精霊ネットワーク
わたしとカルのデート……もとい、冒険の旅は順調に進んでいる。
今まであまり会えなかった時間を埋めるかのように、たくさんの話をしながらも、サクサクッと歩いてペレス村に向かった。
そして今は、件のゲルガー公爵領の西部に位置する森の中を歩いている。
「ふふ、ピクニックみたいで楽しいね!」
「うん、スーフェと四六時中一緒にいられるなんて、夢のようだよ」
全く緊張感の欠片もなかった。
わたしはただ純粋に、カルとのデート気分を味わっていた。運が良いことに、出発してから今まで、一度も魔物に出くわしていないから余計にだ。
(魔物に出会わないなんて、やっぱり冒険ファンタジーの世界じゃなくて、乙女ゲームの世界が主体なんだろうな)
そう思ってしまい、自らフラグを立てようと口にする。
「魔物が全然出てこないおかげで旅が順調だね」
「それはきっと、ルベさんと精霊たちのおかげだよ」
「ルベと精霊さん?」
わたしたちの冒険の旅という名のデートの邪魔をしないように、と気を利かせたルベは、姿を消して遠くからずっと見守ってくれている。
「精霊たちが追い払える魔物は、追い払ってくれているんだ。そして、精霊たちでも難しいような魔物は、ルベさんが追い払ってくれてるんだよ!」
「そうだったんだ! 感謝しなくちゃね」
(魔物が出てきやすくするためのフラグなんていらなかったね)
乙女ゲームの世界だからではなく、にゃ王と精霊さんたちのおかげだと知り、二倍嬉しくなった。
おかげで、引き続きカルとのデートを心から楽しめる。
「精霊さんって、他にはどんなことができるの?」
「精霊たちの個々の力を、人間に使わせてあげることができるんだよ。あとは、精霊たちの中には国境を超えたネットワークがあるみたい。だから、言葉さえ交わせれば、精霊たちに頼んで情報収集もできるよ」
「精霊さんたちって、グローバルなんだね」
可愛いだけではない精霊さんたちに、わたしは感心した。
「カルは精霊さんたちとお話しができるんだよね?」
「うん。スーフェも、きっとできるはずだよ?」
わたしは言語理解のスキルを持っている。間違いなく会話ができるはず。だから試しに呼びかけてみた。
「精霊さん!」
「……」
「返事してくれないね?」
わたしはがっくりと肩を落とす。
(もしかして、悪役令嬢という設定のせい!?)
そう思ってしまい、チョロ神に怒りの矛先が向こうとしていたところで、優しいカルがフォローをしてくれる。
「きっと、精霊たちは照れてるんだよ。少しずつ話しかけていこう」
「うん!」
照れているわけではないことに気付くのは、この後すぐのこと。
「もしもスーフェが、危険な目に遭いそうになったり、困った時には、近くには必ず精霊たちがいるだろうから、声をかけてみてね。どれだけ遠くを旅していても、すぐに駆けつけるから!」
「本当! 嬉しいなあ」
「もちろん浮気をしたら、すぐにバレるからね」
「もうっ、わたしが浮気をするわけないじゃない!!」
「……」
どうしてか、カルが黙ってしまった。
「!?」
そんな時、ルベが突然わたしたちの前に姿を現した。
「どうしたの? ルベ?」
「魔物の気配がする。グリフォンだろうけど、どうしてか、すごく弱い」
「グリフォン?」
マリリンが、グリフォンの目撃情報があったと言っていたことを思い出し、わたしはわざとらしく、カルの手と繋いでいる手にぎゅっと力を込めた。
半分は未知の魔物がいることが本当に怖い。もう半分は、可愛さをアピールしようというあざとさだ。
そんなわたしに、じとりとした視線を向けながら、ルベは言葉を続ける。
「ああ、ヤツらは、とても利口で普段は大人しい。けれど、敵と認めると襲いかかってくる。精霊たちじゃ、手に負えないだろう?」
ルベは、確認するようにカルを見た。
「うん、ごめん、スーフェを怖がらせたくなくて言わなかったんだけど、ルベさんの言ってる通りだよ。けれど精霊たちは大丈夫って言ってるんだ。むしろ、そっちに行って欲しいみたいで。でも、一応、迂回する?」
「どうする? チビが決めろ」
「どうするも何も、行くしかないよ。精霊さんの頼みなら、なおさらだよ! それに、いざとなったら頑張るから大丈夫!」
もちろん、ルベが頑張る、という意味だ。そして、そのまま真っ直ぐ突き進む。
「あそこにいるのがそうだな」
「えっ、どこ? ルベはどうしてそんなに余裕なの?」
もちろん、にゃ王だからに決まっているのだろうけど。
ルベの可愛い前足が指し示す方に目を凝らすと、グリフォンがいた。
大の大人3、4人が余裕で乗れるんじゃないかというほど、とっても大きなグリフォンが。
「俺たちがたどり着く前に、死んでしまったみたいだな」
息絶えて死んでいた。