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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第一章
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綺麗な魔石は鑑賞用

 今日はわたしの七歳の誕生日。


 貴族のご令嬢としての教育やマナーをしっかりと学び、今では模範的で淑やかな麗しのご令嬢まっしぐらだ。


 ……もちろん、思いっきり猫をかぶっているのだけれど。


(でも、礼節を学んでおいて損はないはず。冒険者だって、お偉い貴族の方々と接する機会はあるはずだもの)


 全ては、冒険者になった時のため。それなのに、相変わらず魔法を使えることを公にせず、地道な訓練に勤しんでいる。


 それもそのはず、今の生活にとても満足をしているわたしは、わざわざそれを壊したくはない。


 それくらい、わたしの家族はあたたかい。今も、わたしのための誕生パーティーを開いてくれているのだから。


「スーフェ、お誕生日おめでとう」

「スーフェちゃん、お誕生日おめでとう」

「ありがとうございます! お父様、お母様」


 わたしの目の前には、豪華な料理が所狭しと並んでいる。


 おめでとうの言葉だけでも嬉しいわたしにとって、今日という日は、転生して(生まれて)きてよかった、と再認識する日でもあった。


 前世のわたしがトラックに轢かれて死んだ日でもあるのに、不思議とそのトラウマはなく幸せに思えるのだから、本当に運命って分からない。



 その日の夜、自分の部屋で就寝する準備をしていると、お父様がわたしの部屋を訪ねてきた。


「スーフェ、入ってもいいかい?」

「はい、お父様。どうされたのですか?」


 笑顔で部屋に入ってきたお父様の手には、小さな箱が大切そうに抱えられている。


「スーフェ、これは秘密のお誕生日プレゼントだよ」

「嬉しい! ありがとうございます!!」


 その小さな箱を手渡されたわたしは、ドキドキしながらその箱を開けた。その中に入っていたものは……


「うわぁ! 綺麗な石。ありがとうございます」


 一眼見た瞬間、わたしの胸の高鳴りが最高潮に達した。宝石のように輝くとても綺麗な石だったから。


「珍しくて、綺麗な魔石が手に入ってね」

「珍しい、魔石?」


 わたしが首をこてりと傾げると、お父様は得意気に説明してくれた。


「私の仕事は知っているよね? 魔石や魔導具を作る仕事をしているってことは?」

「はい。お城で働いているんですよね」


 お父様は、王城で魔石の研究をしている。魔石を使った魔道具の開発にも携わっていて、実はとてもすごい人だったりする。


「魔石に魔力や魔法を込めると、自分では使えない魔法が使えるようになるんだよ。けれど、この魔石は魔法を込めて使うのではなく、“何か”を吸収する力を持っているんだ」

「吸収?」

「そう。ただ、今までの検証結果だと、魔力があったり魔法が使える人の場合、まずは魔力や魔法が吸収されてしまう。だから、むやみに触れてはいけないよ」


 お父様の言葉を聞いたわたしは、魔石に触れようとしていた手をパッと引っ込めた。まさに危機一髪。


「あの、魔法が使えない人は、どうなるのですか?」

「私の場合は、何も起こらなかった。……何も起こらないことほど残念なことはないよ。実験用の小さい魔石だったからかもしれないけれど。でも、一瞬だけ目眩がした気はしたんだよな」


(目眩? お父様ってば、さりげなく危険なことを言ってませんか?)


 ちなみに、力の強い魔石や大きい魔石の場合、それだけ、その魔石の効果も強くなるのだという。


(そう考えると、とっても大きい吸収の魔石をお父様が触ったら、何を吸収されてしまうのだろうか? 恐ろしや……)


 そうは思いつつも、お父様があからさまに落胆した表情をしていたので、わたしは思わず笑ってしまった。


「ふふ、おもしろい魔石ですね」

「吸収の魔石は、この特別な袋に入れて持ち歩くんだよ。この袋は魔法などの効果を絶縁してくれるんだ。この魔石を使う時は、うまくこの袋を活用して、直接魔石に手を触れないように気を付けるんだよ」

「はい!」


 元気よく返事をしたわたしだけれど、お父様の説明に、とても使いづらい魔石なんだな、ということを真っ先に理解した。


(咄嗟の時に袋から出す余裕なんてないだろうし、直接手で触れてはいけないだなんて、間違いなく鑑賞用だな。それよりも、この袋の生地でお洋服や着ぐるみを作ったら、最強の冒険服になるじゃない!!)


 あろうことか、魔石よりもオプションである袋に、わたしの興味が唆られていた。


 やっぱり全ては冒険者になった時のため。結局は、冒険者へなるという夢を諦められないわたしがいる。


「どうして、わたしに吸収の魔石をくれるのですか?」


 何だかんだ思いつつも、お父様がわたしにこの魔石をくれる本当の目的があることくらい分かっている。だから素直に尋ねてみた。


 わたしの言葉に少しだけ躊躇いつつも、お父様はその質問に答えてくれた。


「……もしも、呪術がスーフェの身に降りかかろうとした時、きっとスーフェのことを守ってくれるよ。呪術に限らず、スーフェに攻撃しようとする魔法からも、守ってくれるはずだから。私もフェリシアも持っているんだ」


 使い方が不便なんだよね、と笑いつつも、表情に暗い影を落としたのを、わたしは見逃すことができなかった。


(呪術って魔術の一種だよね? 呪術から身を守るためだなんて、恐ろしい人に命を狙われてるの!? もしかして、魔法を使わないことにも関係があるのかな?)


 わたしは意を決して尋ねた。聞くなら今しかないと思ったから。


「お父様、どうしてみんな、魔法を使わないようにしているのですか?」

「……私に魔力がないから、みんなが気を使ってくれているのかな?」


 微かに驚きの表情を見せたお父様は、すぐに笑い直し答えてくれた。


 普通の7歳の子供になら気付かれないくらい上手く取り繕っていた笑みに、わたしはその答えが嘘だと分かっていても、それ以上問い質すことなどできなかった。


 お父様に「魔力がない」というのは嘘ではない。もちろんマーサみたいに隠蔽しているわけでもない。お父様は「魔力がゼロ」というとても希少な存在だ。


 今まで、さり気なくいろんな人を盗み見てきたわたしは、実はみんな大小あれど、魔力を持っているということを知った。


 もちろんお母様も。むしろお母様の魔力量は膨大なものだと思う。


「やっぱり魔法を敬遠しているのは、お母様だけなんだよね」


 お父様が去っていった部屋で、わたしは一人、ぽつりと呟いた。






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