかく旅に出たのだから、現地の美味しいものを食べたい。それこそが、旅の醍醐味というものだからだ。


 それなのに、常識猫のルベはわたしを嗜める。


「チビ、ここは道端だぞ?」


 わたしが道端で調理器具を取り出したからだ。


「だって、宿屋がないんだもの。とりあえず、美味しい料理を作って、それを餌に寄ってきた村人の家にでも泊めてもらおうと思うの。すぐそこは教会だし、きっと誰かが通ると思うんだよね」


 わたしは「わあ、すごい!」を利用することにした。お腹もすいたし一石二鳥作戦だ。


 ちなみに、さっきのじゃがいもをくれた人には「お客様を泊める部屋はない」と断られた。


「だからと言って、どうしてここでやる? ここは誰かの家の前だろ?」

「え? この掘っ建て小屋が家? 嘘だぁ、昭和じゃないんだから」


 昭和も何も、そもそもここは異世界だ。


「チビ、お前な、言っていいことと悪いことがあるぞ。金持ちの娘だからって、そんな最低なこと言ってるとみんなから嫌われるぞ」

「え、嘘!? だめだめ、それじゃあ悪役令嬢と同じじゃない。分かったよ。隣の空き地の前で作ることにするよ」


 道端でじゃがいも料理を作ることは諦めない。そんなわたしに常識猫のルベは心底呆れ顔だ。けれど、わたしは気にしない。


 わたしがイメージしているのは実演販売と屋台だ。実演することで人々の興味をそそり、良い香りの料理で人々を誘い出す。


 だから、人が寄ってくるためには道端でやらなければ意味がない。


「まずはじゃがいもを洗おうっと。あ! せっかくだから清浄魔法を使ってみようかな」


 泥だらけだったじゃがいもが、ピッカピカになった。


「わおっ! めちゃくちゃ綺麗になった。やっぱり清浄魔法は旅にかかせないね」


 じゃがいもを綺麗にするためだけに、神様から貰った特別な魔法を使うなんて、清浄魔法の無駄遣いかもしれない。


 けれど、食中毒になるような細菌も全て綺麗にしてくれる気がするから、わたしは無駄に使うつもりだ。


「では、スーフェの3分以上クッキング! アイテム袋から鍋を出します。鍋に水魔法で水をジャバッといれます。芽をとったじゃがいもを鍋の中に入れて、さらに火の魔石を入れます」


 火の魔石を水の中に入れると、水を沸騰させて茹でている状態にしてくれる。


 ちなみに、この火の魔石の効果がなくなっても、自分で火魔法を込めて再利用できる優れものだ。いわゆる充電式のようなもの。


「わざわざ魔石を使わなくたって、はじめから火魔法を使えばいいじゃんか」


 横で見ていたルベが文句を言う。


「火魔法だと、火の元に注意しなければならないから、鍋にずっとかかりきりになっちゃうじゃない。それは面倒だし、それにねえ……」


 そして、数分後。


「できた!! 仕上げに、コックス村の美味しいバターをのせまーす。バターがとろーりとろけて、はい、出来上がり!」


と同時に、見事に「わあ、すごい!」にちょうどいい村人が、わたしに話しかけてきた。


「さっきから、人の家の目の前で何してるの? しかもそれ、じゃがいもじゃない。バカじゃないの? お腹壊すよ?」


(ふふ、きたきた。じゃがいもの美味しさを知らない村人さんが)


 まんまとわたしの作戦に引っかかった村人に、わたしは、にまにまと笑う。


「あなた、じゃがバターも知らないの? とーっても美味しいんだから! せっかくだから食べてみてよ!」


 ラノベあるあるに夢中で、わたしはとても肝心なことが頭から抜け落ちていた。


 目の前にいる村人が、


『教会の近くに住んでいて、ピンクゴールドの髪色で、ぱっちりおめめが憎らしいほど可愛いくて、あり得ないくらい貧乏な家、というか、目の前の掘っ建て小屋に住む、同い年くらいの女の子』


だということに。


 それが誰か、ということに、間抜けなわたしは気付いていない。






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