小悪魔な女の子
わたしとお祖父様による、世界一くだらない勝負の幕が開けた。
開幕して早々に、お祖父様が目の前を歩いていた女性を口説く。
百戦錬磨のスキルは、やはり本物らしい。即約束を取り付けていた。
「どうじゃ、今ならこの勝負をなかったことにしてあげても良いぞ?」
お祖父様の上から目線に、わたしはすでにご立腹。
「心配ご無用です。わたしが負けるはずなどありませんから。お祖父様こそ『ギャフン』と言う練習でもなさっててください」
「強がっていられるのも、今のうちじゃ」
お祖父様は次から次へと女性を口説いていった。本当に節操がない。
「さて、わたしはどうしようかな? お祖父様のように片っ端から声をかけてみる? ……正直面倒だよね。それに恥ずかしすぎるし」
わたしは全くやる気がなかった。けれど、ちょうどわたしの目の前に、昨日会った少年がいたので、声をかけてみることにした。
わたしの誘い文句は、
「わたしのために、時計広場に来てくれませんか?」
そんな可愛いらしいものではない。実際は、
「あ! 昨日の子だよね? お祖父様が、冒険者時代の話をしてくれることになったから、12時までに時計広場に集まってね。みんなにも広めてもらってもいい?」
「本当か! 絶対にみんな喜ぶよ!! 今から声をかけてくるね。父ちゃんたちも仕事を休んででも来るはずだよ」
お祖父様を餌に、この村の男性陣を呼び寄せる作戦だ。
あとは、この話が勝手に広まるのを待つだけ。一時間もあれば、確実に広まるという。
(あんな最低なお祖父様なのに、不思議と人気だけは、絶大なんだな)
だからこそ、昨日の少年たちと会話をした内容をもとに作戦を練ったわたしは、かなり勝算があると踏んでいる。
全くもって、わたしのモテ要素は皆無だけれど。
(こんなつまらない勝負、勝てればいいよね)
そんな些細なこと、全く問題ない。早く終わって欲しいとさえ思っている。
けれど、勝負には勝ちたい。確実に勝つために、もう一つだけやらなければならないことが残っていた。
「あとは、領主様の息子に会わなきゃ!」
……ということで、わたしはジャージャーうるさい領主の息子を探した。
お祖父様リスペクトの領主の息子にも、他力本願の決まり文句で、広場に誘い出すこと自体は何ら問題はないはずだ。
けれど、この勝負に勝つためには、領主の息子の協力が不可欠だった。
(あ、いた!)
「こんにちは! あの、お願いがあるんだけれど……」
わたしは自分の目的のために、お祖父様との勝負について領主の息子に話した。
「じゃあ、お前もいろんな男に声かけてるんじゃけえ?」
「わたし? そんな恥ずかしいことしないよ」
「ふーん。じゃあ、声をかけたのは俺だけなんじゃ……広場に俺も行った方がいいんじゃけえ?」
「もちろん来てほしいな。だって、あなたもお祖父様のお話を聞きたいでしょ?」
「……」
どうしてか、お祖父様作戦が通用しない。これはわたしの想定外の出来事だ。
「えっ、来てくれないの?」
だから、少しだけ上目遣いで瞳を潤ませてみた。わたしの知るモテテクだ。
「可愛く頼んでみるんじゃ。可愛くできたら行く」
「えっ……」
(今まさに可愛く頼んだっていうのに、スルーってこと!?)
せっかくのモテテクが通用しなかったことに、少しだけショックだった。
「できないんじゃ、やっぱりモテない女じゃけえ」
(何となくイラッとするけれど、仕方がない。やってやるか!)
わたしは前世の記憶を呼び起こした。わたしが今までで見た中で、一番小悪魔で可愛い女の子の記憶を。
わたしは渾身の誘い文句を披露した。
「ダーリン、来て欲しいっちゃ!」
(やっぱり小悪魔な女の子って言ったら◯ムちゃんよね。ラ◯ちゃんは悪魔じゃなくて可愛い鬼だっけ?)
渾身の出来に、わたしは大満足した。けれど、次の瞬間、顔から火が出るほど恥ずかしくなってしまった。
(そう言えば!)
モノマネをしたはいいけれど、ここは異世界。誰も◯ムちゃんを知らないはずなのだから。
(やっちまったか……)
ちらりと領主の息子の反応を窺うと、あからさまに目を逸らされた。
(オリジナルを知らなくても可愛いはず。それなのに、通用しない!? ってことは、わたしって本当にモテないってこと!?)
わたしはショックを受けた。けれど、領主の息子の答えは意外なものだった。
「分かった、行くじゃけえ」
「やったぁ!!」
(さすがラ◯ちゃん!! 異世界でもモッテモテだね!)
小悪魔な女の子は、やっぱり可愛いと思う。
(今度、虎縞模様のビキニでも買おうかな?)
後に、ビキニアーマーさえも着こなしてしまうわたしの露出狂は、きっとここから始まった。
「それとね、とっても大切なお願いがあるの。きっと、あなたにしかできないこと」
「なんじゃ? 何でも言ってみるんじゃ!!」
「たくさんの牛さんと、散歩がしたいの!!」
わたしのお願い事は、もちろん喜んで聞いてくれた。