精霊の加護
「チッ、やっぱりか」
ルベは自分だけ納得したようで、その言葉には憤りを滲ませていた。
「え? どう言うこと? 全然分からないよ。分かるように説明してよ」
「その魔術師が、どうしてか魔物だけに留まらず、魔族も召喚してるんだ。魔族を召喚するためには、それなりの魔力と、生け贄が必要になるはずなのに」
「生け贄!?」
「ああ。……やっぱり人間界を征服するつもりなのかよ、バカなヤツだ」
憤りを通り越したのか、今度は落胆の色を隠せていない。今までにないルベの姿に、わたしは心配になってしまう。
「ルベ?」
「いや、こっちの話だ。で、どうする? この親は燃やすか?」
ルベがママグリフォンをその可愛い前足で指して、今度は物騒なことを言い出した。
『きゅうっ!?』
だめだめだめ、とグリフォンちゃんが頭を振る。
「きちんと埋葬してあげたいけど、さすがに大きすぎて運べないよね……」
グリフォンちゃんの気持ちを読み取ったのか、丁重に弔ってあげたいと、カルが言う。
けれど、大きさが大きさだ。風魔法で運ぶにしても、目立ちすぎる。
だからと言って、勝手にここに埋めるのもどうかと思う。森の中で燃やすなんて論外だ。
放っておいたら放っておいたで、今度は魔物や動物たちが寄ってきてしまうのだという。
わたしは考えた。というか、考えるまでもなく普通に思いついた。
「簡単に運べるよ!」
「え?」
わたしのあっけらかんとした言葉に、カルが驚く。
「あ! そうか、カルにはきちんと説明してなかったね」
タラララッタラー♫ と、わたしはアイテム袋からアイテム袋を取り出した。
「このアイテム袋は特別製で、無限収納で時間停止機能付きなんだ。しかもこの通り、同じ袋が二袋あって、中の空間が繋がってるんだよ。ふふ、実はね、これでカルと交換日記をしようと思ってたんだ。旅に出て、遠く離れて会えない間も繋がっていられるなんて素敵でしょ!」
はい、どうぞ。とわたしはカルにアイテム袋を渡した。もちろんアイテム袋の中には、すでにノートとペンも用意してある。
アイテム袋の中に入っている下着などは見られたら恥ずかしいけれど、カルはわたしの嫌がるようなことはしない。
それに、隠さなければいけないこともないから、安心して渡すことができる。
「ありがとう? でも、また話がズレてる気がするんだけど?」
「あ、そうそう、ママグリフォンもこのアイテム袋の中に入ってもらって、家まで運べばいいよ」
「えっ!? そんなことができるの?」
「うん。生きてる魔物はこの中に入れたことはないけれど、死んでいる魔物は大丈夫だったよ。そうだ! 埋葬する場所も、オルティス侯爵家の本邸の敷地を使ってよ! 今、お父様に手紙を書くね」
だって、カルは将来一緒に住むんだから、とわたしは思っている。
それに、埋葬する際にアイテム袋を見られても、お父様とお母様にならスルーしてもらえるだろうから。
ちなみに、以前ルベに「アイテム袋の中に入ってみて」と提案したら、思いっきり拒否された。
「どうする? カルは今から埋葬しに行く? グリフォンちゃんもその方が安心するでしょ?」
「でも……」
カルは葛藤していた。
「ふふ、わたしの心配をしてくれてるんだね。大丈夫だよ。ルベもいてくれるし。じゃあ、今日から交換日記を始めよう! 旅での出来事はカルにいっぱい報告するね!」
「ありがとう。じゃあ、せめて僕の代わりに精霊たちにスーフェのことをお願いするね」
「精霊さん?」
「精霊の加護をスーフェに授ける儀式をするよ」
「カルはそんなこともできるの?」
正直言って、転生特典で精霊の加護も欲しかった。きっと、神様がその意を汲んでくれたのだろう。
(神様、ありがとう!!)
「うん。いつかはスーフェに加護を授けようと思ってたんだ。ちょうど良さそうな木がそこに立ってるから、木の精霊の力も借りよう。スーフェ、その木の下に座ってもらってもいい?」
思い立ったら即行動。カルはわたしに精霊の加護を授け始めた。
カルがわたしの頭の上に優しく手をかざしたその瞬間、わたしたちの周囲一帯に、綺麗な虹色の光がきらきらと輝き始めた。
木がさわさわと風に揺らいで、その度に光が降り注ぐ。虹色の光がシャボン玉のようにふわりふわりと漂い、とても神秘的な光景だった。
(とってもロマンチック。デートの締めに最高のシチュエーションだね)
どんな美しい夜景よりも、今この瞬間の方がきっと綺麗だわ、とわたしは冒険の旅という名のデートを最後の最後まで満喫していた。
「はい、終わり!」
「ありがとう、カル」
「じゃあ、僕は行くね。本当にここまでしか一緒に旅をすることができなくてごめんね。でも、とっても楽しかったよ。何かあったらすぐに駆けつけるから、精霊たちに伝えてね」
「うん。わたしもとーっても楽しかった! またデートしようね!」
ここは「旅をしようね」が正解のはずなのに、やっぱりわたしは浮かれきっている。もはや誰も突っ込むことさえしなかった。