にゃ界が平和な理由
羨ましいほどルベのことを撫で回しているカルの顔は、少しだけ怒っている。
ルベは、なかなか口を割らない。その間に、わたしは考えた。
(カルには言わない方がいいもの、って何かな? ルベは「今起きたこと」って言っていたよね? さっきわたしがしていたことって……)
「あ! もしかして、わたしがモノマネをしたことかな?」
少しだけ顔を赤く染めながら、わたしはカルに白状した。
「モノマネ?」
「うん。前世の可愛い女の子のモノマネだよ。でも、カルには恥ずかしくてできないよ」
一応、わたしにだって恥じらいはある。好きな人の前でモノマネをするなんて、ハードルが高すぎる。
「それにモノマネっていっても、全然うまくないし。だから、ルベもそんな下手なものを見せるなって思ったんじゃない?」
とは言うものの、本当は似てる自信もそれなりにある。毎日のように練習した渾身のモノマネだから。
けれど、カルに披露するならやっぱり話は別だ。明らかに準備が足りないから。故に、わたしは焦らす。
そんなわたしの告白に、カルは安心したようで、ふっと笑みを漏らした。
「なーんだ。そんなことか。じゃあ、いつか僕にも見せてくれたら嬉しいな」
「ふふ、じゃあ、練習頑張るね!」
わたしは決意した。
(よし! やっぱり虎縞模様のビキニを買おう! ツノも必要だよね。完璧に仕上げてみせる!!)
それになんの因果か、わたしには雷魔法が使える。……けれど、カルには使いたくない。
(その時は、ルベに落とせばいいか!)
ちらりとルベを見ると、ブルッと震えていた。
「スーフェ、綺麗になったね。また惚れ直しちゃいそうだな」
「もうっ、カルったら!!」
「浮気、しなかったよね?」
(もしかして、カルは領主の息子と一緒にいたことを勘違いしてるのかな? 嫉妬してくれてるの? ふふ、カルったら、わたしのことを大好きなんだから!)
カルがまた嫉妬してくれていたことに嬉しくなったわたしは、声高々に宣言する。
「当たり前じゃない! 浮気、だめ、絶対!! でも、寂しすぎて、ルベと一緒にベッドで……」
「わー、わー! わー!!」
わたしが話していると、突然ルベが騒ぎはじめた。
「ルベ、うるさいよ? それに『わー』じゃなくて『にゃー』でしょ!」
わたしがルベを嗜めていると、カルは笑っているはずなのに、目が笑っていない。
「……スーフェ、ルベさんとベッドで?」
「えっと、そう、一緒にね……」
「にゃー、にゃー! にゃー!!」
愚直な黒猫ちゃんのルベは、にゃーと騒いだ。
カルもわたしとルベの間に何かがあったと、容易に想像がついてしまったのか、ルベを睨み、そしてジリジリと近寄って行く。
「ルベさん、もう大体のことは聞いてるからね。だからきちんと答えて。スーフェにどこまで手を出したの? ルベさんにもお仕置きした方がいい?」
「手なんか出してねえよ!!」
間髪入れずに、ルベは否定する。けれど、余計なことを言う人がいる。もちろんわたしだ。
「ふふ、チューはしたけどね!」
「あ、ばか……」
「スーフェ!? 嘘!? 本当に? それは聞いてない!! 冗談じゃなくて?」
カルはどうしてなのか、とても驚いていた。
「ふふ、カルったらルベにまで嫉妬してくれるの? わたし嬉しくなっちゃうよ! それに猫ちゃんとチューくらいするでしょ? あ、もしかしてカルもルベとチューしたかった?」
能天気なわたしの言葉に、カルもルベも思いっきり首を左右に振る。物凄く嫌そうに。
「……ルベさん、洗いざらい全てを話してもらいますよ」
わたしに聞いてもやっぱり無駄だと思ったのか、カルはルベを問い詰めた。ルベは全てを話し始めた。
チビはとんでもないものを盗んだのです。自分の心を、と。
一部始終を聞いたカルは、流石にルベを責めることはできなかったみたい。
「はあ、それじゃあ、ルベさんは悪くないよ。ねえ、スーフェもいい加減気付けば?」
「え? 何に?」
「「……」」
わたしはもちろん全く気付いていない。
カルは本当は言いたいけれど、ルベの意を汲んでなのか、何も教えてはくれなかった。
ルベはルベで、本当のことを言わないのには、一応理由があるみたい。かと言って、もう今さら本当のことは言い出しにくい。
「とりあえず、金輪際、スーフェは心を盗むのは禁止!」
「え!? 嘘!? たまにならいいよね?」
「だめ! お仕置きだからね!!」
カルは断固として首を縦に振ろうとしない。わたしもわたしで引き下がらない。
「せめて、今晩だけは……」
「だめ、絶対!!」
カルは行き場のない心のモヤモヤを、ルベにぶつけるように、めちゃくちゃルベを撫でまくっていた。
「カルばっかりずるい!! わたしもルベを撫でたい!!」
「スーフェはだめ! 反省しなさい!!」
「えっ、どうしてそんなに怒ってるの?」
カルに怒られて、わたしは今までにないくらいしょんぼりだ。
ルベはルベで、カルに対して申し訳ない気持ちでいっぱいなのか、カルの気の済むまで撫でられていた。
(あれ? そう言えばルベって魔王だよね? やっぱり、にゃ王の間違いだよね?)
こんなルベがにゃ王(魔王)だったからこそ、にゃ界(魔界)は平和だったのかもしれない。