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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第一章
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魔法嫌いの原因

 ロバーツ王国は、自称神様(かみさま)が言っていた通り、魔法の国だった。


自称神様(かみさま)は嘘をついていたわけじゃないんだね。疑ってごめんね」


 とりあえず、空に向かって叫んでみた。謝るべきことは、きちんと謝らなければいけないから。


 この世界の魔法は、少なくとも四大属性魔法と呼ばれる、火、土、風、水属性魔法がある。それらは生活に欠かせないありふれた魔法だ。


 そのありふれた魔法も、お父様のように魔力がゼロの者は使えないし、得意不得意によっては、全ての魔法が使えるわけではない。


 そんな時に活躍するのが“魔石”だ。


 魔力や魔法を予め魔石に込めて、魔法を使う代わりに魔石から水を出したり、風を出したりして使用することができる。


 魔法が使えれば必要のないものだけれど、水道の代わりに使われる水の魔石や、厨房で使われる火の魔石は便利だろうし、必要不可欠なものだと思う。


 ちなみにオルティス侯爵家では、お父様が魔石や魔導具に関係する仕事に就いているおかげで、最新の魔石や魔導具が手に入る。


 中には試作品もあり、知らぬうちに実験台になっていたりする。それだけは本当にやめて欲しい。


 そして、魔石に込められた魔法は永久的に使えるわけではなく、取り替えたり、魔法を充填しなければならない。


 オルティス侯爵家の魔石も、切れそうになった頃に充填しに来てくれる人がいる。


 今まさに、その人が来てくれている。



(もっと近くで見たいよ。でも、これ以上近付いたら気付かれちゃうよね。あぁ、こんなにこっそりと盗み見るんじゃなくて、堂々と目の前で見たいよ!!)


 わたしは、マーサと一緒に歩くその人を追いかけて、その人が魔法を魔石に充填する様子を、物影からこっそりと盗み見ている。


 どうして盗み見ているのかというと、ここに来ていることを知られたくないのだろう、とわたしが勝手に忖度したのも理由の一つだ。


(うわぁ! すごく力強い魔法! あれほどたくさんの魔石に充填して回っても、全く疲れてないなんて凄いなぁ!)


 その人の魔力が、とても力強く膨大だということは、子供のわたしにでもよく分かった。


 その人は身体も大きくて、何とも言えない迫力がある。例えるなら熊のような大男。でも、全く怖くはなかった。


 だって、いつもわたしのことをふわりと優しく撫でてから、屋敷を去っていくのだから。


(もうちょっと、もうちょっとの辛抱よ。わたし我慢よ!)


 わたしは撫でられている間も、その人の存在に気付いてないふりをしていた。話しかけてみたいと思いつつも、必死に我慢した。


 そして、最近ようやく分かったことがある。


 その人は、必ずお母様のいない時を見計らって、この屋敷にやってくるということ。


(きっと、お母様の魔法嫌いの原因はこの人なんだろうな)


 お母様が口走っていた、アイツという存在。


 少し悲しいけれど、そう思わずにはいられなかった。マーサとその人の会話を聞いてしまったから。


「今日も、お会いにならなくてもよろしいのですか?」

「ああ、フェリシアは、わしには会いたくないだろうからな。あの子はきっと、わしのことを恨んどる……」

「きちんと話せば、きっと分かり合えるはずですよ?」

「マーサ、世の中には知らない方が良いこともあるんじゃよ」


 こっそりと盗み聞きした会話には、二人の悲しそうな気持ちが痛いほど詰まっていた。


(分かり合えるのなら、どうにかできないのかな?)



 だから、その日の夕食の時、わたしは思い切ってお母様に尋ねてしまった。


「わたしに“お祖父様とお祖母様”はいらっしゃらないのですか?」

「だ、誰に聞いたのっ!?」


 わたしの言葉を聞くなり、血相を変えたお母様は、テーブルをダンッと叩きながら一気に立ち上がり叫んだ。


(お、お母様、こわい……)


 はっきり言って、震えるほど怖かった。


 いつもは侯爵夫人の鑑とも言える、余裕のある美しさを醸し出すお母様から、まさか得体の知れない殺気が渦巻くとは、思ってもみなかったから。


「誰に、ってわけではなくて、ふと思ったんです。今までお会いしたことがないから」


 きっと、わたしの目は涙目で、声も震えていたのだろう。わたしを見るなり、ハッとした表情を浮かべたお母様は、徐に視線を下げた。


「そう、それならいいわ。大きな声を出してしまってごめんなさい」


 冷静さを取り戻したのか、ゆっくりと椅子に座り直していた。空かさずお父様が優しくわたしに話しかけてくれた。


「私の父と母は遠くに住んでいるから、滅多に会えないんだよ」

「私のお母様は、スーフェちゃんが生まれる前に亡くなってしまったわ」


 お父様に続いて、お母様も自身の親について話してくれた。けれど……


(やっぱりお母様はお祖父様のお話はしてくれないんだね。魔石に魔法を充填しに来てくれるお祖父様のこと)


 わたしが盗み見ていた“その人”とは、わたしのお祖父様、お母様のお父様だ。


(わたしが聞きたいのは、お祖父様のことなのに)


「あの、お母様のおじい……」

「あんなやつ、いないのと同じよ!!」


 わたしの言葉を遮るように、お母様は再び声を荒げた。その瞬間、やはりお母様の地雷はお祖父様だと確信した。


(けれど、せっかく意を決して切り出したのに、今さら引き下がりたくないよ……)


 もう一度わたしが口を開きかけた時、お父様が「待った」をかけた。


「フェリシア、落ち着いて。スーフェもこの話は終わりにしよう」

「……はい、お父様。お母様、ごめんなさい」


 慌ててお父様が仲裁に入ったことにより、わたしは引き下がざるを得なかった。


 その場は丸く収まったけれど、お祖父様の話は禁句になってしまった。


 お母様の前では……






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