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黒猫従魔と旅に出る。  作者: 海伶
第一章
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前世のわたし

(マーサが嘘をついている……)


 いつもと変わらぬ様子で、わたしのお世話をしてくれているマーサを、わたしはちらりと盗み見る。


(今は、隠蔽していない)


 あれから、何度もマーサを盗み見てきたのだけれど、マーサはわたしの前では魔力を隠蔽していないことが分かった。


 隠蔽していない今は、マーサに魔力が流れていることがわたしには見える。


 しかも、わたしの周りは相変わらず心地よい温度が保たれているので、わたしの赤ちゃんライフは快適だ。……と言うことは、魔力を隠蔽していないのは、きっとわたしのためなのだろう。


(この国は魔法の国のはずなのに、どうして魔法を使ってはいけないのかな? それに、マーサはどうして魔力を隠蔽してまで嘘をついてるの?)


 わたしの疑問は膨らむばかり。


(マーサは悪い人ではないはず。きっとマーサにも何か理由があるんだよね?)


 前世で培った観察眼がそう告げている、とでも言うべきか。わたしはマーサを信じようと心に決めた。


 それに侯爵家の使用人という好待遇職に就けるのなら、魔力を隠蔽してでもなりたいと思うかもしれないし。


(マーサが魔力を隠蔽するくらいだから、やっぱり魔法が使えることは、できる限り隠しておいたほうがいいのかも……)


 長年に渡りオルティス侯爵家に勤めているマーサが、魔力を隠蔽しているという事実は、魔法を使わない方がいいのではないか、というわたしの思いを後押しした。


 そして、葛藤した結果……


(決めた! マーサと()()()()()自分の魔力を、魔法やスキルも含めて、全て【隠蔽】して、うまく隠しながら訓練に励もう!)


 そう決意した。



(はあ、それにしても、本当に私がラノベあるあるの“トラック転生”をすることになるとはね……)



 

 ******




 思い出すのも結構辛いわたしの前世。だって、両親を幼い頃に亡くしてしまったのだから。


 そんなわたしは、両親の遺産目当ての親戚に引き取られ、肩身の狭い思いをしてきた。けれど、育ててもらえただけ、ありがたいのかもしれない。


 親戚家族との会話はほとんどない。あの人たちにとって、わたしは厄介者だったのだろう。


 何を聞いても、蔑んだ目で見られるものだから、わたしは次第に聞くことを諦め、自分で考え、目で見て盗むことを覚えた。


 そのおかげで、わたしの観察眼は鋭くなったと思う。


 奨学金を得て大学へ進学すると、迷わず寮暮らしを選んだ。目指すは安定した公務員。国語教師になるのが目標だった。


 そんなわたしの唯一の楽しみは、音楽と本を読むこと。


 特に宝石図鑑を眺めている時は至福の時間だった。小説を読むことも好きで、家族愛に溢れる物語や、自由気ままに旅をする冒険ファンタジーの世界に憧れた。


 わたしの手に入らないものだったから、余計に憧れたのかもしれない。


 そしてあの日、念願の大好きなアーティストのライブの帰り道。トラックに轢かれそうな男の子を自分の命を省みず、身を挺して助けた……




 ******




 その結果が、今のわたしだ。


(あの時は、お父さんとお母さんのところに逝くことになるかな? って思ったけど、まさかこうなるとはね……)


 ベタすぎるトラック転生を経験した自分に、わたしは苦笑いすることしかできなかった。けれど、それは同時に希望でもあった。


(予想外のこともあったけど、転生先の家族がわたし溺愛の優しい両親で良かったな。使用人さんたちも良い人ばっかりだし。きっとあの自称神様(かみさま)が、わたしの願いをたくさん叶えてくれたんだね)


 前世では、本当の家族と思える存在は、幼い頃に居なくなってしまった。だからなのか、わたしは「家族」というものに強い憧れがある。


(もし、本当に魔法が禁止されていたとしても、優しい家族と一緒に平和に暮らしていけるのなら、そんな人生もありかなぁ……)


 なんて、しみじみと思ってみたりもする。


 ただ、せっかく魔法が使える世界に生まれたのだから、魔法が使えるようになりたいというのも、わたしの本音だ。


(まっ、人生何が起こるか分からないしね。いざ、という時のために、地道な訓練は継続しておこう!)


 備えあれば憂いなし。前世の知識として、少しでも手に職を持っていれば、人生の選択肢が増えることを、わたしは知っている。


 だからこそ、わたしは隠れながらも魔法の訓練をしようと心に決めた。


 そう、人生何が起こるか分からない。


 その言葉通り、一番肝心な約束が叶えられていないという、最大の悲劇がわたしを襲うのだから。






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