表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第三章
53/125

いざ、冒険の旅へ!

「スーフェちゃん、気をつけて行ってくるのよ」

「カルセドニーくん、スーフェのことをよろしく頼むね」

「はい!」

「ルベくんも、どうか二人のことを守ってあげてね」


 ルベは尻尾を一振りして、お父様の言葉に返事をしていた。


「では、行ってきます!」


 わたしたちは、とうとう冒険の旅へと出発した。


 昨日はカルと一つ屋根の下。緊張して眠れない、ということは、もちろんなかった。だから、朝から無駄に元気いっぱいだ。


「いざ、冒険の旅へ! レッツゴー! さっそくベロニカのいるペレス村を目指そう!」

「ペレス村って、ゲルガー公爵領よりももっと北の方だよね?」


 ペレス村は、王都の北方に東西に大きく広がるゲルガー公爵領のさらに北に位置するとても田舎の村だという。


「うん、そうみたい。けれど、お父様がゲルガー公爵領は堂々と通らないようにしなさいって」



 ******



 マリリンに言われた通り、わたしは夜寝る前に、こっそりとお父様に尋ねた。


「お父様、ペレス村に行きたいのですが、問題があるって聞きました。何が問題なのでしょうか?」

「ああ、きっとゲルガー公爵家のことだろうね。お義父さんに呪いをかけたのが、そこの家の者なんだ」

「確かに、大問題ですね」


 想像以上の大問題だった。魔物よりもタチが悪いと思う。


「あら? でも、あのばか息子はあの頃から姿を見せていないじゃない。今も行方不明なんでしょ?」


 ちょうど近くを通りかかったお母様が言うには、お祖父様が呪いをかけられてからすぐに、公爵家のばか息子からの熱烈なアプローチが、ぱたりとなくなったそうだ。


「ああ、そうみたいだね。でも、もしかしたら、スーフェが数年前に図書室で会ったという人も、その関係者かもしれないよ。スーフェにまた危害を加えようとするかもしれないから、気を付けるに越したことはないよ。だから、冒険者ギルドの方には、それとなく情報をもらえるようにお願いしていたんだ」

「そうなんですね。だから、マリリンはお父様に聞けって言っていたんですね」

「マリリンって、ああ、受付のマリオくんのことだね。可愛いあだ名だね。私もこれからそう呼ばせてもらおうかな」

「お父様がマリリンって呼んだら、きっとマリリンはびっくりするほど喜びますよ!」


 それ以前に、マリリンに会ったら、きっとお父様もびっくりするだろう。


「そうか、ペレス村に行くなら、ゲルガー公爵領内を通らないと、とても遠回りになっちゃうね。リオナ王妃のためなら、早い方がいいし。まあ、できるだけ屋敷を避ければ大丈夫かな? スーフェ、魔石をたくさん用意したから、持っていきなさい」


 吸収の魔石と光の魔石、そのほかにもたくさんの魔石をお父様は用意してくれていた。


 魔導士時代のお母様の同僚たちの協力も得て、たくさんの種類を用意したらしい。


「こんなにたくさんの魔石を、本当にいいんですか?」

 

 そう言いながらも、すでに手は動いている。もちろん全てアイテム袋に詰め込んだ。


「ああ、ちなみに、空の魔石もたくさん用意しておいたんだ。万が一、とても珍しい魔法が使える人に会ったら、空の魔石に魔法を込めてもらってきて欲しいんだ」

「まさか、お父様……」

「いや〜、楽しみだな。スーフェのおかげで私の研究も捗りそうだよ」


 お父様がわたしが旅に出ることを、最も容易く許した理由はこれだったのでは? と思ってしまった瞬間だった。


「せめて、歩合制でお願いします」

「はは、さすがスーフェ、ちゃっかりしてるな」




 ******




「ということで、お父様からたくさんの魔石をいただいたの。お金に困った時は、売ってもいいって!」


 旅の資金は重要だ。


 その代わり、絶対に秘匿にすることを条件に、わたしはお祖父様も使える契約魔法と、知られても一番差し支えなさそうな清浄魔法を、魔石にこめてきた。もちろんお父様は大喜びだ。


「スーフェ、話がずれてるよ?」

「あ、そうそう、それにルベも同じことを言うの」

「ルベさん?」


 カルが足元を優雅に歩くルベを見た。


 正直言って、今のわたしたちは側から見ると、全く冒険の旅をしている雰囲気ではない。ほのぼのとした、ただの猫ちゃんの散歩だ。


「ああ、ゲルガー公爵領は、ちょっと嫌な魔力を感じるからな。できれば俺の魔力も向こうに知られたくない。だから、可能な限り魔法は使わないからな。チビも隠蔽を使っておけ。チビには俺の魔力が流れてるから」

「うん、分かった。自衛って大切だからね」


 わたしは素直に頷いた。


「それなら大回りになるけど迂回していこうか」

「ううん。森の中を突っ切るよ」

「はぁ?」


 今までの会話は一体何だったのか、と理解に苦しむカルは、しばしの間固まっていた。


「あのさ、一応聞くけれど、危ないかもしれないって分かってて、森の中を突っ切るの?」

「うん。ゲルガー公爵家の本邸自体は東の方にあるみたい。だから、西の森の中を見つからないように行けばいいと思うの」

「森の中を通っても、どこを通っても、きっと大差はねえよ」

「ルベもこう言ってるし、だったら、最短ルートで森の中を突っ切ろうよ! 急がば突き進め!」


 昨日お父様に聞いたら、ペレス村までの最短ルートは、森の中を突っ切るという、道無き道を通るルートらしい。


 もちろん、急がば回れ、が正しいことは重々承知の上。けれど、やっぱり早く王妃様を救いたい。


「うん。最短だからって、どうしてそこで森の中を突っ切る選択を選ぶのか、はっきり言って意味が分からないよ。……けれど、精霊たちも少し森の中が気になるらしいからいいよ。そのかわり、スーフェは僕のそばから、絶対に離れちゃだめだからね」


 そう言いながら、カルはさりげなくわたしと手を繋ぐ。


(わわわ、カルったら、こんな明るいうちから大胆なんだから!!)


 もちろん嬉しいに決まっているわたしは、ぎゅっと握り返す。カルをちらりと窺えば、少しだけ照れ臭そうに笑ってくれる。


 そんなわたしたちに呆れたルベは、どこかへ姿を眩ませた。


(二人きりにしてくれるなんて、ルベったら、グッジョブだよ! 後でご褒美のミルク増し増しだね!)






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ