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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第三章
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誕生日のサプライズ

 すっかり本題を忘れていたわたしは、どうやって切り出そうか考える。


 王妃様の不治の病のことは極秘扱いなので、マリリンにも話せない。


 加えて、乙女ゲームのことも絶対に話すことなんてできない。


(少しだけ曖昧に話すしかないよね)


「事件というか、人探し! そうそう、マリリンはさ、ベロニカって女の子のこと知ってる? 教会の近くに住んでるはずなんだよね?」


 と思いつつも、結局は直球だった。まどろっこしいのは苦手なんだもの。


「ベロニカ?」

「うん。わたしと同い年で、ピンクっぽい髪の色をしてて、ふんわり可愛い感じの女の子。たぶんそんなに裕福な家の子ではないと思う。若しくは聖女様」


 ベロニカは、聖女の力を認められて特待生で魔法学園に入る。そこで悪役令嬢のスフェーンに、貧乏だと、散々罵られていたはずだ。


「まあ、随分と具体的ね。でも、ベロニカって名前の12歳の女の子で、教会の近くに住んでいて、ピンクゴールドの髪色で、ぱっちりおめめが憎らしいほど可愛いくて、あり得ないくらい貧乏な家の女の子なら知ってるわ。けれど、聖女様は残念ながら知らないわね」

「えっ、ベロニカのことを知ってるの!?」


 わたしは驚いた。しかも、噂で知っている程度ではなく、ガチで知っているということに。


「ええ、ペレス村ってとっても田舎の村に住んでいるアタシの遠い親戚の女の子よ。ずっと会いに行きたいとは思っていたのだけれど、なかなか踏み出せなくてね」

「親戚……」


(やっぱりマリリンは、乙女ゲームに出てくるんだろうな。何役だろう? こんなにキャラが濃ければ思い出せるはずなのに……ああ、無理!!)


 きっと、ちょい役なんだろうな、とわたしは自己完結した。でも知りたい。


「びっくりするくらい貧乏だから、驚かないであげてね。とっても良い子なのよ」

「うん! もちろん貧乏だなんて絶対に罵ったりしないよ」


 乙女ゲームのスフェーンとは、絶対に同じセリフは言いたくない。


「うふふ、きっとスーフェとなら良いお友達になれるはずよ」


 さすがに素直に頷けなかった。だって関わりたくないのが本音だから。


(もし仲良くなれたら、それはそれでいいのかもしれないよね)


 そうすれば、わたしのことを断罪する気もなくなるだろうから。


「マリリンありがとう。じゃあ、今からベロニカに会ってくるよ!」

「あ、ちょっと待って。ペレス村に行くまでに少しだけ問題があるのよ。だから、一度スタン様に相談した方がいいと思うわ」

「問題?」


 いつになく深刻そうな表情のマリリンを見て、わたしは動きを止める。


「ええ、それに、ここ数年の話だけれど、ペレス村に行く途中の道で、魔物が多く出るって報告があがってるの」

「魔物? マリリン詳しく教えろ」


 マリリンの言葉に、耳をピクリと反応させたのは、元魔王のルベだ。


 魔族と魔物を統べていた身としては、人間界にいる魔物についても、やはり気になるらしい。


「あら〜、ルベちゃんったら、もしかしてアタシのことを誘ってるの? そうねえ、それじゃあ、これからベッドの上でゆっくりと」


 マリリンの投げキッスが炸裂した。それを見事に躱すルベ。


「ま! ルベったら、ふしだらなんだから!!」

「違うっ!!」

「うふふ、照れちゃって、可愛いんだから。そうね〜、強い魔物の目撃報告だと、グリフォンとワイバーンね」

「グリフォンにワイバーンか。それならまだマシか」

「全然マシじゃないよっ、絶対に会いたくないし!!」

「何言ってるの? さっきのスーフェなら大丈夫よ。けれど、無理はしないのが一番ね。それに、魔物以上に厄介な案件だから」

「魔物以上に厄介? どういうこと?」


 わたしが聞き返しても、マリリンは困ったように微笑んだ。


「アタシが言えるのはここまで。これ以上はさすがに教えられないの。ごめんなさいね。だから絶対にスタン様に相談しなさい」

「うん、分かった。一度お家に帰るよ。ありがとう、マリリン。また後で、ゆっくりお話ししようね!」


 旅に出る前に、わたしは家に帰ることを決めた。


 だって、今日はわたしの誕生日。やっぱり大好きな家族と過ごしたいから。


 家に帰ると案の定、豪華な食事がわたしを待っていた。それと……


「カル!!」

「スーフェ、お誕生日おめでとう」


 愛しの婚約者様のカルが待っていてくれた。ずっとお父様やお母様たちとサプライズを考えてくれていたみたい。


(嬉しすぎて泣ける。本当に幸せだよ)


「ありがとう。わざわざ来てくれたの?」

「もちろん! 今日はスーフェの誕生日だもの。スーフェに会いに来るに決まってるでしょ! それにギルド試験も合格おめでとう」

「えぇっ、もう知ってるの!? 驚かそうと思ったのにな。えへへ、でも、ありがとう。これで一緒に旅に出られるね。ということで、明日から出発できる?」

「ずいぶん急だね? でも、もちろん準備してきたよ!」


 もうすでに、旅支度を持って来てくれたみたい。今日は、オルティス侯爵家別邸に、カルもお泊まりをする。


 決して、ふしだらな関係ではない。両親公認の清い男女交際だ。


「さっすが、カル! 本当にカルはわたしのことを何でもお見通しだね」

「はは、きっとスーフェのことで知らないことなんてないかもしれないよ?」

「えぇっ、恥ずかしいなぁ。でも、体重だけは秘密だよ」

「……」

「まさか、知ってるの!?」

「さあ、どうだろうね。とりあえず、今日は体重のことは気にせずに、いっぱい食べようね」

「うん! ダイエットは明日から頑張るよ!」


 ダイエットは明日から。このセリフを言う人は、きっと痩せないと思う。





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