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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第三章
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魔物は敵か?

「え、死んでる?」


 目の前で息絶えて死んでいるグリフォンを見て、わたしは思わず息を呑んだ。そして、無性に悲しくなった。


「どうして死んじゃったんだろうね……」


 身体中が傷だらけで、至るところから血が流れ出ていた。きっと危険な魔物として討伐されたのだろう。


 もちろん、これほど大きなグリフォンに襲われたら、と考えると死ぬほど怖い。


 討伐対象となってしまうのは仕方のないことかもしれない。


(けれど、ルベはさっき言ってたもの。普段は大人しくてお利口さんだって。襲うのは敵と認めたらだって。やっぱりむやみに命を奪うのは、絶対に嫌だよ)


 すると、カルがグリフォンに向かって手を合わせたことに気付き、わたしもそれに並んで手を合わせる。


「「!?」」


 その時、グリフォンが僅かに動いた。


「生きてる!?」


 咄嗟に、横にいたカルがわたしを庇うように前に立ってくれる。


 こんな時なのに、わたしの胸がきゅんときめいてしまう。


 さらにその前、カルの足もとにはルベが立つ。


 微かに見える尻尾が、勇敢な黒猫ちゃんの勇姿を物語る。


「チビ、ガキ、後ろに下がってろ。その下にもう一匹いる」

「「え?」」


 ルベの言葉に、わたしたちは思わず聞き返してしまう。


「どういうこと?」

「グリフォンの下にいる。どうする? 殺すか? それとも助けるか?」


 わたしの気持ちはもちろん決まっている。けれど、先に答えたのはカルだった。


「助けたい。ルベさん、僕は助けたい。助けられる?」

「カル?」

「スーフェごめんね。生きているなら助けてあげたいんだ。僕はどうしても魔物たちが全て悪いとは思えなくて。でも、もし助けたことで、誰かが傷ついたら……」


 カルの言葉にわたしはにこりと笑った。


「わたしも助けたいと思ったんだ。“もし”があった時は、その時はその時で考えよう」


 わたしは嬉しかった。


 魔物を助けたいと言ってくれたカルの考えは、きっと自分と一緒なんだろうな、と思ったから。


「やっぱり、カルはわたしの運命の相手だね」


 わたしの人生は、ルベありきの人生だ。だからこそ、考え方が“普通”ではないと自覚している。


 わたしはルベと一緒にいることで、魔物は敵ではない、という考えを持ち始めていた。


 漠然と、魔界の魔族と魔物は、人間界でいう人間と動物なのではないか、と。


 けれど、それは普通の人間の考えではないのだろうな、とも思っていた。


 この世界では、従魔などの特殊な場合を除き、魔物を討伐するのは当たり前だという考えが殆どだから。


 だからこそ、すぐに「助けたい」と言うことができなかった。けれど、カルは言ってくれた。


 神様に、少しだけ感謝した。チョロ神は調子に乗りそうだから、本当に少しだけ。


「もしも、襲いかかってくるようだったら、俺は殺すからな。それだけは了承しとけ」

「うん。分かったよ。ありがとう、ルベさん」


 わたしはルベを見た。


(ルベは、魔王として魔族や魔物を統べていたのだから、わたし以上に魔物を身近に感じているはずなのに、大丈夫なのかな?)


「ルベは、魔物を殺すことに抵抗はないの?」

「抵抗というか、正当な理由なく襲ってくるヤツは、それ相応の覚悟を持っているべきだと考えているからな」


 目を合わせずに告げるその言葉は、少しだけ悲しそうな気がした。


(ルベも本当は殺したくはないよね。わたしとカルの安全が最優先だからなんだろうな)


「少し離れてろ」


 わたしとカルは、グリフォンから距離をとった。しかも、突然襲い掛かられた時のために、カルがわたしの盾となってくれる。


 そして、ルベが一気に風魔法で大きいグリフォンを持ち上げた。すると、


『きゅうっ』


 その下から現れたのは、とっても可愛らしい声で鳴き、ヨタヨタと歩く小さいグリフォン。


「可愛い、可愛すぎる!」


 愛らしいおめめをぱちくりと瞬かせ、わたしたちを見つめてくる。


(可愛すぎて、キュン死にしそう)


 ある意味、最強の攻撃がわたしたちに襲いかかった。


 そのままヨタヨタと歩き、ルベをスルーしてカルにすり寄ってきた。


 それを見たわたしは、すでに戦意を喪失していた。思わずグリフォンちゃんの頭に手が伸びる。


「ママグリフォンが死んじゃって、グリフォンちゃんも悲しいんだね」


 いい子いい子と撫でながら、わたしはグリフォンちゃんに声を掛けた。


『きゅう……』


 しょんぼりとするグリフォンちゃん。


「わたしの言葉が通じるんだね。本当にお利口さんなんだね」

「もし一人で淋しいなら、キミは僕と一緒に来る?」

『きゅう!』


 カルの言葉に、嬉しそうに声をあげる。そしてさらに、カルに擦り寄る。


「もしかして、カルもこのグリフォンちゃんの言葉が分かるの?」

「うん。何となく」


 ちなみにわたしも分かる。言語理解のスキルがあるからだ。


「お前ら、一体何があったんだ?」


 ルベが、グリフォンちゃんに尋ねた。元魔王のルベも、言葉が分かるらしい。


『ママと遊んでたら、いきなりこの世界に来てたの。変な光と一緒に』

「召喚されたのか?」

『分からない。ママはボクを守るために戦って、でもすごく強くて、何とかここまで逃げてきたの。でも、……死んじゃったの』


 その言葉に、ルベは何かを悟ったかのように、大きくため息を吐いた。


「魔術師か……」

「え?」

「魔物を召喚できるヤツっていうと、人間界では魔術師と呼ばれるヤツらだけだ」

「でもそれって、お祖父様に呪いをかけた……」

「同じなんじゃないか? ここはその公爵家の敷地だしな。お前たちの他にも魔物はいたか?」

『魔物もいたけど……』


 グリフォンちゃんの言葉に、ルベの眉間に皺が寄る。


「魔族もいたのか?」

『うん。その人たちがママを……』


 グリフォンちゃんは、小刻みに震えながら頷いた。





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