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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第三章
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ギルド試験

 わたしは試験を受けるため、試験会場となる冒険者ギルドの裏口へと連れて行かれた。


 裏口を抜けると闘技場に至る。そこは天井のない吹きっさらし。闘技場という名の空き地だ。


 ここでなら、思う存分暴れてもいいとの説明を受けた。


 試験の相手には、やっぱりと言うべきか、先ほどわたしに絡んできた男が名乗りを上げた。あるある。


 それなりに実力はあるものの、最近では思うように冒険者としての実績が挙げられず、鬱憤が溜まってしまっているらしい。あるある。


 その鬱憤を晴らすため、初心者の冒険者にうざ絡みしては、虐めて遊んでいるらしい。あるある。


 試験は簡単。相手を倒せばいいだけ。殺すのはご法度だ。制限時間は特に決まってはいない。


 試験官が止めの合図をするか、どちらかが降参をして終わることが殆どだという。


 結果はもちろん秒殺だった。あるある。


 正確に言うと、諸事情により少しだけ時間がかかってしまったのだけれど。


「すみませんでした!!」


 ギルド内にいた男たち全員が平謝りしてくれた。試合相手だけでなく、男たち“全員”が。


 それもそのはず、わたしは開始の合図とともに、盛大な風魔法を披露した。あるある。


(やっぱり降参させるだけなら、風魔法が一番手っ取り早いだろうな。怪我をされても嫌だし。わたしってば優しいなあ)


 試験官はマリリンだった。マリリンの試合開始の合図とともに、竜巻のような突風が、わたしのことを嘲笑っていた男たちを飲み込む。


 頭上空高く、ひたすらぐるぐると回る。今も。


 かろうじて男たちの叫び声が聞こえてくるけれど、何を言っているかまでは聞こえない。故に、降参しているかどうかも分からない。


 だから、わたしは止めない。止められないからだ。


「終わりの合図、まだかな?」


 ちらりとマリリンを見た。マリリンが止めの合図をしないと、わたしは勝手に止められない。


「このままじゃ、上の人たち、死んじゃうかもしれないよね?」


 かろうじて、まだ声は聞こえる。死んだら困る。わたしは少しだけ、回転数を抑えた。

 

 どうしてマリリンが止めの合図をしないのかというと、それには理由があった。


 それは試合開始時に遡る



 試合開始の合図と同時に、予期していなかった突風が、マリリンにも襲いかかってしまった。


「きゃあっ!!」


 不覚にも、マリリンは乙女な叫び声とともに、目を瞑ってしまった。そして、


「あら? 何とも、ない?」


 ゆっくりと目を開けると、マリリンの目の前には、わたしの突風に対抗すべく、同じく風魔法で作られた防壁を使い、勇敢にマリリンを守る一匹の黒猫ちゃんの姿が。


 実は試合が始まる前にわたしはルベに、お願いという名の強迫をしていた。


「ルベ、秒で決着つけようと思うんだけど、マリリンのことを守ってあげてね」

「は? それくらい自分でできるだろ?」

「ノンノン。分かってないなあ。マリリンは心は乙女なんだから、守ってもらえたら嬉しいに決まってるでしょ。だから、よろしくね。じゃないと、ルベの心を盗むよ?」

「……チビお前、あれほどガキに止められただろ?」


 あれからわたしは、ルベの心を盗めないという、苦行を強いられている。


 どんなにもふもふが恋しくても、寒くて湯たんぽ代わりに猫肌が恋しくても、一緒のベッドで眠ることは叶っていない。


「ルベが、か弱い(心が)乙女を守ろうとしなかったから、仕方なく盗んだって言えば、丁度良い言い訳になるじゃない。そうすれば、今晩は祝杯代わりに、もふもふ祭だ!!」

「マジで、チビは最低だな。分かったよ。守ればいいんだろう?」

「ちえっ、残念。もふもふ祭が夢に消えた」



 そして今、マリリンを勇敢に守るルベの姿は、胸きゅん必須だ。


 尻尾をピンと伸ばし、凛としたその佇まい、漆黒の毛並みはカルに撫でられまくったおかげか、より艶々と輝きを増し、元魔王の風格も増し増しに感じさせるほど。


 心は乙女なマリリンは、見事にルベに心を盗まれていた。


 堪らず、わたしはルベに叫んだ


「ルベ、あれほどわたしには心を盗むなって言っておいて、どうして自分だけマリリンの心を盗んでるのよ! 最低!!」

「ば、ばか、チビ。俺にチビみたいな【盗】のスキルはねえよ。だから心なんて盗んでねえよ」


 けれど、人目見ればそれは明らかだった。


 マリリンの目はハートになって、一心にルベを見つめている。ポーッとしていて、心ここに在らずな状態だ。


 だから、一向に試合終了の合図がかからなかったみたい。


 急遽、ギルド内から、トレンチコートを着た職員が走ってきて、試合終了の合図をかけてくれた。


 もちろんわたしの勝ちである。けれど、わたしは喜んではいられなかった。


「と、とっつぁ〜ん!! 大変! ルベ逃げて!!」


 怪盗にゃパンのルベを逃すため、わたしは大声で叫ばなければいけなかったから。






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