寂れた村の教会
「ペレス村に着いたぁ! 第一村人発見!!」
ようやくわたしたちは、目的地の村に着いた。
カルや精霊さんたちと別れを告げてから、傷心の中歩いてきた、わけではない。サクッと転移魔法で村までひとっ飛び。
ここはペレス村という、ど田舎の村だ。
名産品もなければ、観光名所もない。美味しい食べ物すら期待できないような村だと、親切な第一村人は教えてくれた。
「こんな辺鄙な村にわざわざ……」
「ちょっと、ルベ! 声が大きい。文句は小声で言って!!」
ルベが辺鄙な村と言った瞬間、村人たちの突き刺すような視線がわたしに向いた。
猫ちゃんが喋るわけなどないから、全ての視線がわたしに向く。
そそくさと逃げるように、目的の教会にまっしぐら。
(もうっ、観光したかったのに!!)
ペレス村はとても小さい村で、半日かからずに回れそうな村だった。
しかも、緑があまり見当たらなく、動物もいない。正直言って、寂れた村という表現がぴったりだった。
「本当にこの村でいいのかな? うーん?」
悩んでいても仕方がない。乙女ゲームでのベロニカの故郷について、全く思い出せないのだから。
小さい村なので、教会もすぐに見つかった。
「あったー! きっとこの教会で間違いないはず! この調子でベロニカにも会えるといいな」
わたしはポジティブに考えることにした。
小さい村だから、一軒一軒お宅訪問をしたとしても、一日もあれば全ての家を回り切れるだろうし、誰かに聞けば、簡単に見つかりそうだと思ったから。
「きったねぇ、教会だな」
「本当、古くてぼろぼろで、今にも壊れそうだね」
とても歴史の重みを感じる教会なのに、わたしたちは文句を言う。今は誰も周りにいないから言いたい放題だ。
「で、どうしてこの教会?」
「前にも話したことのある乙女ゲームのヒロインが、多分この教会で聖女の力を目覚めさせるはずなの。それが、マリリンの遠い親戚だというベロニカって女の子のことだよ」
「聖女……」
ルベがぽつりと呟いた。すかさずわたしはルベを揶揄う。
「あれれ? もしかしてルベってば、聖女様のことが好きなの? にゃ王なのに?」
「にゃわけないだろ!! 近寄りたくもない。てか、この教会にも俺は絶対に入らないぞ」
さりげなく「にゃわけない」と言ってしまっているルベが可愛すぎてつらい。
これを揶揄うと、二度と言ってくれなくなるだろうから、本当は「にゃんで?」と答えたいところをぐっと我慢して、わたしは普通に尋ねる。
「どうして?」
「俺、というか闇属性を主としている魔族は、聖属性と光属性は命をも脅かす危険な存在なんだよ。俺はこの姿になったおかげか、それなりに大丈夫にはなったけれど。でも嫌悪感は拭えない」
「そう言えば、神様も聖魔法や光魔法で魂を浄化がどうとか言ってたね。そうすると、治癒魔法とかはどうしてるの?」
「闇属性の中にも治癒魔法ってのがあるんだよ。ただ、それこそ使えるやつが限られている。俺もそれはできない」
「にゃるほど〜、できる人がいたら、即盗み見るしかないね!」
ルベのためにも、それだけはやってあげたいと思った。そして、さりげなく「にゃるほど」と言ったのに、ルベに普通にスルーされた。
「じゃあ、わたしだけ中に入ってちょっと見てくるね」
ルベを置いて、わたしは教会の中へと入っていった。そろりそろり。
「うっわ、今にも崩れそう……」
相変わらずの罰当たりな発言だ。けれど、実際問題、時間の問題だと思う。それに、神父様の姿さえ見えない。
本当に中に入っていいものなのか、少しだけ不安になってしまう。だから、そろりそろり。
「ステンドグラスはとっても綺麗! カルとの結婚式はやっぱり教会かな〜。でも、もっと綺麗なところがいいな」
礼拝堂のステンドグラスからは、光が差し込み、掲げられた十字架の影を幻想的に彩っていた。
わたしはお祈りを捧げる。
「どうか、カルと幸せな結婚ができますように。子供にも恵まれて、できれば男の子と女の子がいいなあ。それで、みんなでルベをもふもふして過ごしたいです」
教会の外で身震いをする黒猫ちゃんには気付かずに、むふふ、と妄想を膨らませてしまう。そして、重要なことを思い出す。
「あ! それと、ベロニカの聖女の力が目覚めて、王妃様の不治の病が治りますように。もしも聖女の力で不治の病が治らなかったら、猛抗議しに行くからね!!」
神様に祈った。神様というか、チョロ神に。
結局、教会の中では村人の誰とも会わなかったので、わたしは外に出た。
「ルベ、教会の中には誰もいなかったよ」
「外も誰も来なかったぞ。どうする?」
「うーん、仕方がない。今日は村の情勢を探ることにしよう!」
村の情勢を探ると言えば聞こえはいいけれど、結局は観光がしたいだけだったりする。