勝負の行方
そして、あっという間に勝負の終了時間になった。
時計広場では、たくさんの牛さんがモーモーと鳴いている。人の数よりも、牛さんの数の方が多いのではないか、というほどだ。
「ふふ、こうして一緒に散歩をしてみると、牛さんも意外と可愛いんだね! これからも美味しいミルクをいっぱい作ってね!」
ミルクはルベの大好物。コックス村の牛さんたちのミルクは、とても新鮮で格別に美味しかった。
そんなわたしに、両手にマダムのお祖父様が、うざ絡みしてきた。
「スーフェちゃんは、早々に負けを認めて、牛と戯れとるんか? 牛にモテて良かったでちゅね〜」
「あら? お祖父様こそ、何でも言うことを聞く覚悟はできているんですか?」
「ふぉっふぉっふぉ、わしが負けるはずがないからのう。コックス村には男よりも女の数の方が多いんじゃ。村人全員が来たようじゃけど、わしの勝ちに決まっとる」
「それを分かってて、わたしに勝負を持ちかけて来ましたよね?」
「ソンナワケナイジャロ」
見え見えの嘘を吐くお祖父様に、わたしはため息しかでない。
結局、村人全員が時計広場に集まっていた。そこに牛さんもいるから、わちゃわちゃとしていて、どうしようもない状態だ。
(この村の人たちは、暇なのかな? でも、お祭りのように楽しんでいるみたいだから、これはこれで良しとするか!)
コックス村の村人たちは、みんなとても楽しそう。あちらこちらで、賑やかな笑い声が聞こえてくる。
(こんな村なら、確かお祖父様がここで老後を過ごしたいと思うのも頷けるな)
初めはやばい村だと思っていたけれど、ある意味みんなが家族のようであたたかい。
それはそうと、勝敗をはっきりしておかなければならない。
「では、お祖父様。さっさと勝敗を確認いたしましょう」
「確認するまでもないじゃろ? わしの勝ちじゃ」
「もうっ! 確認してください!」
「潔く負けを認めればいいのに。仕方ないのう。契約書、オープン! さあ、結果を表示してくれ」
----勝者 スフェーン・オルティス
「なんじゃこりゃあっ!!!!」
驚きのあまり、顎が外れそうなお祖父様に向かって、わたしは余裕の笑みを浮かべていた。
「ということで、お祖父様、負けを認めてください」
「嘘じゃ。絶対にありえん。わしは村中の女性を連れてきたんじゃ」
「間違いではありません。わたしも村中の異性に来ていただきました」
「なら、わしの勝ちじゃろ?」
わたしは自信満々に指を刺した。その指が差す方向にはもちろん--牛!!
「わたしは牛さんも連れてきました!」
「は?」
「だから、雄の牛さんです」
「はあ?」
タイミングよく、一頭の牛さんがわたしの元へと擦り寄ってきた。
(牛さん! ナイスタイミング!!)
けれど、お祖父様は、わたしが何を言いたいのか理解できないようだ。
「お祖父様、勝負の内容は覚えてらっしゃいますか?」
「異性を連れてくることじゃろ? それくらい覚えとる」
「はい。だから異性です」
「まさか……」
「わたしは女です。牛さんは雄です。異性です」
牛さんは、見事なタイミングでお祖父様にお尻を向けた。紛れもなく「俺は雄である」と。
(あら、この牛さん、とってもお利口だわ!)
それでも納得がいかないのか、お祖父様は、フンとそっぽを向く。
「わしはあの言葉なんて絶対に言わんぞ。負けは認めん!!」
だから、負けじと牛さんが、またも見事なタイミングで、フンをしてくれた。ぼたぼたっと。
それを目の前で見てしまったお祖父様は、思わず叫んでいた。
「ギュウフンっ!!」
わたしはお祖父様に「ギャフン」ならぬ「ギュウフン」と言わせた。最後まで、非常にくだらないということは十分に分かってる。
もちろんお祖父様にはきちんと「ギャフン」って言い直してもらった。だって、契約だもの。
「それと、何でも言うことを聞くってお約束は、ここに集まった男性の方々に、お祖父様の武勇伝、女関係のではなく、冒険者としての武勇伝を話してあげてください」
「そんなことでいいんか? わしはスーフェちゃんに身も心も捧げるつもりじゃったんじゃが?」
「うわっ、気持ち悪っ!! 絶対に願い下げですから!! 今後一切わたしに近寄らないでください!!」
「冗談なのに、酷いのう……」
冗談ではなさそうだった感が否めない。
「ここにいる男性のみなさんは、お祖父様のお話を聞きたくて、ここに来てくれたんですから! きちんと満足させてあげてくださいよ!!」
最後には、お祖父様に花を持たせてあげる、じじい思いのわたしであった。
(うまくいって良かった! わたしの【盗】のスキルを使うまでもなかったしね)
今回の勝負、被害者は一人も出さずに無事に幕を閉じた。
……ように見えるけれど、実は最大の被害者、ならぬ被害猫ちゃんが、一匹いたらしい。