恋する乙女
「よし! 冒険者ギルドへ行って、マリリンに話を聞こう!!」
思い立ったら一直線。わたしは、王城から飛び出した。
「また、マリリンのところへ行くのか?」
「!?」
少しだけ億劫そうに呟いたルベの言葉に、わたしは心底驚いた。
(嘘、まさか、そんな……)
そしてルベに迫る。
「ルベ! どうしてマリリンだけマリリン呼びなの!? わたしのことはずっと“チビ”だし、カルのことだって“ガキ”なのに。どうしてマリリンだけ……はっ!? まさか、もうふしだらな関係に!?」
「ばかっ!! なんの意図もねえよ! ただ、マリリン以外に、アイツのことを何て呼べば良いのか思いつかないだけだ」
必死に言い訳をするルベ。
本来なら、言い訳をすればするほど怪しいと思うけれど、ルベの言っていることにわたしは同意する。
「確かに、あだ名ってセンシティブだもんね。納得。それならさ、これからはわたしのこともスーフェって呼んでよ!」
「……」
「ねえったら!!」
「あ、そう言えば、どうしてマリリンのところに行くんだ?」
ルベが秘技、話題転換の術を披露した。わたしはまんまと引っかかってしまう。
「そうそう、きっとステータスに日本語の表記がある人は、何らかの形で乙女ゲームに関係してる人なんだと思うんだ。マリリンも『心が乙女』って日本語だったでしょ?」
「ああ」
「きっと、王妃様の『不治の病』みたいな特別な設定で、そうだなあ、聖女様のベロニカが、マリリンが実は『心が乙女』なことに気付いて、悩んでいるマリリンの心を救ってあげたりするんじゃないのかな? マリリンもわたしたちに気付いてもらえて嬉しそうだったし」
ちなみに、これはわたしの乙女ゲームの知識ではない。想像だ。
正直言って、マリリンがどんな形で乙女ゲームに出てきたのかすら、全く思い出せない。
それからすぐに冒険者ギルドに着いた。だって、人気のないところから、転移魔法でサクッと一瞬だから。
「頼もぉ!!」
初めて訪れた時のように、わたしは冒険者ギルドの中に入った。もちろん一瞬にしてギルド内がざわついた。
そして、蜘蛛の子蹴散らすように、そこにいたみんなが去っていく。
「なんか、地味にショックなんだけど……」
今さらながら、本当に自分が悪役令嬢な気がしてきた。
けれど、マリリンだけは、変わらずに接してくれる。いや、すごく変わってはいたけれど。
「あら〜、スーフェじゃないのぉ、いらっしゃ〜い」
「マリリン! え? イメチェンしたの? 可愛い〜!! ちょっと見ない間に別人じゃん!」
ちょっと見ない間に、とは言ったけれど、一日二日ではない。
わたしが王城に行っているちょっとの間に、大改造、劇的、ビフォー&アフターが冒険者ギルドでも行われていた。
何ということでしょう! 美のカリスマという名の匠の手によって、見るからに男だったマリリンが、見事に“心は乙女”に変貌を遂げたではありませんか。
オールバックに後ろで一つ縛りだった髪型は、前髪を斜めに流し、下ろした髪はゴージャスに巻かれ、大人の色気がムンムンに。
超ナチュラルだったメイクは、ほんのり厚化粧に。アイシャドウはもちろんラメ入りで、チークもほんのり赤みを忘れない。つけまつげもバサァっとフサァっと付けて、極め付けは、気合の赤リップ。
ギルドの制服なんて脱ぎ捨てて、ボディラインを綺麗に見せる色っぽいワンピース、いわゆるボディコンに早着替え、もちろんピンクの扇子が武器代わり。
そして、勝負パンツも遊び心満載だ。けれど、それは、夜のお楽しみ。
冒険者ギルドの受付が、まるで銀座の高級バーのように、神々しい輝きを放ち始めました。
大改造、劇的、ビフォー&アフターを目の当たりにし、匠の真髄を肌で感じたわたしは、感激のあまり涙が出そうになった。
そして、質問攻めにする。
「なになに? その髪型は自分で巻いたの?」
「ええ、化粧もぱぱっと仕上げたわ。うふふ、どうしてか、すぐにルベちゃんに会える気がしたの。だ・か・ら、可愛い姿を見せたくて」
わたしの頭の上で、ルベがブルっと震えている。けれど、わたしとマリリンは、そんなことは気にしない。
「すごーい! 恋する乙女全開だね! でもルベはあげないからね。あ、お洋服も変えたんだね。やっぱりマリリンは、こっちの方が似合う気がする。よっ、セクシーマリリン!」
ピンクのジュリ扇がとっても気持ちよさそうで、堪らずわたしはもふもふしてしまう。
「うふふ、ありがとう。マリオなんて書かれた名札なんて綺麗さっぱり燃やしてあげたわ。それで、どうしたの? やっぱり事件だったの?」
すっかり本題を忘れていた。けれど、今のマリリンを見て、忘れるな、と言う方が難しいと思ってしまう。